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私とジェンは、頻繁に一緒に出かけるようになっていた。
その日は、ジェンが行きたいと言っていた水族館に遊びに行った。
色とりどりの魚が水槽の中をゆったりと泳いでいく。わぁ、と喜ぶジェンが水槽に映り込む。
思い思いに泳ぐ魚を見るふりをして、ずっとジェンを見つめ続けていると、水槽の中でジェンと視線が絡み合った。
ジェンは、いたずらっぽく笑うとウインクを投げた。いきなり水中に放り込まれたように、途端に息ができなくなる。
けれど、その息苦しさが心地よかった。
ゆっくりと水族館を回りながら、気がつけば、魚は一切記憶に残っていなかった。
海月の展示コーナーでジェンが立ち止まる。
ジェンは、カツオノエボシを見つめほほ笑んだ。
「きれいね。透き通っていて。……宝石みたい…」
どこか寂しそうな横顔に、思わずジェンの腕をつかんだ。
「毒があるんだって。触っちゃだめよ」
冗談めかして言うと、ジェンは笑った。
「触れないわ。だってほら…ガラスで仕切られてるもの。」
なんとも言いようのない不安に、心臓がざわめいた。
「そうね。良かった。ガラスがあって」
ジェンはまたくすくすと笑った。
ジェンの笑顔に、ざわめきが静まっていく。
ジェンは私の手を握ると、勢いよく歩き出した。
「行きましょう!向こうにカワウソがいるんですって!」
ジェンの握った手から熱が広がり、心臓を勢いよく回す。
カラフルな水生生物よりも煌めくジェンを、私はずっと忘れなかった。
水族館内のショップに入ると、ジェンは土産物のキーホルダーやぬいぐるみ、お菓子を楽しそうに見て回った。
ジェンの後を追いながら、楽しそうに笑うその横顔に心が踊った。
―私がジェンを喜ばせている。
ふと、そう感じた。
目の前に色彩が溢れ、全てが輝いて見えた。
興味のないぬいぐるみでさえ、ジェンが触れると輝く宝石に思えた。
「ねぇ、これと、これ、どっちがいいかな?」
ジェンが、クラゲのキーホルダーと片手に収まるサイズのクラゲの小さなぬいぐるみを差し出した。
私に差し出し、尋ねた。
「キーホルダーが良いと思うわ。」
―だって、キーホルダーならいつも身近に持っているもの。私との思い出を、いつも身近に感じられるもの。
「…うーん…そうねぇ。でも、この子もとってもかわいいの」
ジェンは、悩ましげに2つを見比べた。
「両方買ってしまえば?」
ジェンは、ぷくっと頬を膨らませた。
その仕草の愛らしさは、筆舌に尽くしがたいほどで、思わず抱きしめたくなる衝動を堪えるのに必死だった。
手のひらに爪が食い込む。
手のひらに真っ赤な三日月が一つ、二つ、三つ。
「あたしはあなたと違って、お金持ちじゃないのよ」ぷくぷくと怒るその顔は、私を笑顔にした。
私は、ジェンの手から二つを優しく取り上げる。
「そうね。なら、お金持ちのお姉さんが2つとも買ってあげるわ」
ポカンとした顔もまた、愛おしい。
ずっと見つめていたい衝動を押し殺して、ジェンに背を向け、会計に向かう。
すぐに後を追ってくるジェンの足音が聞こえる。
ジェンは追いつくなり、私の袖をつまんで、上目遣いで私を見つめる。
「…そんなの、悪いわ。」
ジェンの瞳が揺れる。揺れる…。
―心臓が潰れそう。
「いいのよ。私がプレゼントしたいの。その代わり、大切にしてね?」
会計の終わった2つをジェンの手に戻す。
ジェンは、じっと手の中の包装紙を見つめると、にっこり笑った。
「ありがとう!大切にするわ」
私の天使が満面の笑みでキーホルダーを包装紙から取り出し、いそいそとカバンにつけている。
カバンにつけると、私にまた笑顔を向ける。
「どう?かわいいでしょ?」
私は、ジェンを見つめた。
「えぇ。とってもかわいい」
―本当に…。
ーずっと見ていたいほどに。
ーずっと、そばにいたいくらいに。