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気まずい空気を紛らわそうと思い、
景色を眺めていると遠くに紫色の社のような
何かが目に入った。
よく見ると藤の花のようなものも見える。
多分きっとあれがフユの社なのだろうか。
というか封印を解けって言ってたけど、
あそこに行かなきゃいけないんじゃないか?
でもどうやって行くんだろうか。
あの日から冬の帝王は1度も目が覚めていないらしい。
とても心配だ。
なんだか俺も気分が上がらない。
そんな俺を見かねたのだろう。
柧夜が急にこんなことを言ってきた。
「…千秋」
「少しばかり話がある」
真剣な顔して。
でもどこか切なそうな顔で。
「何?」
そう返事するもただ『違う場所へ行こう』
という意味の手招きをするだけだった。
連れられた場所は桜のような紅葉の木が咲き誇る場所だった。
「ここは…?」
そう俺が呟くように聞くと
「朱の地じゃ。赤の地とは少し違う」
確かに。
赤の地は全ての木が真っ赤に染まっていたが、
ここの木は所々に青々とした葉が見えている。
「そういえば話って?」
そう問いかけるも、
俺に背を向けながら黙ったまま。
「柧夜?」
回り込もうとすると
「来るな」
と拒まれてしまう。
俺、何か嫌なことしちゃったのかな…
「千秋」
「千秋はここに来る前、楽しい生活をしてたのか?」
ふとそんなことを聞いてくる。
でも、なんだか涙声のようにも聞こえた。
「…泣いてる?」
一か八かそう聞くも
「泣いてるわけないじゃろ…!!」
と言う。
だけど明らかに鼻すすってる音も聞こえるし
泣いてるんだよなぁ。
それよりここに来る前の生活?
そんなの楽しかったに決まってる。
「そうだよ。楽しい生活をしてた」
「だけど自宅が森の中っていうのはちょっと…」
ていうか今までずっと疑問だったけど、
俺の家はなんで森の中にあるのだろうか。
じいちゃんは何も教えてくんなかったし。
「すまなかった」
急に謝られ、ぎょっとする。
「え?」
「私が選択肢を聞けばよかったのに」
振り返りながら姿を変えた柧夜。
涙を流していたが、
それよりも俺が驚いたのは柧夜の姿が
俺の昔の記憶にあった姉の姿に変わったことだった。
「姉ちゃん?なんで…」
思わず俺まで涙が溢れそうになり、
無理やり止める。
そんな俺に気づいたのか急に抱きしめてくる。
俺の記憶には無い姉の仄かな温かさ。
「家が森の中にあること。それと、私と柧夜について」
「全部話してあげる」
涙を流しながら、でも真剣な目でそう言った。
「私と千秋の祖父、実は初代赤の帝王なの」
え?
帝王?
じいちゃんが?
最初から衝撃的すぎて理解が出来そうになかった。
「元々、おじいちゃんの次の帝王は千秋だった」
「だけど私はそれを反対した」
「なんで?」
「だって自由に生きたいでしょ?」
そう言って笑う姉の姿はとても綺麗なものだった。
涙が光にキラキラと反射され、
しかもバックは紅葉の木々の姿。
俺が兄弟じゃなくて、
他人同士だったら、
きっと恋に落ちていただろう。
そのくらい雅さを纏っていた。
「まぁ…」
あやふやな答えを返すと
「だから私が無理を言って女帝になったの」
「でも1つ条件があった」
条件?
もしかして俺の中から『姉』という存在を消すことだろうか。
「それは千秋に『私』という存在を忘れてもらうという条件」
「最初は躊躇ったけど、それよりも千秋には自由でいて欲しかった」
なんで。
なんでこの人は自分の自由を奪ってまでも
こんな平然としていられるのだろうか。
「でも私が女帝になったせいで…」
徐々に俯く姉ちゃん。
「代々、どの地でも、地を守る者に『女帝』は居なかった」
「なのに私が女帝になったから冬の帝王には嫌われちゃうし」
「しかも嫌われてるから季節はずっと秋のまま」
「全部私が悪いんだ…」
涙をポロポロと流している姉の姿を見て
俺は心が痛む。
「違う!!姉ちゃんの…」
「秋夜のせいじゃない!!」
「名前…?なんで覚えて───」
「姉ちゃんを忘れるなんて俺には無理なんだって…」
ずっとずっと言いたかった。
姉ちゃんの名前はもう一度呼んであげたかった。
「姉ちゃんは知らないだろ…?」
「俺が小さい頃、居なくなった姉ちゃんをずっと探してたこと」
姉ちゃんの服を掴みながらも、
涙を隠そうと俯きながらそんなことを話す。
「…知ってるよ」
「それであの日、あの不思議な出来事を体験した日のことも全部知ってるよ」
「ぇ?」
驚いて顔を上げると
「…酷い顔」
と笑われ、頭を撫でられた。
それが心地よくて。
昔感じた姉の温もり。
だけどもう感じれないと思ってた。
「あと家が森の中にある理由…」
「もし私と千秋が帝王、又は女帝にならなかったとき、家は森から出てた」
「え?でもなんで…」
「そう。でも私は女帝を継いだ」
「世界がずっと秋なのは嫌でしょ?」
にししっと笑う姉ちゃん。
確かにずっと秋は嫌だ。
「だから私が継いだ」
「千秋が継ぐはずだった守り人を」
この人はどこまで優しい心の持ち主なのだろうか。
こんな姉を持てた俺は幸せ者だろう。
密かにそんなことを思う。