16話 記憶ノ価値
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私( お腹すいた )
私「 …. / チラッ 」
21時
静司はまだ仕事をしている
声をかけるか迷うが、報酬のことも考えたら夜食をとった方が良いのかもしれない
私「 せ ….あの 」
的場「 はい 」
私「 夜食を頂いても宜しいでしょうか?」
的場「 あぁ、もうこんな時間か 」
的場「 すぐに運ばせますね 」
・
・
・
的場「 風邪によさそうな物を用意しました 」
的場「 お口に合うか分かりませんが…. 」
私「 とても美味しいです 」
的場「 ….そうですか、安心しました 」
的場「 ご家族に連絡は大丈夫ですか?」
私「 大丈夫です、そこはご心配なく 」
的場「 …. 」
私「 ….面の質問はよろしいのですか?」
的場「 え?あぁ ….ではさっそく 」
的場「 貴方はいつ神ワタリ様になりましたか?」
私「 ….面の質問ではない気がするのですが 」
的場「 ダメですか?」
私「 …. 」
的場「 ….すみません、困らせるつもりはなかったんです 」
私「 15歳の夏になりました 」
的場「 何故、承諾をしたのです?」
私「 ….その妖が知り合いだったので 」
的場「 成程 」
的場( 元々繋がりがあったから妖力が人一倍強かったのか )
的場「 その面、周りはよく見えるのですか?」
私「 えぇ、私にはいつも通りの視界に見えています 」
的場「 自分から見て容姿は変わっていますか?」
私「 はい 」
的場「 その面をつけていて寿命や何かを削られていますか?」
私「 …. 」
私「 それは、分かりません 」
的場「 何かしらのリスクがあると思わなかったのですか?」
私「 もしあったとしても話してくれると思います 」
私「 私はその妖を信頼しているのです 」
的場「 ….妖に情を移しているのですか?」
私「 そういう訳では (( 」
的場「 妖怪は人間の心につけ込みます 」
的場「 神ワタリ様、その信頼はいつか自分の身を滅ぼしますよ 」
私「 …. 」
私「 ご忠告ありがとうございます 」
的場「 ….最後にその面に触れても宜しいですか?」
私「 ….触れるだけですか?」
的場「 えぇ、触れるだけです 」
私「 外さないと約束するのであれば、構いません 」
的場「 ありがとうございます 」
的場「 では、失礼しますよ 」
サラ ッ
彼の細く長い指が私の面に触れる
私「 …. 」
的場「 へぇ、こういう質感なんですね 」
私「 ふふ 」
的場「 ? 」
私「 すみません、少しくすぐったくて 」
的場「 …. 」
私が笑うと彼の動きは止まり、そのまま静かに腕を下ろした
的場「 では、報酬は確かに受け取りました 」
的場「 お風呂は明日の朝に用意しますので、薬を飲んで寝て下さい 」
私「 あ、ありがとうございます 」
的場「 いえ ….では / ニコッ 」
彼は食器を持ち、部屋の襖を静かに閉めた
私「 ….ふぁ / 欠伸 」
私( 大人しく寝よう )
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的場「 …. / スタスタ 」
美凰「 随分と勝手な事をしているのだな 」
的場「 おや、これはこれは…. 」
美凰「 的場の小僧、私の依代に何用だ?」
的場「 呪いを解呪した際に熱があったので介護したまでですよ 」
美凰「 命知らずな小僧だな 」
的場「 この行為が不敬であると? 」
美凰「 左様、儀式の邪魔はしないで頂きたい 」
的場「 おやおや、埒が開きませんね 」
的場「 貴方の発言はまるで彼女を自分の所有物のように扱っているとしか聞こえません 」
的場「 彼女は貴方の事を信頼していると言っていました 」
的場「 やはり、所詮は妖怪と人間の契約にすぎませんか。」
美凰「 ….そうだ、あの小娘はただの依代だ 」
美凰「 それ以上でもそれ以下でも無い 」
美凰「 貴様、小娘の素性が分かっているな 」
的場「 ….さぁ、顔を見ないと確定はできません 」
美凰「 そうか、なら今ここで記憶を消させてもらう 」
的場「 ….!」
的場「 やはり、神ワタリ様となった人間の記憶は消していたのですね 」
的場「 どんなに書物や情報を集めても、事後の記載が見つからなかった訳だ 」
美凰「 記憶など不要なモノ 」
美凰「 1年など ….ほんの僅かな時間なのだ 」
的場「 …. 」
美凰「 ….小娘に関する記憶、貰うぞ 」
私「 すみません、どなたかいませんか? 」
的場・美凰「 ! 」
美凰「 スゥ / 消える 」
的場「 ….神ワタリ様、どうかしましたか?」
私「 すみません、咳をしていたら喉が痛くなってしまって 」
的場「 すみません。水を置くべきでしたね 」
私「 ….今、誰と話していたのですか?」
的場「 おや、聞こえていましたか?」
私「 いえ、内容までは…. 」
的場「 …. 」
的場「 仕事の話ですよ、軽い確認をしただけです 」
私「 そう、ですか 」
的場「 さぁ、夜は冷えます。部屋へお戻りを 」
私「 ….はい 」
美凰「 何故言わなかった?」
