テラーノベル
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「行くぞ、現場(ハコ)へな」俺はエンジンをかけ、パトカーを平成15年に事件が起きた郊外の旧家へと走らせた。
20年前の強盗殺人事件。
当時の捜査資料によれば、現場となったのは田園地帯にポツリと佇む旧家の母屋だった。当時は資産家だった被害者夫婦が惨殺され、家の中は荒らされていたというが、現在は持ち主不在のまま、雑草に囲まれた廃屋として放置されている。
「……うわ、なんかここ……空気めちゃくちゃ重くないですか……?」
助手席の佐藤が、鳥肌を立てながらハンドルを握る俺の腕にしがみついてきた。車窓の外には、夕闇に沈む薄気味悪い日本家屋のシルエットがぼんやりと浮かび上がっている。
「当たり前だ。20年前の怨念が染み付いてるような場所だかんな。ビビってんなら車で待ってろ」
「い、いやです! 怖いけど……渚ちゃんが頑張るのに、俺が車で待ってるとか刑事のプライドが許しません!」
震えながらも気丈に振る舞う佐藤を無視し、俺は後部座席を振り返った。
「渚、大丈夫か?」
後部座席で静かに目を閉じていた渚が、ゆっくりと瞼を開けた。その瞳には、恐怖ではなく、どこか哀悼の色が宿っている。
「……うん。行こ、峯岸さん」
俺たちは車を降り、雑草をかき分けながら荒れ果てた庭へと足を踏み入れた。
ギシギシと音を立てる引き戸を無理やりこじ開け、懐中電灯の光を頼りに家の中へ侵入する。
カビと埃の匂い。剥がれかけた壁紙。
20年前の惨劇の痕跡はほとんど消えかけていたが、空気に淀んだ冷気が、ここが「地獄の入り口」だったことを嫌でも物語っていた。
「……ここだよ」
渚が足を止めたのは、母屋の奥にある薄暗い和室だった。
事件当時、被害者の夫婦が眠っていたとされる寝室だ。床板には、今でもうっすらと古い血の跡のようなシミが残っている。
渚は静かにその床の前に膝をついた。
「……渚、無理はするなよ。20年前だ。魂の形すら残ってねぇかもしれねぇ」
俺が声をかけると、渚は小さく首を横に振った。
「……ううん、残ってる。20年間、誰もこの部屋に入れてもらえなくて、ずっとここで怯えながら……『誰か』を待ってたから」
渚はそっと、冷たい床板に右手を重ねた。
その瞬間——。
室内の空気が一変した。
窓もないのに、凍てつくような冷たい風が部屋中を駆け抜け、佐藤が「ひっ……!」と短い悲鳴をあげて壁際にしがみついた。
渚の身体が激しく硬直し、その小さな肩がガタガタと震え始める。
20年前の夜。押し入ってきた男の足音、怯える夫婦の叫び、そして冷たい刃物が肉を裂く音——時効という長い闇に葬られた惨劇の記憶が、濁流となって渚の脳内に叩きつけられる。
「……がっ……は……っ……!」
「渚っ!!」
俺はたまらず渚の身体を抱き起こそうと手を伸ばした。だが、渚は自分の右手で床を強く掴み、必死に歯を食いしばった。
逃げない。この痛みを、恐怖を、すべて受け止める。
そう言っているかのように、渚の目から一筋の涙がこぼれ落ち、埃まみれの床板に吸い込まれていく。
「……見えた……!」
渚の唇が震え、掠れた声で叫んだ。
「犯人は……知らない男じゃない……!」
「なに……!?」
俺と佐藤が息を呑む。
「被害者のおじいさん……殺される直前、犯人の顔を見て、こう言ったの……『お前は……あの時の……!』って……!」
渚は必死に記憶の糸を手繰り寄せ、犯人の特徴を言葉に絞り出す。
「顔の右側に……古い火傷の痕……! そして、犯人の首から下がっていた……金色の懐中時計のチェーン……!」
火傷の痕。金色の懐中時計。
その特徴を聞いた瞬間、俺の脳裏で20年前の未解決事件のファイルと、現在の警察組織の図式が恐ろしいスピードで噛み合った。
「……金色の懐中時計のチェーン……っ!?」
俺は胸ポケットから、鴨志田から投げつけられた20年前の捜査資料を荒々しく引っ張り出し、ページをめくった。
当時の現場検証報告書。盗まれた貴金属のリスト。
その中に——被害者の遺族である「息子」が、父の形見として警察に提出していたはずの品の名前があった。
『遺失物:金無垢の懐中時計(チェーン付き)』
「……おいおい、嘘だろ……」
背筋に冷たいものが走る。
被害者の息子。20年前の強盗殺人事件で両親を失い、現在は政財界の大物投資家として警察に「犯人の名前を知りたい」と多額の寄付を持ちかけてきた男。
——その男の右頬には、子供の頃の事故で負ったとされる「消えない火傷の痕」があったはずだ。
「峯岸さん……?」
青ざめる俺の顔を見て、佐藤が震える声で尋ねた。
渚もまた、過呼吸の息を整えながら、俺をまっすぐに見上げていた。
時効の壁の向こう側に隠されていた真実。
警察組織が手柄のために飛びつこうとしたその事件の本当の「悪魔」は、被害者面をして俺たちを利用しようとしていた遺族その人だったのだ。
俺は拳を強く握り締め、歯を鳴らした。
「……ふざけやがって。地獄の底まで、あのクソ野郎の仮面を剥ぎ剥ぎ取ってやる」
コメント
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第27話、めっちゃ熱かったしゾッとしたわ……! 廃屋の空気感、渚ちゃんが痛みに耐えながら記憶を受け止めるシーン、どれも映像が浮かぶようだった。特に「金色の懐中時計のチェーン」から一気に真実が繋がる流れ、鳥肌立ったよ。 被害者面してた遺族が真犯人って、まさかの展開すぎる…峯岸さんの怒りに完全にシンクロした。 続き、めちゃくちゃ気になる🔥
前職は舞妓
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きょう
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