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盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

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盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

25 - お仕事のはずなのに、そんな顔であんなことをするのは少し狡いと思う④

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2025年03月13日

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ノアはこっそりグレイアス兄弟に毒入り菓子のことを相談していたけれど、アシェルはそのことに気付いていた。


でも犯人をわざと泳がすつもりでいたので、気付かないふりをしていた。そう遠くない将来、その人物をより確実に追い込むために。


……というのが表向きの話で、実際のところ毒入り食べものがテーブルに並ぶことなど今に始まったことじゃない。


騒ぎ立てる必要もなければ、それらを一つや二つ口にしたとて、どうどいうことはない。


それよりも、そんなくだらないことでノアからの”あーん”がお預けになるほうがよっぽど嫌だ。


しかし世の中というのは、上手くいかないことの方が多かったりもする。皆、平等に。




「お久しぶりですわね、ノアさま」


にこりと笑ったどぎつい化粧の女性を目にして、ノアは愛想笑いもできずに、ため息を吐いた。


(っわぁー、嫌なヤツに会っちゃった。最悪だよ……もう!)


今日も今日とてグレイアス先生の授業を受けるために、離宮から渡り廊下を通って移動していたノアは、運悪く、出会ってしまった。


お城での生活初日に、自分に向けて『なぶり殺しにしてやる』と眼で訴えてきた、因縁の女性──クリスティーナ・サッチェに。


(それにしてもこの人、相変わらずの厚化粧と派手ドレスのせいで、原型がわからないなぁー)


ノアは取ってつけたような笑みを浮かべるクリスティーナを見ながら、そんなことを思う。


次に何かに似ているなと考えて、すぐにわかった。


腹痛と嘔吐、それから眩暈などの神経系の症状を引き起こす禍々しい朱色の毒キノコであるベニテングダケにそっくりだと。


ちなみにこのキノコの毒は、そこまで酷くない。

だからこのヒト型ベニテングダケを食してしまったローガンは、今は神経系の疾患を抱えながら生きているんだとノアは妙に納得してしまう。


しかしながら、ノアが悦に浸っていても、目の前の毒キノコ──もとい、クリスティーナは消えてくれなかった。


それどころか、底意地の悪さに狡猾さも加えた笑みを浮かべてこう言った。


「ノア様、殿下がお呼びですわ。わたくしと一緒に来ていただけますわね」


ハニスフレグ国には、殿下と呼ばれる人間が二人いる。


でもノアは「どっちの殿下ですか?」と尋ねるほど、愚かではなかった。もちろん「どこに?」と聞くことも。


身の程弁えて生きているノアは、次期国王陛下となる男の呼び出しを断るほど、命知らずではなかった。



「やあ、久しぶりだねノア嬢。ご機嫌いかがかな」

「……」


にこやかに笑う次期国王陛下に向けて、ノアはとてもとても丁寧に無視をした。


ここは、お城のどっかの豪華なサロンの一室。そこでテーブルを挟んで向き合うこの赤髪の男が、出会って数分で自分のことを醜女と呼んだことをノアは忘れていない。


そんな失礼千万な男は次期国王陛下となるお偉い人なのかもしれないが、その前に人として色々問題がある。


望まぬ再会をしてあげたというのに、醜女と呼んだことに対して詫びるわけでも、言い訳するわけでもなく、ましてや「だってそう見えたんだもん」と開き直ることもしないということは、この男は既にあの一件を忘れているのだろう。


そんな記憶力が残念なヤツは、もはや人ではない。ニワトリだ。


(あ、ニワトリのトサカは、赤い……!)


奇跡的な共通点を見つけたノアは、この瞬間からローガンのことをニワトリ男と呼ぶことに決めた。


ただ正直美味しい卵を生んでくれるガチのニワトリの方がよっぽど尊い存在である。なんか、ごめん。でも他に代名詞がなから、どうか許してほしい。


などということをノアがぼぉーっと考えていれば、ローガン改めニワトリ男の頬が引きつった。


「ノア嬢、私は君に質問をしているんだが?」


あいにくノアは人間なので、ニワトリ語は理解できないから、部屋の隅にいるフレシアに眼を向ける。


首を動かした際に、ローガンの隣に着席しているクリスティーナが憎々しげにこちらを睨んでいるのが見えたけれど、既にノアはベニテングダケを食したことがあるので、彼女にも興味はない。


すぐに壁と同化しているフレシアと目が合ったけれど、彼女は相も変わらず無表情のまま。


どんな場所でもマイスタイルを貫くフレシア、ほんと好き。カッコイイ。


「おいっ、聞いているのか!?小娘っ。くそっ人が下手に出たというのに──」

「まぁ殿下、そうムキになってはいけませんわ。あの娘は、殿下を前にしてきっと緊張されてるのでしょう。それに無言でいたって私達の声は聞こえているのですから、問題は無いのでは?」

「そうか。……よし、クリスティーナがそう言うのなら、聞こえていることにしよう」

「ええ、それでよろしいですわ」


ノアがフレシアに見とれていれば、クリスティーナとローガンは夫婦漫才にすらならない馬鹿馬鹿しい会話を勝手におっぱじめる。


本題に入る前に、もうこの時点で嫌な予感しかしない。


というか、この二人がタッグを組んで自分を呼びつけた時点で、ある程度は覚悟していたけれど、うんざりした顔は隠せない。


(よし、私もフレシアさんを見習おう)


ついつい感情が顔に出てしまうノアは、むむっと表情筋を引き締める。


グレイアスなら空気を呼んで、声帯と表情を麻痺させる魔法をかけてくれるはずだろう。


しかし残念ながら、頼りになる彼はここにはいないのだ。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

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