テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#怪異
イキリ火の玉
1,443
コメント
1件
ちょっとした希望が一瞬で打ち砕かれる展開、胸が痛かったです……。妖怪の描写がすごく生々しくて、六本の腕で皮を剥ぐシーンは本当にゾッとしました。梶さんの冷静な判断力と、それでも効かない絶望感が伝わってきましたね。木村さんを見捨てて逃げるしかなかった現実が重いです。次どうなるんだろう、気になります。
「なんだぁ、やっぱ妖怪なんていねーじゃん」
沢村の言葉は強がりとわかっても少し安心していることに努は気づいた。それほど緊張と恐怖を感じていたのだ。
背中が寒いのは気温のせいばかりじゃないと思いながらみんなの後に続く。最初は口数の多かった沢村も奥に進むほど少なくなる。
すっかり喋らなくなったのは、まだ森に入って30分も経っていないころだった。みんな疲弊していた。誰も口にしなかったが恐らく梶以外はもう村に戻りたいと思っていただろう。
ただ、梶にとっては予想通りの展開なのだろうと努は思っていた。妖怪の正体が人間なら拳銃を持った梶の前には現れにくいだろう。そうだったらこのまま森を抜けられることが出来るかもしれないし、トンネルのよう出ることが出来なかったとしても妖怪に恐れることも生け贄を差し出す必要もなくなる。
努は森から外に出られるとはあまり思っていなかったけど妖怪の正体は人間という説を信じたかった。それは、本当に妖怪がいたらあの陰惨な生け贄の儀式が今後も続くからだ。
最初の老婆もいまの親分も生け贄を嬉々としていたぶる村人たちも嫌だった。少なくともあの儀式という名の拷問がなくなり村人達の間で格差や恐怖がなくなるのならそれだけでこの森に入った価値はある。
それでも森の奥に進むほど恐怖は増した。
――ガンバレ! ガンバレ!
心の中で自分を鼓舞して足を前に出す。恐怖と同じだけ希望があると思ったからだ。
だが、そんな努の希望を裏切るようにその時はあまりにもあっさりとやってきた。
ソレはまるで何もない空間からいきなり現れたように見えた。
先頭を歩く村人の前に現れたソレは全身茶色の短い毛に包まれた巨大なサル。だが、サルより遙かに大きく2メートル50、いや、3メートルはありそうだ。
体も手足も細長く、特に腕は体格に比較するとその長さが二倍はある。そして、その腕が六本生えていた。
顔は輪郭こそサルっぽいが口は無く目の部分には3センチくらいの赤黒い塊が無数ついていた。
「うわあああああああああああっ!」
先頭の村人が叫んだと同時に頭を二本の手で持ち上げられた。そして、残りの四本の手で脚や体に触れるとペロリと服ごと皮膚が剥がれていった。
「ギャアアアアア」
剥がされるたびに悲鳴が上がる。誰もが恐怖で固まっている中、最初に動いたのは梶だった。
「長岡、お前は後ろで観察していろ。いいな?」
さすがに梶も声が強ばっている。努は慌てて木の陰に隠れて妖怪との戦いを観察した。
「お前ら、やれっ!」
梶の号令に呆然としていた村人や沢村たちが妖怪に武器を向けた。
「っざけんな!」
半ばやけっぱちで特攻した沢村は持っていた鉈で妖怪の背中から横腹を斬りつけた。しかし刃は表面を滑るだけでかすり傷一つつけられない。
妖怪はそんな攻撃を無視して捕まえている村人の皮剥に夢中だ。捕まっていない三人の村人も槍を突き出し矢を放ったが妖怪に刺さることなく弾かれた。
「木村、火炎瓶を投げろ」
「は、はい」
木村は震える手で火炎瓶もどきの小さな壺を投げた。壺は妖怪の肩にうまく当たり妖怪の体を濡らす。
「よし」
梶は拳銃を構えた。そして……パァァァァン。発砲音が森に響く。しかし銃弾でさえ妖怪の体に傷一つつけられなかった。
パンッパンッパンッパァァァァン。何発も撃った弾はやはりダメージはなかった。だがその一発が液体のかかった部分に当たりボワッと炎を上げる。
「やった!」
努は思わずガッツポーズをする。しかし妖怪は炎を気にした様子もなく全身の皮を剥いだ村人を投げ捨てると二足ほどで梶の前までやってきた。そして、その細長い手でサッと梶の右足のふくらはぎを撫でた。梶は一瞬険しい顔をしたあと駆け出す。
「失敗だ! 逃げろ!」
「うわあああああっ!」
梶の一言でみんな一斉に逃げ出した。努も慌ててそれに続く。
「うわあっ! 助けて! 梶さん!」
木村が捕まり助けを求める。だが誰一人その足を止めなかった。
「ぎゃああああああああっっ」
木村の悲鳴を背に努は全力で走った。果たして方向はあっているのかわからなかったけど来た時よりはるかに早く森を抜けることが出来た。
努は肩で息をしながら見渡すと村の突き当たり、おおよそ森に入った場所あたりだった。
討伐隊も最初に捕まった村人と木村以外はどうやら助かったようだ。梶を見ると顔色が青い。そして気づいた。
「う、うわ……か、梶さん、その足……」
努は震える指で梶の足下を指した。梶の右足ふくらはぎが服ごとごっそりと削られて、血が溢れていた。
「チッ」
梶は眉間に皺を寄せるだけで痛いとも言わない。とにかく傷の治療のために集会所に戻った。酷い傷だが包帯などあるはずもなく水洗いした布をきつく縛ることしか出来なかった。
こうして妖怪討伐は終わった。村人一人と木村が殺され梶が大怪我を負った。妖怪には武器も銃さえ効かず炎も効果なかい。夢も希望もない酷い結果だ。