ずっと待っていた、貴方のことを。
いつか帰ってくるだろうって、ずっと期待していた。雪が降り積り、すっかり寒くなっても。日が落ちて、月が昇っても。何度、朝を迎えようとも。
ただただ、待っていた。貴方に、会いたいと願っていたから。
だから、私は。今でも貴方のことを待っているの。
♦︎♦︎♦︎
「お買い上げ、ありがとうございました」
コンビニの店員がそう頭を下げるのに合わせ、私も小さく頭を下げる。レジに置かれた袋を手に取り、そのままコンビニを後にした。
袋に入っているのは、チョコ味のアイスだ。アイスの封を切り、口に運ぶ。
「最近、また暑くなってきたな…」
湿度と暑さの暴力でどうにかなりそうだ。
「あっついぃ……」
隣で眠り姫がパタパタと、手を振って風を送っている。
「アイス、いるか?」
「あ、いいんですか!?いります!」
チョコ味のアイスを頬張りながら、眠り姫は嬉しそうに笑みを浮かべた。
2人でアイスを食べながら、目的地へと向かう。着いた先にあったのは、1つの銅像だった。
「これですか?通報があった場所って」
「みたいだな」
「うーん…」
眠り姫と一緒に、私も銅像を見上げた。なんの変哲もない、ただの銅像だ。
「これって、犬ですかね」
「みたいだな」
「名前は……あ、ないんですね…」
「無名の犬、という題名らしい」
「へえ……というか、異常とかは無さそうですね」
すんすんと匂いを嗅いだり、触ったら、眺めたりしたが変化や異常は特にない。至って普通の銅像だ。
だが、確かにここで通報があったのだ。銅像が動いてる、と。しかも、通報した女性によると、なにやら銅像から変な匂いがしたそう。
「あれって、やっぱり《怪物》の仕業なんですかね?」
「さあ?通報者は飲酒をしていたそうだからな、もしかしたら幻覚の可能性だってある」
「飲酒の量にもよりますよね、軽くならそんなに支障はなさそうですけど…」
「結構飲んでいたそうだが」
「あちゃあ、結構飲んでるなら幻覚の可能性大ですけど…」
まあ、必ずしも幻覚とは限らない。常識離れした存在、それが《怪物》なのだから。
「まっ、まずは見張っていよう。何も無かったのなら、それはそれでいいしな」
「それもそうですね。えっと、じゃあどこで…」
「野宿だ」
「えっ?」
眠り姫の顔に「嘘でしょ?」と書かれているのが目に見える。
が、実際そっちの方がいいと思うのだ。ホテルなど予約しても、その距離を移動する時間が勿体ない。それに、万が一何かが起こった時、遅れては困る。
「と、いうことだ。一応、野宿用の物は持ってきた」
「えっ、いやいやいや。嘘…ですよね?」
「何だ、野宿が嫌なのか?」
「え、えっとお…本当に…するんですか?」
「それ以外に何かあるのか?」
うっと言葉に詰まる眠り姫。
「諦めろ。諦めて、準備手伝え」
「ひええ…」
悲鳴混じりの声が聞こえたが、気にしない気にしない。
♦︎♦︎♦︎
深夜二時、銅像前にて。
ふと、思うことがあるのです。あれ…私、何で野宿してるんだろうって…。
「野宿もいいじゃないか」
「良くないっ!?」
私無理ですから!全然無理ですから!分かりますか!?暑い中野宿させられる人の気持ちは!?
「かーえーりーたーいー!」
帰って早くシェフの作ったお料理が食べたいです!何が悲しくこんな野宿を!
「まあまあ、ほら、空を見上げてみろ」
「は、はい…?」
「あの星と、あの星を繋いでみろ」
鴉さんが差した方向に、私も目を向けます。
「そうしたら…」
「そうしたら?」
「なあんもない」
……。
ええ、そうですね、期待するのがだめだったんです。だって、あの鴉さんですもん、あの!鴉!さん!ですもん!
落ち着きなさい、眠り姫…。ハッ!そうですよ私眠り姫じゃないですか!
なら寝ないと!誰かー!布団を持ってきてくださるー!?
「お布団っ!お布団が恋しいっ!」
「うるさいなあ、《怪物》にバレたらどうするんだよ」
「いいいじゃないですかあ、それか銅像いっそぶっ壊したり…」
「馬鹿なのかお前は?」
馬鹿って…。やだ、私はいつまで経っても正常ですよ?
ーーがさっ。
「…!」
「ひっ…!?」
後ろから音が…?今の、草の音だと思うんですけど…。鴉さんの表情と纏う雰囲気が一気に厳しくなります。
一応、鞘を手に取り戦闘態勢を整えます。私達は音の方向へゆっくりゆっくりと近づき…。
「ーー警戒は不要」
「……お前」
後ろからまた聞こえる声。鴉さんの呆れたような声が聞こえます。これ…振り向いても大丈夫なやつでしょうか?
ちらっと後ろを見ると…そこには黒いマントを着た人影がありました。あの姿…まさか。
「蝙蝠、か」
「…久し振り、鴉」
そう呟かれた声は、どこか楽しそうなものでした。
コメント
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眠り姫ちゃんの口調ブレブレで草…直すの面倒だなあ…