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初夜にしては濃厚すぎるほどの一夜を明かして以降。
桔流と花厳は食事会の頻度は、これといって増えるという事はなかった。
しかし、そんな食事会には、度々と濃厚な夜が付いて回るようになった。
そして、初めこそ、食後にベッドにもつれこむのは、毎度の食事会のうち、数回に一度ほどであったが、北風が強まるにつれ、その間隔も徐々に短くなっていった。
何せ、桔流と花厳は、カラダの相性が良かったのだ。
さらに、桔流には、理性のない花厳に出逢いたいという野望もあった。
その上、花厳には、ベッドでしか見られない――、自身に酷く甘える桔流を愛でられる、という特別感があった。
そのような事から、二人の濃厚な夜が日に日に増えてゆく事は、必然とも云えた。
― Drop.014『 WhiteCuracao〈Ⅰ〉』―
「――桔流君。痛いのは嫌って言ってたけど、快楽責めみたいなのは好きそうだよね」
「え」
いつもより早い時刻から寝室にもつれこんだその日。
朝焼けが輝く前に互いの熱が落ち着いた二人は、眠りにつくまでのゆったりとした時間の中、雑談を楽しみながら余熱を冷ましていた。
その中、花厳がふと思い言うと、桔流は、“え”――の一音のみを発するなり黙した。
そして、少しばかり考えた後、言った。
「――どうでしょう……した事――っていうか、された事ないから分からないですけど……」
(多分……、花厳さんにされたら……ハマるかもしれない……)
すると、なかなかの質問をしておきながら、花厳は爽やかに笑った。
「あはは。そうか。――じゃあ、未知数だね」
(これは……)
「そう、ですね」
(――してみたいんだな)
花厳がこのような質問をしたのは、純粋に、桔流が好きそうだと感じたからではあるだろう。
だが、恐らく、花厳の中にあるのは“それ”だけではない。
(花厳さんは、多分。俺がソレを好きか、より、――ソレをしたら俺がどうなるか、が見たいんだろうな……)
桔流は、そんな仮説を立てると、事後特有の色香を纏う花厳を見やった。
「ん?」
その視線に気付くと、花厳は首を傾げ、優しく微笑んだ。
桔流はそれに、
「いえ……」
と言うと、その身をくてりと横たえたまま、花厳を見上げ、ゆるりと笑む。
「花厳さんとこうしてると、画面の中に入ってドラマ観てるみたいだなぁって思って」
「えぇ?」
花厳は、それに、困惑したような素振りを見せる。
桔流からすれば、花厳は、普段から、ドラマに登場するような“現実離れしたイイ男”を演じ続けているように見えていた。
だが、そう見えているのは、決して、普段の花厳が、“イイ男を演じているように見えるから”――ではない。
花厳は、何よりも、顔が整っている上に、仕草まで整っている。
それゆえに、たとえ、花厳が一切の意識をせずに過ごしていても、桔流には、そのすべての動作が、現実離れした“ドラマの中のイイ男”のものに見えてしまうのだった。
「――流石にそれは言い過ぎだよ」
だが、本当に普段からそのような事を意識していないのであろう花厳は、桔流がそのような事を言う度、常、戸惑うようにした。
だが、桔流としては、その“イイ男”が、そんな、イイ男らしからぬ反応を見せる瞬間も、大いに楽しんでいた。
だからこそ桔流は、花厳が反応に困るような褒め言葉を敢えて口にする事も多かった。
(戸惑ってる時は戸惑ってる時で、可愛くて興奮するからな……。ギャップ萌えってやつ。――しかも、それでいて、――絶倫だし)
そんな花厳と幾度か夜を共にして分かったのだが――、花厳は、体力の持久力に加え、精力の持久力も非常に優秀だった。
