テラーノベル
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二週間ほどが経過した。
シンヤは、ミレアやレオナードと共に、馬車に乗っている。
Bランク冒険者になるための昇格試験が開催される街に向かっているのだ。
実績稼ぎも兼ねて、隊商の護衛として馬車に乗り込んでいる。
「ふう……。結構遠いんだな」
「まあナ。でも、半分は来ているはずだゾ」
「あと少しだから我慢してくれよ、兄貴」
シンヤは馬車の外を見る。
見渡す限りの大草原だ。
ところどころに森が見えるが、それ以外はひたすらに草が広がっている。
そして、遠目にではあるが魔獣が複数見える。
「ここって、本当に魔獣が多いんだな」
「ああ。特に西の方角はひどいぜ」
「東の方に行けば行くほど少なくなるけど、それでもゼロにはならないからナ」
「へえ……」
シンヤは感心するように言った。
魔獣が発生するメカニズムは、未だに解明されていないらしい。
ただ、その法則性だけは分かっている。
すなわち、魔力濃度が高い場所に発生するというものだ。
「確か、この辺りは『魔の森』と呼ばれていて、強い魔獣が多く出現するんだよな?」
「そうだぜ。『魔の森』のさらに奥には、魔王城があるとも言われてるな」
「それはさすがに眉唾物だけどナ。……っと、そろそろ休憩のようだゾ」
ミレアが言うと同時に、御者が馬を止めた。
隊商の面々は、それぞれ地面に降り立つ。
「ふぅ……。やっと休憩か」
「兄貴、お疲れ様だゼ」
「ああ。ありがとう、レオナード」
シンヤはレオナードの頭を撫でる。
彼女は気持ち良さそうに目を細めた。
「おーい! あんたらもこっちに来てスープを飲むか?」
商人の一人が呼びかけてくる。
シンヤたちは彼の元へ向かった。
スープが入った器を受け取り、口に運ぶ。
「どうだ? 美味いか?」
「ああ、悪くないゾ」
「そりゃよかった。こいつは俺らの商品の中でも、自慢の一品なんだ」
ミレアの言葉を受け、男が誇らしげな表情を浮かべる。
「確かに美味いな。……ところで、この具材は何を使ってるんだ?」
シンヤは具を口に含みながら、男に尋ねた。
「ああ、クリムゾンボアの肉だ。なかなか手に入らない高級食材で、滅多にお目にかかれない代物だ」
「クリムゾンボアか……」
「かなりの強敵のはずなんだが、ここ最近で立て続けに討伐されたみたいでな。いつもより少し安めに仕入れることができたぜ」
「なるほどね」
何を隠そう、それらのクリムゾンボアを倒したのはシンヤなのだが。
一部の冒険者やギルド職員の間でシンヤの知名度は高まりつつあったが、未だ世間一般では無名である。
故に、シンヤが倒したことは知られていない。
「ごちそうさま」
「おう。いい食いっぷりだったな」
「おかげで元気が出たよ」
シンヤは笑顔で言う。
「……おっと、もう出発の時間か」
「それじゃあ、引き続きしっかりと護衛を頼むぜ」
「ああ。任せておけ」
シンヤ達は男と別れ、再び馬車に乗り込んだのだった。
「おお……。ここが『オルドレン』か」
シンヤは感嘆の声を上げる。
目の前に広がるのは、巨大な城壁に囲まれた都市の姿。
そして、その周囲に広がっているのは雄大な大自然。
遠くに見えるのは、湖だろうか。
「すごいナ……」
「オレもここに来るのは初めてだ。グラシアよりも大きいかもな」
ミレアとレオナードが呟く。
二人とも、初めて見る光景に圧倒されている様子だった。
「ここは冒険者の街と呼ばれているくらいだから、きっと活気に溢れているだろうな」
シンヤは期待を胸に膨らませつつ、門へと向かっていった。
シンヤたち一行が門にたどり着くと、そこには長蛇の列ができていた。
並んでいるのは大半が冒険者風の男たちだが、中には一般人らしき姿もちらほらと見受けられる。
「これは結構かかりそうだな」
「仕方ないサ。大人しく並ぶゾ」
「ああ。そうするか」
シンヤたちは最後尾に並ぶ。
しばらく待っていると、ようやくシンヤたちの番になった。
「身分証を提示してくれ」
「はいよ」
衛兵の指示に従い、シンヤたちは冒険者カードを差し出す。
「ん? ……シンヤ、ミレア、レオナード。3人ともCランク冒険者か。もしかして、Bランク昇格試験を受けるのか?」
「ああ、そのつもりだ」
「なるほどな……」
衛兵はシンヤたちをジロリと見回す。
「あまり強そうじゃないが、大丈夫なのか? 昇格試験を受ける奴らは、どこか雰囲気が違うものだが……」
「心配してくれているところ悪いけど、俺たちなら問題ないぞ」
「ふむ。まあ、そこまで言うのであれば、止めはしない。通っていいぞ」
「サンキュー」
シンヤたちが門を通ろうとしたときだった。
「へへへ。聞いたぜ、お前らみたいなガキが昇格試験を受けるだと?」
「昇格試験を舐めているようだな。ガキが合格できるような甘い試験ではない。身の程を知ることだ」
「ぎゃはは! 受けるだけムダさ。俺たちが思い知らせてやるぜ」
ガラの悪い三人の冒険者たちが、ニヤついた笑みを浮かべながらシンヤたちに絡んできたのだった。
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