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前職は舞妓
425
きょう
171
「……おい、嘘だろ」胸ポケットから引っ張り出した20年前の捜査資料の手帳。そのページを繰る俺の指先が、ガタガタと震えていた。
被害者の息子であり、いまや政財界の大物投資家として鴨志田に多額の寄付を撒き餌にしていた男——**葛城(かつらぎ)**。
そいつの経歴と過去の交友関係を記した資料の隅に、見覚えのありすぎる名前が記載されていた。
『平成20年 某IT関連企業の設立に参画。共同出資者:皐月 幹雄』
「……さつき……みきお……?」
俺の口から漏れた呟きに、息を整えていた渚が反応した。
「……峯岸さん? それ……お父さんの名前……」
「……っ!」
心臓が嫌な跳ね方をした。
息が詰まる。喉の奥がカラカラに乾いていく。
俺は狂ったように資料のページをめくった。
20年前、両親を惨殺して遺産を独り占めし、それを元手に起業して成功を収めた葛城。そしてその裏で、葛城の不正や過去の罪の影に勘づき、告発しようとしていたのが——渚の父親、皐月幹雄だった。
そして三年前。
渚のご両親が命を落とした、あの原因不明の住宅火災。
警察の上層部は当時、ただの事故として処理した。三年前の俺は真相に辿り着けず、悔し涙を呑んだ。
だが……違ったんだ。事故なんかじゃない。
葛城は、自分の20年前の強盗殺人の過去と不正を暴こうとした渚の両親を消すために、殺し屋を使って放火させた。
そして、その揉み消しに一枚噛んでいたのが——当時、現場の捜査を早期収束させようと圧力をかけてきた、警察内部の人間。
鴨志田だ。
「……全部、繋がってやがったのかよ……!」
俺は手帳を泥の中に叩きつけたい衝動を必死で抑え込み、激しい殺意で視界が赤く染まるのを感じた。
三年前、俺が守れなかった渚の両親の死。
渚がずっと追い続けてきた、あの惨劇の夜の本当の真相。
目の前で起きた20年前の時効事件と、渚の奪われた過去が、一本の醜悪な糸で固く結ばれていた。
「峯岸さん……? どうしたの……? お父さんが、どうかしたの……?」
渚が不安そうに、俺のスーツの裾を小さく引っ張った。
死者の声を聞き、激痛に耐えてここまで真実を繋いできた16歳の少女。その瞳には、まだ何も知らない純粋な戸惑いが浮かんでいる。
(言えるか……? 今ここで、お前の両親を殺した本当の黒幕が、この事件の裏にいるなんて……)
「……先輩」
隣で資料を覗き込んでいた佐藤も、事態の重大さに気づいたのか、顔から血の気が完全に引いていた。
「これ……マジですか……? じゃあ、三年前のあの火事は……鴨志田管理官も……!」
「黙ってろ佐藤!」
俺は一歩前へ踏み出し、渚の視界を遮るようにその肩を強く抱きしめた。
震える渚の小さな身体。冷たくなったその背中を、俺の分厚い手で包み込む。
「峯岸……さん……?」
「大丈夫だ、渚」
俺は歯を食いしばり、地獄の底から絞り出すような低い声で囁いた。
「俺が……俺たちが絶対に、落とし前をつけてやる。お前のお父さんとお母さんを苦しめた奴も、20年前にこの家で二人を殺した奴も……一枚残らず仮面を剥ぎ取って、地獄に叩き落としてやる」
「……え……?」
渚の瞳が大きく揺れた。察しの良いこの子は、俺の言葉の意味を半分以上理解したのだろう。小さく唇を震わせ、俺の胸元に顔を埋めて拳を握りしめた。
時効? 警察組織の都合? 鴨志田の手柄?
そんなもの、知ったことか。
法律で裁けないなら、俺たちのやり方で追い詰める。
20年間の未練も、三年前の絶望も、全部まとめて清算の時だ。
「行くぞ、佐藤! 鴨志田と葛城の化けの皮、引き剥がしに行くぞ!!」
「はいッ!! 先輩、どこまでもついていきます!!」
俺たちは廃屋を飛び出し、愛車のエンジンをけたたましく吹かせた。
夜の闇を切り裂き、赤色灯の光が一直線に街へと伸びていく。
渚の止まった時間を動かすための、最後の戦いが始まった。
コメント
1件
うわああああ第28話やばすぎる…!!😭💥 20年前の事件と三年前の火事が一本の線で繋がった瞬間、鳥肌が止まらなかったよ…!峯岸さんが渚ちゃんを抱きしめて「落とし前つけてやる」って言ったシーン、マジでグッときた🥺✨ 渚ちゃんまだ全部知らないのに、察しちゃって拳握りしめるの…切なすぎる…。 鴨志田と葛城の仮面剥がすラストスパート、最高に熱い!!応援してる!!🔥🔥