さらに、性欲も強い方であるという事実も判明している。
そして、それらをすべて自覚していなかったらしい花厳にも、桔流は密かに興奮を覚えていた。
(――性欲なんてありませんよ、みたいな顔してるイイ男が、無自覚で性欲強いのも……またいいんだよな……)
そのような事もあり、桔流は、一日でも早くすべての理性を失った花厳を見たいと思うようにもなっていた。
しかし、その野望は未だ果たされていない。
(花厳さん。性欲強い分、理性も強いからなぁ……)
「はぁ……」
そこで、そんな現実を嘆いた桔流が、溜め息を吐くと、花厳は案じるようにして問う。
「どうしたんだい?」
すると、桔流は、その花厳の胸元に顔を埋め、駄々をこねるように額を擦りつけると言った。
「俺の事、快楽責めしたら、花厳さんの理性ってなくせますか……?」
「………………ええ?」
胸元で再び予想だにしない問いを発せられ、花厳は困惑した。
「俺。早く理性なくした花厳さんとも逢い引きしたいんですけど……」
「あ、あぁ……、ええと……、そ、そうかぁ……」
性に奔放とは云え、マゾヒズムすら感じるほどに自分に激しく抱かれたかる相手は初めてで、その事にも花厳は戸惑う。
正直なところ、花厳も、桔流が今以上に乱れる様子は大いに見てみたいとは思う。
だが、だからといって、乱暴に抱きたいとは思えないのも本心だ。
そのような事から、桔流にできるだけその欲望を手放してもらうべく、花厳は一旦、話題を逸らす事にした。
「――あ~、あぁ。――あぁ。そう。そうだ。桔流君」
「はい」
桔流は、そんな花厳の胸元に顔を埋めたまま、声を篭らせて返事をする。
「ええと――」
そんな桔流を、酷く可愛げに感じながら、花厳は続ける。
「実は、ずっと気になってたんだけど」
「はい」
そして、相変わらず声を篭らせ続ける桔流におかしくなりつつも、そこで、花厳は一度、桔流からそっと身を離す。
それから、やんわりと桔流の髪を撫でると、そのまま桔流の右前髪を指で避け、問う。
「この傷。どうしたの?」
そんな花厳が示したのは、桔流の額の右側――眉尻よりも上の方にある小さな切り傷の痕だった。
傷痕の様子から、かなり前についた傷であろう事は分かったが、それが未だに残っているという事は、元は大きな怪我であった可能性がある。
そのため、花厳は、行為中にふと見かけた時から、その傷の原因が気になっていたのだった。
桔流は、そんな花厳の指の感触を心地よく感じながら、言った。
「あぁ。これですか? えっと、――これは……、結構前についたやつなんですけど……、――ぁ。――……えと、仕事してた時、棚から落ちてきた物がぶつかってついたんです」
花厳は、そんな桔流を案じるようにして言った。
「えっ、大丈夫だったの?」
すると、花厳はあどけなく笑う。
「はい。――傷は残っちゃいましたけど、それ以外は何ともなかったんで」
「そうか……」
対する花厳は、一応は安堵したらしかったが、表情は変わらず心配した様子で言った。
「傷が残っちゃったのは残念だけど、何もなかったなら良かった。――いくら背が高いとはいえ、高い所の物は、あまり無理しちゃ駄目だよ?」
そして、桔流の傷を親指で案じるように撫でると、桔流は、
「ふふ。――はい」
と、嬉しそうに頷いた。
(危ねぇ……――何とか誤魔化せた……)
花厳の言葉から察するに、花厳は恐らく、“桔流が高い所に置かれていた何かを無理に取ろうとして怪我をした”――と解釈したのだろう。
しかし、実のところ、この傷は、高所に置かれた物を無理に取ろうとした際についた傷ではない。
それどころか、物が落ちてきてついた傷というわけでもない。
さらに云えば、仕事の際についた傷でもない。
この傷は、バーテンダーの仕事に就く何年も前の事――。
