シンヤ、ミレア、レオナードの3人は城塞都市オルドレンにやって来た。
そして、街に入るために並んでいたところ、チンピラ3人組に絡まれてしまった。
だが――
「ふぁああ……。まだもう少し掛かりそうだなぁ……」
「そうだナ。こればかりは待つしかナイ」
「ミレア姉貴って、結構マジメだよな。獣人系なのに」
3人共、チンピラは眼中に入っていない様子だ。
完全に無視して会話をしている。
「レオナード、あたしが獣人だからといって馬鹿にするのはヤメロ。殺すゾ?」
「べ、別に馬鹿にはしてねぇよ。ただ、ちょっと思っただけだ」
ミレアから殺気を感じ取ったレオナードは、慌てて弁解する。
「……おい、聞いているのか!?」
「無視するとはいい度胸じゃねぇか!」
「イナヌカ村出身の期待の新星を舐めてもらっちゃ困るな。思い知らせてやろうか!?」
先ほどから完全に無視されている3人組が声を荒げる。
「うるさいナ。こっちは今、大事な話をしているんダ」
「なっ……! き、貴様……!! 俺たちがCランクパーティの『豪炎の刃』だということを知らないとは言わせないぞ!!」
「知らないゾ」
ミレアがきっぱりと答える。
「なっ……」
予想外の返答だったらしく、リーダー格の男の顔色が変わる。
「オレも知らないなぁ。シンヤ兄貴は知っているか?」
「いや、俺も初耳だ。そんな名前のパーティーがいることすら知らなかったよ」
「なん……だと……?」
男は再び言葉を失う。
「くっ! それなら、この場で覚えさせてやるぜぇええ!!!」
男が闘気を開放し、シンヤに殴りかかってくる。
「おっと、危ない」
「ぐあっ!」
シンヤは軽くかわすと、男の足を引っ掛けて転ばせた。
「リーダー!」
「くそっ! ならこっちの嬢ちゃんだ!!」
残りの2人が、ミレアとレオナードに襲いかかる。
「遅いナ」
「おらぁっ!」
「「ぐわぁああっ!!!」」
だが、あっさりと返り討ちに遭い、地面に倒れ伏した。
「……弱いナ」
「ああ。弱すぎる。Cランク冒険者ってこんなに弱かったっけ?」
「こんなもんなんじゃないか?」
首を傾げるレオナードに、シンヤが適当に返事をする。
実際には、この『豪炎の刃』はCランクパーティとして悪い部類ではない。
Bランクの昇格試験に挑戦する時点で、Cランクの中でも上位に位置する実力を持つ、あるいは最低でもその自己認識があることは間違いないからだ。
だが、シンヤたちにとっては取るに足りない相手であった。
「く、くそぉおお……。こうなったら――」
倒れた男が起き上がり、腰の剣に手をかける。
だが、それを抜くことはできなかった。
「やめておけ。それを抜いたら、俺たちと敵対したと見なす。もう容赦はしない」
シンヤが鋭い目つきで睨みつけてきたからである。
拳で殴りかかってくるぐらいなら、シンヤにとってはじゃれ合いの延長線だ。
しかし、刃物を抜いたらさすがに看過はできないらしい。
「ひっ……」
男は、シンヤの目を見て息を飲む。
それは、圧倒的な威圧感を放っていた。
「さすがはシンヤ兄貴だ。あの目で見られたら、足が竦んじまうぜ」
「ああ。それでこそ、あたしが見込んだ男ダ」
レオナードとミレアが満足げな表情を浮かべる。
「す、すみませんでしたー!」
男たちは一目散に逃げていった。
そしてようやく、シンヤたちはオルドレンの街に入ることができたのだった。
「ほぉ……。ここがオルドレンの冒険者ギルドか」
シンヤは目の前の建物を見上げていた。
城塞都市オルドレンの中心部にその建物はあった。
その規模はグラシアの街のそれよりも一回り以上大きいように見えた。
また、そこに出入りする人々の格好や雰囲気も明らかに異なっていた。
「なんか、みんな強そうだナ」
「さすがはオルドレンだ。冒険者のレベルが高いらしい」
ミレアとレオナードが周囲の様子を窺いながら感想を口に出す。
Bランクへの昇格試験が開かれる街は限られている。
Cランクくらいまでであれば、まだ一般人にも認識できる強さだ。
また、実力的にはDランク上位クラスであっても、十分な依頼達成実績や住民からの信頼があれば、Cランクに上げることもある。
一方で、Bランクともなれば話は別だ。
実績や信頼だけでなく、絶対的な強さが求められる。
だが、その強さを判断することができる人材は少ない。
地方の村や小規模な街はもちろん、中規模な街の冒険者ギルドですら、Bランク冒険者を認定する権限が与えられていないのはそのためだ。
Bランクへの昇格試験が開催されるという時点で、この街の冒険者ギルドのレベルが高いことが伺われるというものだ。
「とりあえず、中に入ってみるか」
シンヤを先頭にして、3人は建物の中に入る。
「へぇ~。結構綺麗じゃないか」
内部の様子を見たシンヤが呟く。
冒険者ギルドの内部は、外観からは想像できないほど清潔感のある空間となっていた。
「受付はどこにあるんだ?」
「えっと、奥の方だナ」
「よし、行ってみよう」
3人は奥へと進む。
だが、その途中で足を止めた。
「へへへっ。小僧、いい女を連れているじゃねぇか」
「俺たちに寄越せよ」
チンピラが絡んできたからである。
(またか……。この街の治安はどうなっているんだ?)
シンヤは心の中でため息をつく。
先ほどの男たちといい、この男たちといい、どうしてこうも絡まれるのか。
街の一般住民の安全を心配してしまうが、実際のところのその心配は無用なものだ。
彼らは冒険者。
同業のライバルに対してマウントを取ろうとしているだけであり、一般住民に対して危害を加える冒険者は少ない。
(まぁ、ミレアとレオナードを連れているしなぁ。こればかりはしょうがないか)
ミレアは赤猫族の美少女だ。
やや幼く華奢に見える身体付きではあるが、勝ち気そうな大きな瞳にスッと通った鼻筋。
将来性を感じさせる美しさがある。
一方、レオナードはボーイッシュな美少女だ。
以前のシンヤは、彼女のことを少年だと勘違いしていた。
彼が鈍感だという面もあったし、当時の彼女は外見に無頓着だったという事情もある。
だが、今の彼女は違う。
圧倒的強者であるシンヤを身近に感じることにより、嫌でも自分の性別や外見に対する意識が変わったのだ。
そのため、今の彼女はボーイッシュを残しつつも、同時に可愛らしさも感じられる容姿となっていた。
そんな2人を連れ歩いているシンヤに絡んでくる連中が現れるのは、ある意味当然の流れと言えるだろう。
「おい、何とか言ったらどうなんだ?」
足を止めて無言なままのシンヤに、チンピラが凄むのであった。
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