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 ――九月も終わろうとしていた。窓を開けると騒音と、排気ガスを含んだ冷たい風が事務所に満ちた。

 午後五時、約束の時間の一分前に徳田保三は事務所に来た。川島の兄弟子の神木陽一の紹介であった。

 七十歳になる小柄で細身の徳田はいかにも実直そうな人柄で身なりも隙がない。

 徳田は丁重な挨拶をしてソファーに背筋を伸ばして座るが、ゆりが入れたお茶にも手をつけずにいる。時折、瞼を強く閉じて苦悩の顏をする。

「ここにいる二人は信頼出来ますから」

 川島は徳田が秀雄とゆりを気にしているのは分かっていたが、このまま無言でいるわけにはいかない。神木が川島を紹介してこの事務所に来た以上は全てを信頼してもらわなければ仕事にならない。

「いや、誠に申し訳ありません。私自身がどこからお話をしてよいものやら……。本当にお恥ずかしいことでして」

 秀雄が川島に気を利かせて外に出ましょうか? と態度で合図を送ったが、川島は出なくていい、という視線を返した。

「ところで、神木さんをどうしてご存知だったのですか?」

 徳田の血管の浮いた皺の多い手が微かに震えている。

「私は『真理の華』という教団におりまして、ある縁で以前に東風先生にお会いした事があり、それで神木様をご紹介いただいたという次第でございます」

 徳田は額の汗を拭きながら、深いため息をついた。

「もっと、内容を率直に聞きたいですね」

 徳田は明らかに何かに怯えている。

 川島は神木から大掴みには話を来いていた。だが、依頼される当人から話を聞き、お互いの合意の元でしか仕事は成立しない。目の前の川島より東風に頼みたかったのであろうが神木から、川島へと人物が変わったので徳田に不安があるのは確かであった。

「わたしでは物足りないと思われれば、他の人物に頼まれてもかまいませんよ」

 川島の撥付けるような言葉に徳田は狼狽した。

「いえ、まさか、そんなことは御座いません。この私が、いや、私の態度が悪かったら平にご容赦下さい。はい、大変当方の恥な話しですが申しあげます……」

 

『真理の華』という教団は日本国内でも数百万人の信者がいるという大きなオカルト教団である。先代の清水天真という人物が一代で築き上げた教団で、その天真には子供が恵まれなかったが六十五歳になった時に神の啓示を受けて女の子が生まれた。天真は自分の子は自分より霊的位階が高いと信者達に説法していたが、一年前に八十一歳で死んだ。二代目は娘が継ぐはずであったが、まだ娘は十六歳である。まだ大きな教団を纏める能力は無い。それに乗じて内部分裂が表面化してきた。徳田は天真の忠実な信奉者である。徳田は、天真から死ぬ前に呼びだされた時に、天真自身が居なくなれば教団は乱れ、権力争いが起きる。その時は自分の娘に危険が次々と襲うであろう。時期が来るまで徳田に娘をくれぐれも頼むといわれている。天真はすでに自分の教団に分裂の分子がいることは知っていた。だが、娘のめぐみの能力は十八歳にならないと完全には目覚めない。それまではどんなに霊格が高くとも危ないと。

 天真が言った通りにこの半年に何度もめぐみは命を狙われていた。そのやり方が最近は特に露骨になってきた。めぐみが十七歳になったので相手も焦っていると。あと一年でめぐみが目覚めても、目覚めなくとも正式に二代目として教団の儀式が執り行われる。

 徳田はそれまでは自分の命にかえても清水めぐみを守らなければならない。徳田自身もすでに何回も殺されそうになっている。今だって何処から、誰が狙っているか分からない、という。徳田の最も信用していた味方の二人はすでに消され、ボデイガードも三人殺されていて、五人は行方不明であるという。


つづく

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