桔流が、高校時代に繰り広げていた“喧嘩”の果てに負った傷なのである。
それも、言い争いから発展するような喧嘩ではなく、いわゆる、ストリートファイト的な“喧嘩”だ。
桔流は、小奇麗な顔立ちに加え、恋愛面こそ大人しく受け入れる方だったが、性格的には大いにやんちゃな高校生であった。
そのような事から、小奇麗な顔立ちを理由に意味の分からない因縁を付けられれば挑発で返したし、恋愛でたまった鬱憤も、すべて喧嘩で解消していた。
つまり、高校生当時の桔流にとって、他校の生徒や街中の年上達との殴り合いは、毎日の日課のようなものだったのだ。
しかし、そんなやんちゃな桔流少年にも、予想外の出来事は起こる。
(まさか、逆ギレついでに自転車ぶん投げて来るとは思わねぇだろ……)
桔流は、投げ飛ばされてきた自転車が、振り返り様の眼前にあった光景をふと思い出すと、半目がちに回想を終える。
(――まぁ、大して勢い無かったから問題なかったけど)
そして、密かな回想の果てにひとつ思うと、桔流は、ふと、自身の髪を優しく愛でている花厳を見やった。
花厳は、その視線に優しく目を細めると、
「ん?」
と、微笑みながら首を傾げた。
「いえ……」
(――恋愛感情、か……)
桔流は、花厳の金色の瞳を見つめ、思う。
(花厳さんは、俺の事、本当に大切にしてくれて、めちゃくちゃ甘やかしてもくれて、一緒にいると居心地も良くて……、――で、カラダの相性もいい。――そんな花厳さんと居ると、すげぇ幸せな気持ちになるのに……)
対する花厳は、そうして黙したまま見つめてくる桔流を、不思議そうに見つめ返す。
そんな花厳に、桔流は問う。
「あの、花厳さん……。――花厳さんは、どうやって俺の事が好きだって分かったんですか?」
「え?」
桔流は、再び花厳の胸元に頭を預けるようにして続けた。
「俺。やっぱり、――好きとか、恋愛感情とか、よく分からないんです。――花厳さんと一緒に居ると凄く楽しいし、居心地も良くて、幸せって感じもするし、――こうしてそばに居たり、撫でられてると安心するし……」
「うん……」
「――なんかいい匂いするし」
「う――? ――うん……?」
「――それに、花厳さんの匂いってなんか興奮するし、――花厳さん上手だから、シてる時なんて何も考えられなくなるくらい凄い気持ちいいし、優しい花厳さんにマジで激しくされて滅茶苦茶にされてみたいとかも思ったりするんですけど……」
「………………う、……うん……」
「――なのに」
桔流は、花厳の胸元に額をひとつ擦ると、目を伏せる。
「――じゃあ、この気持ちが、花厳さんを恋愛的に好きだっていう気持ちなのかって考えたら、――やっぱり、分からないんです」
「……なるほど」
花厳がそれにひとつ添えると、桔流は頷き、新たに紡ぐ。
「――ねぇ。花厳さん。――その人が恋愛的に好きだっていう事。――どうしたら分かるんですか? ――花厳さんは、どんな時に、“好き”になったって確信するんですか?」
そんな桔流に、花厳は愛おしげに微笑むと、言った。
「――そうだねぇ。――……これは、ちょっと情けない話だから……、あんまりしたくなかったんだけど。――でも、これが桔流君のヒントになるなら、いいかな。――あ。聞いても幻滅しないでね」
花厳の言葉に、桔流は楽しげに微笑む。
「ふふ。しないですよ。――花厳さんが自分で情けなさ過ぎて、取れちゃうくらい耳が下がりきっちゃう話でも、絶対に幻滅しません。――だから、教えてください」
花厳も、それに楽しげに笑い返すと、紡ぐ。
「ははは。ありがとう。それなら安心だよ。――うん。じゃあ話そう」
そして、花厳はまたひとつ桔流の髪を梳くと、記憶を思い起こすようにして語る。
