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第X+α章|再定義試行ログ/発言者:佐伯(数値なし)
02:00 本部・再定義臨時会合
議題名は、異様に整っていた。
> 議題:
「未選択状態の再定義および正常系への再編入」
「“異常”では角が立つ」 「“保留”では処理できない」 「なら、“低優先選択”でどうだ」
言葉が並ぶ。
誰も“未選択”を見ていない。
ホワイトボードには、新しい定義案。
> 未選択=
・選択意思の遅延
・判断能力の一時的低下
・回復見込みあり
「回復見込み」という語が、
誰の確認もなく書き足される。
運用班が頷く。
「これなら、更新パッチを当てられます」 「再観測の名目も立つ」
監視班が言う。
「“異常”じゃないなら、削除しなくていい」
全員が、
安堵した顔をする。
――ここまでは、完璧だった。
02:07 佐伯・発言権要求
佐伯は、手を挙げなかった。
ただ、言った。
「……その定義、
何を根拠にしていますか」
一瞬、空気が止まる。
議長が答える。
「これまでの統計です」 「傾向として、“選ばない”は一時的ですから」
佐伯は、頷かなかった。
「その統計、
もう存在しません」
ざわめき。
「どういう意味だ」 「数値は残ってるだろう」
佐伯は、ゆっくり息を吸う。
「残っているのは、
形式だけです」
02:09 数字のない説明
「未選択が一例だった頃、
それは外れ値でした」
「外れ値は、
モデルの外に置けた」
「でも今は、
同条件の未選択が
複数同時に存在している」
誰かが言う。
「だから再定義するんだろう」
佐伯は、首を振る。
「再定義できるのは、
測定可能なものだけです」
沈黙。
「今の未選択は、
“遅延”でも
“低下”でもない」
「……なら何だ」
佐伯は、初めて
答えを用意せずに発言した。
「わかりません」
会議室が凍る。
02:11 “わからない”という異物
「……今、何て?」
「わからない、と言いました」
誰かが笑いかけて、止まる。
「佐伯、
君は分析官だろう」
「数字は?」
佐伯は、机の上を見た。
そこには、何もない。
「ありません」
それは、
制度内で最も言ってはいけない言葉だった。
02:13 再定義の破綻
議長が声を荒げる。
「わからないものを
そのまま置けというのか」
佐伯は、静かに答える。
「置くしかありません」
「定義した瞬間、
それは“わかったこと”になる」
「でも今、
誰も、理解していない」
一人が言う。
「理解できないものは、管理できない」
佐伯は、はっきり言った。
「管理できないから、
壊れていないだけです」
沈黙。
02:15 決裂ログ
> 再定義案:保留
理由:
・定義根拠不十分
・分析官による否定的発言
だが、誰も納得していない。
運用班は、次の案を考えている。
監視班は、裏でフラグを立てている。
定義班は、言葉を削り始めている。
本部は、止まらない。
ただ一つ変わったのは――
**「数字で黙らせられなくなった」**という事実。
02:17 佐伯・独白
佐伯は、自分が何をしたか理解していた。
数値を出さなかった。
代替モデルも示さなかった。
ただ、
「わからない」と言った。
それだけで、
制度の前提が一つ崩れた。
(戻れない)
彼は、もう
「説明できる側」ではない。
ログ外注記
> 再定義未成立
未選択状態:未処理
※次回会合、
発言者制限の検討あり