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余波章|未選択の拡散
01:03 本部・定義班
会議は、もう「会議」とは呼べなかった。
「“未選択”を異常にするなら、線を引け」 「引けないから異常なんだろう」 「違う、引けないものを異常にした瞬間、制度が死ぬ」
声が割れ、ログが重なり、
誰がどの立場で話しているのか分からなくなる。
監視班は削除判断を待っている。
運用班は責任所在を探している。
定義班は、言葉だけを積み上げている。
> ・未選択=逸脱
・未選択=判断拒否
・未選択=観測不能
三つの暫定定義が、同時に走っている。
誰も止められない。
なぜなら――
どれも、間違いだと証明できないから。
本部は、この時点で分裂していた。
01:05 月影・非公式チャネル
月影は、“未選択”を説明しなかった。
代わりに、
同じ条件を他者に渡した。
「選ばなくていいです」 「選択肢は出ます」 「でも、押さなくていい」
相手は戸惑った。
「それって……バグですか?」
月影は首を振る。
「バグなら、もう消えてます」
彼女が渡したのは、
マニュアルでも、思想でもない。
**“何も起こらない時間”**だった。
選択肢が表示され、
期限が迫り、
警告が点灯しても――
世界が動かない時間。
その瞬間、相手は理解する。
「……選ばない、って
“何もしない”じゃないんですね」
月影は答えなかった。
答えた瞬間、それは定義になる。
彼女は、ただ次の人へ同じ条件を渡す。
未選択は、
一人の例外ではなくなった。
01:07 佐伯・分析室
佐伯の画面から、
数字が消え始めた。
正確には、
数字は表示されている。
だが、意味がなくなった。
クラスタが崩れ、
相関が広がり、
予測誤差が、誤差として扱えなくなる。
「……おかしい」
佐伯は、初めて数値を疑った。
未選択が複数になった瞬間、
それは「外れ値」ではなくなる。
外れ値でなくなったものは、
モデルに組み込めない。
「説明……できない」
彼は気づく。
――自分が守ってきたのは、
“人”ではなく
「説明できる状態」だったと。
数字は、人を守る盾だった。
だが今、盾が薄くなる。
佐伯は、初めて
数値を失う恐怖を知る。
01:10 本部・判断停止ログ
> 判断保留:α-7
理由:定義未確定
※同様事例、複数確認
誰かが言った。
「……増えてない?」
誰も答えなかった。
01:12 花子・内部メモ(未送信)
> 未選択が広がった瞬間、
これは“処理対象”ではなくなった。
もう削除できない。
削除したら、理由を説明できない。
花子は、ハヤトの名前を見て、画面を閉じる。
「……同じだ」
01:15 月影・最後のログ
月影は、自分が選ばないことを
もう“特別”だと思っていなかった。
誰かが、同じ場所に立っている。
誰かが、同じ時間を過ごしている。
それで十分だった。
(これは、渡せた)
選択肢は、まだ画面にある。
だが彼女は、もう見ていない。
01:16 佐伯・空白
佐伯は、レポートを書けなかった。
書けないのではない。
書く意味が、なくなった。
数字で擁護できない状態が、
現実として存在してしまった。
彼は初めて、
「測れないものが、正しいかもしれない」
という可能性を前に、立ち尽くす。
ログ注記(自動生成)
> 未選択状態:
・削除不可
・分類不能
・再現性あり
――異常定義、失敗。