的場「 …. 」
的場「 勿論、悩みました 」
的場「 ですが、伊吹ならきっと貴方の口から聞きたいはずだと思ったまでです 」
美凰「 自分の記憶が消えると分かっていながらもか?」
的場「 そうですね、消えた時はきっと / クスッ 」
的場「 もう1人の友人が助けてくれます 」
美凰「 …. 」
美凰「 小僧の記憶が消えたら、アイツは泣くか?」
的場「 ….えぇ、恐らく 」
美凰「 そうか 」
少し、寂しそうに微笑む神はただ一言だけ残し
消えていった 。
的場( 結局、変わらないものか )
・
・
・
的場「 …. 」
的場( 水、置いてあるじゃないか )
私「 …. / スースー 」
的場「 全く…. 」
的場「 貴方は変わりませんね 」
寝息を立てている彼女の頭を静かに撫で、
俺は面の上にそっと唇を落とした__。
的場「 …. 」
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私「 …. / 欠伸 」
的場「 気分はどうですか?」
私「 昨日よりは大丈夫そうです。薬が効きました 」
的場「 それは良かった 」
的場「 陣はもう用意できていますのでお見送りくらいはさせて下さい 」
私「 ….ありがとうございます 」
私( もう、お別れか )
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・
私「 お世話になりました / ペコリ 」
七瀬・部下「 …. / 一礼 」
私「 ボタッ / 血を落とす 」
私「 我を迎え入れる者、門を開き給え 」
的場「 神ワタリ様、昨晩はありがとうございました 」
私「 ! 」
私「 ….では、またいつか 」
的場「 えぇ 」
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私「 …. 」
私( 気づいてくれたんだ、静司 )
美凰「 伊吹 」
私「 …. 」
美凰「 昨晩、話を聞いていたのだな 」
私「 ….ごめん 」
美凰「 謝る事はない、黙っていた私が悪かった 」
私「 多分、静司に私が神ワタリ様だとバレたよ 」
美凰「 ….その様だな 」
私「 記憶、消すの?」
美凰「 …. 」
私「 どうして消してしまうの….?」
美凰「 ….人と妖の時間は違う 」
美凰「 妖にとって1年という時間はほんの数刻も満たさん 」
美凰「 しかし、その1年が人の短き命を縛ることもある 」
美凰「 こちらの世界に引き連れたのなら、必ず区切りをつけなければならない 」
美凰「 だから我は記憶を消す 」
美凰「 オマエも今は我を見えていたとしても、時が経てば見えなくなるモノだ 」
美凰「 見えなくなった後も我に縛られたいか?」
私「 …. 」
私「 素性を知られてはいけないのは、周りの人間も縛ってしまうと考えたから?」
美凰「 あぁ 」
私「 ….私は忘れたくないよ 」
私「 だって、美凰は私を何度も助けてくれた 」
美凰「 オマエはまだ幼い。この先にオマエを助けてくれる者は他にもいる 」
私「 ….そんなの分からないよ 」
美凰「 ….儀式が終わるまでは記憶を消さない 」
美凰「 その後、全て消させてもらう 」
私「 美凰….!」
私は話を続けようとしたが、
美凰は逃げるかのように姿を消してしまった
私「 …. 」
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夕刻 会合
的場「 …. 」
七瀬「 何をそんな難しい顔をしているんです?」
的場「 いえ、少し考え事を 」
七瀬「 挨拶までには直してくださいね 」
的場「 えぇ 」
名取「 的場さん、こんばんは 」
的場「 あぁ、名取 」
名取「 後ほど別室でお話よろしいですか?」
的場「 ….本日は遠慮させて頂きます 」
名取「 え?」
的場「 少し別件がありまして 」
的場「 また次の会合でお願いします 」
名取「 ….もう興味ないなんて言いませんよね 」
的場「 …. 失礼します 」
名取「 的場さん…. ッ!」
ガシッ
的場「 ….離しなさい、名取 」
名取「 …. 」
的場「 名取 」
名取「 …. 」
握る力が強くなる
ほんの数秒が長い時間のように感じた
的場「 …. 」
名取「 …. / 離す 」
的場「 では 」
・
・
・
柊「 どうした名取、お前らしくない 」
名取「 ….そうだね、らしくない事をした 」
名取「 でも、らしくないといえば…. 」
名取( あっちの方だと思うんだけどな )
柊「 そういえば、少し気になる話が…. 」
名取「 ? 」
柊「 祓い屋たちが皆騒いでいた 」
柊「 “ 神ワタリ様が来た ” と。」
名取「 神ワタリ様….?」
柊「 先日、的場一門が代理で儀式を行ったらしい 」
名取「 そうか ….下がっていいぞ、柊 」
柊「 ハッ 」
名取「 神ワタリ様、か 」
名取( 調べてみる価値はありそうだ )
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コメント
1件
やっぱり気付いてたんだね〜お互い色々! 名取さんも気付くかな? 次も楽しみ!