私の名前はレオニーダ・ウエスギ(Leonida Uesugi)。
イタリア南部、地中海のすぐそばの港町に生まれた。
母親は日本人、父親は日系イタリア人だ。
レオニーダというのはイタリアの男性名、日本名は上杉玲。また、イタリア語でLei(レイ)というと、少しかしこまった「あなた」という意味になるので、イタリア人も面白がって、私のことをレイと呼ぶ。
私は真面目な子供で、昔から成績は上位、教師からは常に将来を期待されていた。
高校に入ってすぐの頃、カフェで本を読んでいた私は、斜め向かいに座っていた一人の紳士と目が合った。
その男は、口調こそ穏やかで、立ち居振る舞いに丁寧さはあるものの、どこか普通の人とは違う空気を漂わせていた。
男は黙って席を立ち、私のテーブルのわきを通ると、その時に私の足元に、一枚のレシートを落としていった。
こんなものを他人の足元に捨てていくなんて、と思ったものの、そのレシートの裏に何か書かれているのに気がついた私は、慌ててそれを拾い上げた。
そこには、
Leonida
Vieni a trovarmi qui domani alle 20:00
(レオニーダ 明日の夜8時に、私に会いにここに来なさい。)
と書かれていた。
どうして彼は、私のことを知っていたのだろう。
次の日、約束どおりそこに行くと、例の紳士がいた。
彼は私に、すぐ向かいに座るように合図した。
私が席につくが早いか、紳士は一瞬のうちに一つの封筒を私の方へ滑らせた。
「今は開けるな」
男は声を出さず、口の形だけでそう伝える。
そのまま昨日のように、男は席を立ち去ってしまった。
その日の夜遅く。
家でこっそりと封筒を開けた私は、その手紙の内容に衝撃を受けた。
高校教師の中にはマフィアからのスパイが紛れ込んでおり、今後の構成員とするために、成績優秀な生徒たち数名を引き抜いているというのだ。
ギャング映画やスパイ映画に憧れを持っていた私は、家族には極秘で、これを受けた。