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災厄とは、どういうものだったのか。
混沌が復活することによって起きる異常気象のような物だと教えられた。それを止めるために、混沌を封印するために、聖女が召喚されるのだとか。
確かに、混沌が復活するときに一緒に巻き起こる物が災厄だとするのなら、混沌が悪いじゃないかと言う話になるのは説明がつくわけで。混沌が何もしなくても、まわりが以上になっていくみたいなそんな現象。
凶作、日照りや洪水、地震、異常気象という物は次から次へと起きる。そして、魔物が凶暴化して、襲い掛かってきて、人間達は疑心暗鬼になりお互いに殺し合うと。そんな所なのだ。
「どうすれば、災厄は止められるの?」
『災厄は止らない。災厄って言うのは、人間にとっての災厄だけど、やり直しとか、そういう意味も含まれるんだ』
膝の上に乗ったファウダーはいった。
未だ、元の空間に戻っていないのは、ファウダーにどうすれば災厄を止められるか聞いているからである。この子に攻撃の意思はないようで、私の足の上でパタパタと短い足を動かしているだけだった。
本当にこうみるとただの子供に見える。だが、見えるだけで、実際子供でも何でもない、未知の存在。そこは、恐ろしくは思うけど、私が理解できていないから怖いと思うだけで、この子自体が本当に怖いわけじゃないのだ。未知のものに恐怖を抱くのは仕方のないことだろう。
「それって、嵐みたいな……何だろ、ノアの箱舟みたいな……あー違うか、えっと」
『世界滅亡に近いけど、そうじゃなくて、何人かだけ残ってまたこの星を作り直す的な奴なんだよ』
「的な奴……」
『エトワールがそう言ってたから、そう真似してみただけ』
と、ファウダーは笑った。
私の真似をしたのかと……と、苦笑いしてしまったが、ファウダーの、この空間にいる時点で、まあ、私の思考だったり記憶だったりは筒抜けだろう。それもまた、良いとして。
(子供ってすぐ大人の真似するから、本当にファウダーって小さいんだなあ……弟が出来て可愛いけど)
そんなこと言ったら、トワイライトにずるいですと、また言われそうなところだったが、このこの兄は、ブライトな訳だし、ファウダーのことは、ブライトに任せたいと思う。彼が、ファウダーを受け入れてくれることを願うばかりだが。
「そう……じゃあ、止められ無いって事?その何人か生き残るまで?」
それって、デスゲームじゃん。何て心の中でツッコミを入れながら、私は、大きなため息をついた。混沌が味方になれば、災厄を止る物だと思っていたけれどそうじゃないとしたら。この空間を抜けた先では、あの惨劇が……考えるだけで頭が痛い。
「じゃあ、どうしようもないって事?」
『そう。嵐が過ぎるのを待つしか無いんだよ』
「……見捨てろって事?」
『んー』
と、ファウダーは考えるような素振りを見せた。
でも、止められ無いのなら、もう……と、私も諦めそうになっていた。混沌を封印すれば、災厄は止るだろう。だが、私はファウダーを封印しないと決めた。と言うことは、災厄は終わらないと云うこと。それこそ、災厄の本当の意味である世界のやり直しが終わるまでは。
『でも、エトワールは、皆を助けたいんでしょ?』
「そりゃ、出来るならそうしたいよ。それが、私が聖女に選ばれた意味じゃない」
『エトワールでもそんなこと考えるんだ』
「私のことなんだと思ってるの?」
『じゃあ、ぼくを封印する?』
ファウダーは私をじっと見つめた。それしか方法はないでしょと言うように、私は何も言い返せずにいた。
それが、最善策だと分かっているのに、行動に移せない。皆が幸せになれる方法を探したいとは思っているのに……でも矢っ張り、そんなこと出来ないのだと。現実は厳しいと思った。皆が幸せになれる方法なんてないんじゃないかと。
「ファウダーはどうしたいの?」
『ぼくは、元々嫌われている物だから、だから……封印されても仕方がないと思っているし、外に出たところでぼくの命を狙う物はいるだろうから。エトワールに封印されるならいいと思ってるけど』
「そんなのダメだよ。私は、アンタも助けたい」
『強欲だねえ……皇太子殿下と似てる』
「リースとは似てない」
どうして、ファウダーが、リースの話をしたのか、理解できなかったけれど、ファウダーは面白そうに笑っていた。悪戯っ子みたいな顔して。
強欲と言われれば、強欲なのかも知れないけれど。私は、ファウダーも助けたいと思っている。それじゃあ、他の皆が助からないのは分かっているし、ファウダーが封印されてもいいと言っているのだ。天秤にかけたら、一人の命よりも、大勢の命と考えるべきなんだろうけれど。
『エトワールは優しいね』
「優しく何てないよ。アンタ、分かってるでしょ? 私が冷たいこと」
『でも、冷たくなったのは、エトワールに冷たくした両親だったり、エトワールを虐めたいじめっ子達だったりのせいでしょ?』
「だったとしても、元々、冷たい人間だったんだと思う」
もし、災厄のせいで、自分が冷たくなっているんだとしたら、そう言い訳をしただろう。でも、私は、私の心の中に冷たい何かを飼っていたんだと思う。誰しも持っている、自分の価値感というか。
