コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「それで私と柧夜について」
「地の守り人は2種類あるの」
「元々、人か人じゃないか」
人は姉ちゃんみたいな場合ってことは分かるが、『人じゃない』ってなんだ?
「人っていうのは私とかおじいちゃんのことを指す」
「でも人じゃないっていうのは…」
「神のこと」
神?
ラトとかのことだろうか。
妖怪とか?
でもラトの尻尾は猫又じゃなかったしな。
「神は死なない」
「だから守り人は皆変わらない」
「でもなんで姉ちゃんは…」
「そう。赤の地はずっと人間だった人が守ってる」
「でもそしたらまた、私が女帝じゃなくなった時」
「次に継ぐのは千秋」
確かにそうなるな。
それで俺になったらさっきの『俺の自由を奪う』だとかの話も意味が無くなる。
「だから私は柧夜という名の神に変わることにしたの」
「え?神?神ってあの神様…?」
「そう」
「でもなんで俺が柧夜を姉ちゃんだと気づいた時、何も言ってくんなかったの?」
「それは…」
「切なくなると思って……」
切なくなる?
俺がはてなマークを浮かべていることに気づいたのだろうか。
より具体的に話してくれた。
「二度と会えないって思ってた弟に会えて、しかも記憶を消したのに覚えているなんて思ったら泣いちゃうじゃん…」
こうやって見ると姉ちゃんってちゃんと人間なんだな。
柧夜の姿だとあまりにも肝が据わってるというか。
「でも柧夜と私は別の人なの」
「だからこの後、柧夜に戻ったとき私は千秋を忘れてるかもしれない」
突然そんなことを言われ、
「なんで…」
と声を漏らす。
「各地の守り人には共通の掟があって」
「『自分のことは現世を生きる者に話してはならない』という掟」
「だから…,ごめんね」
儚げに、切なそうに、笑った。
「もう話したいことは終わったけど千秋はなんかある?」
その言葉でより涙が込み上げてくる。
本当に最後なんだ。
もう姉ちゃんには会えないんだ。
柧夜の姿として会えるけど、
俺の記憶が無くなる。
そんなの…
「嫌だ…」
そんな声を零して、俺の頬には涙が伝う。
大粒の涙が。
「…ばいばい千秋」
俺の頭を撫でながらそう告げると
姿は一瞬にして柧夜に変わった。
柧夜は俺の姿を見て
「どうした?何かあったのか?」
と心配するも
「それより妾はどうしてここにいるんじゃったか…」
と戸惑いの言葉を零す。
「何でもない…」
そんなことを言っても、
もう慰めてくれる姉ちゃんは居ない。
「そういえば御主に頼みたいことがあるんじゃが」
そういえば柧夜もたまに俺の名前『千秋』を呼んでくれてたけど、
もうそれも聞けないってことか。
虚しいな。
「妾の話を聞いとるのか?」
そう言いながら顔を近づけてくる。
もう少し悲しさに浸らしてくれよ…
そんなことを思いながら
「聞いてるよ」
「頼みたいことって?」
と平然としているように声を返す。
「凪の所に行ってみて欲しい」
「なんで?」
疑問の声を上げながら
自分で行けばいいじゃんって思っていると
「妾は彼奴が嫌いなんじゃ」
「彼奴は全てを見てくるようで気味が悪い」
と心を見透かされているようなことを言ってくる。
いや、読んでるんだとは思うんだけれども。
柧夜の心読んでる疑惑は確信に迫りつつある今日。
「まぁ…いいよ」
俺がそう返事すると
「本当か?!」
「やっぱり御主は役に立つな!!」
と目に見えるほど態度が変わった。
「じゃあ早く行ってきてくれ!」
そう柧夜が言ったと同時に世界の景色は変わった。
凪の場所。
桃の地に行ったのだった。
柧夜の能力だろうか。
そんなことを考えながら桜の木の元に辿り着く。
そして目に映ったのは無惨な姿をした桜の木だった。
「は…」
花や草はしおれ、
桜の木には桜の花が一切咲いておらず。
全てが枯れているようだった。
「あ、確か…」
「千秋…?だっけ?」
枯れた桜の木の背から現れる凪の姿。
桃の地がこんな姿になっているのにも関わらず、
凪はいつも通り不思議な雰囲気を纏っていた。
「驚いたでしょ…?」
そう言って桜の木を指差す。
「驚いたも何も…」
「ふふっ…可愛い……」
「そんな戸惑っちゃって…」
なんか会った時と雰囲気が違う。
どこか悲しそうっていうか…
でも無理やりいつも通りを保とうとしているようで。
「別に悲しいなら悲しいって言ってくれれば…」
気づけば俺はそんなことを口にしていた。
凪は目を丸くして驚いた後、
息を整えて
「千秋は優しいんだね」
と切なそうに笑った。
何か懐かしさを思い出しているように。
儚げに笑った。
「冬の帝王が倒れたから、こうなったの」
急にそんなことを言われ、
「そうなんですか…」
と言うしか無かった。
それ以上何も言うことは出来なくて、
必死に掛ける言葉を探していると
「いいの」
「何も言わなくていいの…」
と俺にそう言った後、
桜の木の幹を撫でるようにしながら涙を零す。
「私はね未来が視えるの」
独り言のような呟きが聞こえたが、
何も返事することは出来なかった。
「冬の帝王が倒れる未来も視えていたわ」
「だけど私にはどうしようも出来ない」
『なんで?』そう俺が問いかけようと口を開いたと同時に
「未来を変えてしまうのは良くないから…」
という言葉が耳に入る。