テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4,412
#デジタルイラスト
汚染
39
あめ猫@サボり魔
8,090
「ハァッ……、ハァッ、……」
『FORSAKEN』のフィールド――廃棄された採掘場の暗がりを、1x1x1x1は必死に駆け抜けていた。
「くそっ……! なんだ、これ……っ」
半透明の身体の内側から、暴走したマグマのような熱が脈打ち、全身の細胞を激しく焼き焦がしていく。
原因は明白だった。
発電機のトラップに仕込まれていた、スペクターの悪趣味な液体。
強烈な感度上昇と強い発情作用をもたらす、質の悪い媚薬。
吐き気をもよおすほどの甘い香りが脳を毒し、思考を「ある一つの欲望」で塗りつぶそうとしていた。
(シェドレツキー……ッ、逢いたい……っ)
(あいつに……触れられたい……)
「……っ~! 冗談じゃねぇ……!!」
湧き上がる願望を殺すため、1xは己の唇を血が滲むほど強く噛みちぎった。
ダメだ。
今の状態でシェドレツキーの前に現れれば、絶対に理性が保てない。
あいつを無茶苦茶に襲ってしまうか、あるいは惨めに「抱いてくれ」と泣きついて己の醜態を晒すことになる。
そんな屈辱、死んでも耐えられなかった。
1xは安全地帯である崩れかけの廃屋へ飛び込む。
手近にあった頑丈な手枷と、分厚い鉄の鎖を掴み取った。
「ハァっ…… あ……っ、手が、震えて……っ、くそ……!」
指先が熱で痺れ、枷の鍵を嵌めることすらおぼつかない。
それでも1xは、必死の思いで両手首に重苦しい手枷をはめ込み、その末端の鎖を廃屋の分厚いコンクリートの壁と柱へ幾重にも巻き付け、頑丈な南京錠で固く施錠した。
カチャン、ジャラジャラ……ッ!
冷たい金属が皮膚に食い込む。
これで、どれだけ暴れようとこの場所から動くことはできない。
「ハッ……はぁ……ッ、これで、いい……っ」
冷たい石の床に膝から崩れ落ち、1xは身体を丸めた。
だが、鎖で繋がれたことで行動が制限されると、逃げ場を失った体内の熱は一気に破裂した。
「あっ……、んぁっ……♡ 熱い……っ♡」
ドミノクラウンの下から覗く顔は真っ赤に染まり、眩しい赤目は涙でドロドロに潤んでいる。
半透明の身体から立ち上る黒緑の炎は、ピンク色の熱気を帯び、浅い吐息を吐き出すたびに甘い喘ぎ声が零れ落ちた。
摩擦の刺激すら欲しくて、1xは無意識に太ももを擦り合わせようとする。
しかし、ピンと張った鎖がそれを許さない。
ジャラッ、ジャラララッ……!
「う、ぁぁっ……♡ 触りたい……っ、シェドレツキー……っ、 助け……、」
自制心と激しい本能が擦れ合う。
「ううん、来ないで……っ! 頼むから……来ないでくれぇ……ッ」
自分が「不純物」として捨てられた過去のトラウマが脳裏をよぎる。
こんな情けない姿を見せたら、今度こそあいつに冷めた目で捨てられてしまう――。
その時だった。
バタンッ!!
廃屋の古びた扉が、激しい音を立てて跳ね開いた。
「1x1x1x1!! どこだ、返事をしろ!!」
息を切らし、1xを探していたシェドレツキーが飛び込んできた。
「1x……っ!?」
部屋の奥、暗がりの中で繰り広げられていた光景を目にした瞬間、シェドレツキーの足がぴたりと止まった。
そこにあったのは、冷たい床の上で全身を震わせ、金属音を響かせながら伏せる半身の姿。
「はぁっ……あ、ぁ……っ♡ し、シェド……レツキー……っ♡」
荒い息とともに漏れたのは、一度も聞いたことがないほど甘い擦れ声。
1xの赤目が、涙に濡れてシェドレツキーを見つめていた。
助けを求めるように。
そして拒絶するように。
「なんだよ、その鎖は……! 一体なにがあったんだ!?」
シェドレツキーが駆け寄ろうとした瞬間、1xは囚われた両腕を必死に振り上げ、鎖を激しく鳴らして叫んだ。
「来るなッ……!! 近寄るな、バカシェドレツキーぃ……っ」
ジャラジャラジャラッ!!
「頼むから……ッ、あっち行けよぉ……ッ、 俺に……触るな……っ、俺を見ないでくれぇっ……」
絶望に満ちた叫び声。
その声は媚薬の毒によって乱れた吐息とともに、廃屋の静寂の中に響き渡った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!