「皆そんな物だと思うよ。自分に都合の悪い物は、見捨てるというか。そういう部分、人間にはあると思う。アンタの愛された言って言う感情もいってしまえば承認欲求って言う人の感情な訳だし。アンタは、そういう人間の欲の集まりで出来た物でしょ? 不の感情なんて言われるけど、誰しもが持っているもの。それを認めたくないからアンタを悪者にしたんだ。そうやって、悪を作れば、皆一致団結するというか……人間ってそういう物」
『うん、分かってる』
「……分かってるなら、言わせない」
『エトワールが勝手に言ったんじゃん』
と、ファウダーは言う。確かに、自分でいったけれど、その通りじゃないかと私は言い返した。
人間って弱い生き物だから、自分は悪くないって言い張りたいわけだし。逆に自分が悪い、自分が悪いと追い込むことだってある。そういう弱さの塊が混沌という存在を創り上げてしまった。そして、それを悪い物だと。
「どうやって、災厄を止めるかは分からないけれど。アンタも幸せにならなきゃいけないと思う」
『ぼくは、もう幸せだよ。だから、気にしないで』
「でも」
『エトワールは幸せ?』
と、ファウダーは私に尋ねた。
幸せか。そんな質問されたことがなかったから、私は目を見開いた。確かにこれまで、辛いことは一杯あったし、逃げ出したいことだって一杯あった。そのたび、自分が悪いんだって責めてきた。自分を責められる人は優しい人なんてよく言うけれど、私はその部類だったのだろうかと。
そして、今はどうか。幸せかどうか。
その質問に対してどう答えれば良いのだろうか。
これが、ファウダー、混沌の最後の質問のような気がした。何気ない会話だけれど、ファウダーはもう心を決めているんだろう。ファウダーが消えたらどうなる? ブライトの弟として生れた彼は、どうなる? 身体は戻ってくるのか。それとも、身体事消えてしまうのか。そんな心配をしてしまった。ブライトは、これまで耐えてきたわけだ。彼が憎かった。でも、ブライトにとってファウダーは弟だったのだ。
「……幸せか」
『うん。辛いこと一杯あったでしょ?でも、此の世界にきて、エトワールは変わったんじゃない?』
「私の記憶勝手に見て言ってる?」
『ぼくを何だと思ってるの?』
人智を越えた何か。人の理を外れた何か。
まあ、そう、何でも知っていても可笑しくはないのだけれど。私は、ふぅと息をついた。
「幸せだよ。それに、これからもっと幸せになれそう」
『そっか、よかった』
「アンタは……」
『ぼくはね、エトワールが最後に愛してくれて嬉しかったんだ。幸せだよ』
とファウダーは微笑んだ。
本当に幸せそうな顔で微笑む物だから、私は、涙が出てきた。彼は、これまでずっと悪として位置づけられて、生れてきたことすら後悔していただろう。本来のエトワールもそうだった。伝説の聖女と容姿が違うからといって偽物扱いされて、それでも聖女としての役目を全うしようとして……報われなかった。けれど、今は。
私は、もう一度ファウダーを抱きしめた。
この世界にきたのは何かの縁だ。私の、過去とか、そして今とか。エトワールに転生して悪いことばかりじゃなかったって、私を愛してくれる人がいることも分かって、今私は幸せだって。そういう意味を込めてファウダーを抱きしめた。
ファウダーの身体は温かな光に包まれていく。ゲームで見た、混沌を倒したときに出たエフェクトと似たような物。封印してしまうのだろうか、消えてしまうのだろうか。
ああ、でもきっと消えはしないだろう。
人間に欲というものがある限り、ファウダーは、混沌は何度でも蘇る。醜い感情を人間をさらけ出させるために。
「ごめん、アンタのこと救ってあげたかった」
『だから、救われたっていってるじゃん。エトワール。泣かないで。エトワールがいってくれたじゃん。エトワールの中にも存在するって。ぼくは、眠りにつくだけだから』
「ファウダー」
『ありがとう。エトワール。ぼくを愛してくれて。君が初めてだよ。ぼくのこと理解してくれた人間は』
「……」
『幸せになってね』
と、ファウダーはいって光の粒子となって消えてしまった。真っ暗だった空間は途端に白くなり、まばゆい光に包まれた。
幸せか。
うん、幸せ。
私も、好きな人が出来たから。その人を愛したいって思えたわけだし、愛されてるって分かったわけだから。
遠回り、しすぎた気がする。
「……ん」
「エトワール!」
懐かしい声で目が覚めた。ゆっくり瞼を開けば、眩い黄金が私の顔を除いている。方に少しだけ重みを感じる。ああ、戻ってこれたのだと実感しながら私は微笑んだ。
王宮の大広間か。天井には大きな穴が空いていて、大広間らしき所には、絨毯ではなくて、芝生か、コケか分からない物で埋め尽くされていた。翠色の地面に幾つもの花が咲いている。白だったり、黄色だったり。兎に角鮮やかだ。まるで、花畑みたいだと笑いが零れてしまう。
「リース」
「エトワール、無事か」
「今、すっごいアンタに言いたいことあるの」
「今じゃ無きゃダメか?」
と、リースは何処か不安そうに言う。多分、このまままた目を閉じて死んでしまうのではないか、見たいなこと思ってるんじゃないかと思ってしまう。さすがに、アニメの見すぎか。リースがそんなこと思うわけ無いのに。
私は、そっとリースの頬に手を当てる。私よりすべすべなんじゃ無いかと思うぐらいの肌を撫でて、改めて顔の良さを確認する。
「ふっ……」
「何笑ってるんだ」
そんな風に、不機嫌そうになる顔も、悪くないって思う。
前は、推しの顔で、推しが絶対しない顔するなっていっていたのに。今はもうなれたし、それがリースだって錯覚してしまう。
「私ね、リース。アンタのことが――――」