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第10話:Last Dive
金属質のエアコン音が支配する早朝の開発フロア。
シスケープ第7開発ビルのセキュリティ照明が淡く灯り、
その中でユーヤは1人、ヘッドセットを装着していた。
黒のパーカーに落ち着いたネイビーのコート、
頬にかかる前髪の奥から、濃い影のある瞳が画面をじっと見据える。
端末には、社内では誰も開いたことのないログが浮かんでいた。
【FILE:NEOV_core_log_alpha】
【FLAG:開発初期プロトタイプ/感情トレース】
【MEMO:記録に残らない“心”の保存機能】
「……本当に、動くのか?」
ユーヤは誰にも言わず、その空間へと“Dive”した。
【NEO-V内部:深層ログ領域】
そこはマップも、敵も、UIすら存在しない、虚空のコード空間だった。
system_0のアバターのみが、宙に浮かぶように立っている。
一歩、また一歩。歩くたびに足元に光の軌跡が残り、
その道すがら、**誰かの記憶のような“感情フラグメント”**が再生されていく。
──「こんな世界でも、誰かと繋がっていたかった」
──「戦わない方法があるなら、選びたかった」
──「黙って、でもずっと見守ってる。それだけで良かった」
それは――彼の声ではない。だが、彼に似た声だった。
【戦闘:存在しない相手との交戦】
突如、光の歪みの中からアバターのない存在がユーヤに向かって突進してきた。
攻撃の意思も、守る意思も持たず、ただ“ぶつかるためだけの敵”。
ユーヤは反射的に回避。
左腕のブレードを引き抜き、カウンター動作0.2秒で打ち込む。
敵は消え、代わりにコード上に文字列が残った。
【Emotion Echo:我慢/迷い/願い】
【記録対象:不明】
ユーヤは、ふと立ち止まり、つぶやく。
「……誰が、こんな記録を残した?」
【NEO-Vコア:感情フィードバック装置】
最奥部。
system_0は、“大脳皮質を模倣した感応モデル”の前に立っていた。
そこにはこう記されていた。
【EmotionLink Core】
「NEO-Vは、ただの接続機器ではない。
人の“心”をログとして保存し、
“他者とつながる手段”として再生する装置である」
「……それって、COKOLO全体が、“誰かの心の断片”ってことか」
彼の指先が、装置に触れた瞬間――
目の前に浮かび上がったログの最初の名前がこうだった。
【ログID_000000】
【名前:ユーヤ】
【感情:守る、耐える、話さない】
ユーヤは、何も言わず、ただ目を伏せた。
【現実:シスケープ】
朝8時、出社してきた八巻がユーヤの席を見ると、
彼はヘッドセットを机の上に置き、静かに緑茶を飲んでいた。
モニターには何も映っていない。
ただ、ふと背後を見た八巻がつぶやく。
「なあ……今、オフィスの空気が、なんか……静かすぎないか?」
そのとき。NEO-Vの社内端末すべてに小さく、何かが“共鳴”する音が響いた。
> “ドクン……”