「桔流君は覚えてるかな。――以前、君が、初めて家での食事に誘ってくれた時。――俺、“桔流君には恋人が居る”と思って、最初の返事をしたでしょう?」
花厳の言葉に、桔流ははたと眉を上げると、ひとつ瞬く。
「はい」
「あれ。なんでかって言うと、――実は、あの日の前日。桔流君と別の子がお店から出てくるのを見かけたのが原因でね」
「え? “別の子”?」
「そう」
花厳は、ゆっくりと頷く。
「――その子は酔い潰れちゃってたみたいなんだけど、その時。その子に肩を貸してる桔流君が凄く楽しそうに見えてね。――俺は、そんな君を見た事が無かったから、ちょっと驚いてね。――それで、その子の事を凄く大切に思ってるんだなって感じたんだ。――で、その結果。――俺は、二人が恋人同士なんだと思ってしまった――というわけなんだけど」
そんな花厳の話に、桔流は言う。
「あの。その、酔い潰れてた奴ってもしかして、――前髪上げてる、茶髪の奴ですか?」
花厳はそれに、思い出すようにしながら頷く。
「あぁ。そうそう。――多分、カラカル族の子かな?」
すると、思い当たる節があるらしい桔流は、
「あぁ~……」
と、言った。
それにくすりと笑うと、花厳は続ける。
「――で、二人が恋人同士だと勘違いした俺はね、がっかりしたんだ。――ヘコんだって言った方がいいかな」
「“ヘコんだ”?」
花厳は、苦笑しながら頷く。
「そう。――“あぁ。俺に、桔流君と付き合える可能性ないんだ”――ってね」
その花厳の言葉に、桔流はハッとしたように花厳を見る。
花厳はそれにひとつ笑み、応じるように瞬いた。
「それで、俺は、――自分が桔流君の事を好きになってた事に気が付いたんだ」
「なるほど……」
桔流は、納得した様子で言う。
「そっか。――そういうところで気付くんですね……」
花厳は、苦笑して言う。
「あくまでも“俺は”、ね。――もしかしたら、人によっては他の事で気付く人もいるかもしれないけど、――でも、比較的、俺はこうやって自覚する事が多いかな」
「そうなんですね……。――ううん……」
そして、そんな花厳の言葉を噛み砕きながら、桔流は少し考えるように黙した。
しかし、それからしばらくして、
「うう~ん˝ん˝ん˝~……」
と、難儀そうな声で鳴いたため、花厳はおかしそうに笑いながら言った。
「ははは。駄目そうかな?」
すると、再び花厳の胸元に頭を突っ込み、ぐりぐりと掘削するようにした桔流は言った。
「はい……。――色々想像してみたんですが、俺には、まだ分からないみたいです」
「そうか」
花厳は、そんな桔流の髪を優しく撫でながら言う。
「――でもまぁ。焦って答えを見つけようとする事はないよ。こういう、心の動きに関する事は、焦っても悪い方向に進むだけだからね。――だから、この件についても、桔流君の心のペースに合わせてで大丈夫さ」
「はい……」
すると、花厳の言葉に渋々といった様子で頷いた桔流は、次いで、はたとして言った。
「あ、でも、――恋愛感情はよく分からないですけど、“二股はやだな”って思いました」
「えっ、“二股”?」
「はい」
花厳は、そんな桔流に言う。
「そうか。――でも、その件については安心していいよ。――二股をするなんて事は、絶対にないから」
それに、桔流は首を振る。
「あ。ごめんなさい。違うんです。――もちろん、花厳さんはそんな事しないと思うんですけど。――でも、“だからしないで”って言いたかったんじゃなくて、――どんな形でも、二股になってしまうのは落ち着かないので、“もし花厳さんが他の人を好きになったら、その時は遠慮なく言ってくださいね”――って事です」
「あぁ。なるほど」
「はい」
桔流が頷くと、花厳は苦笑して言う。
「“他の人”――か……。――君が居る今は、君に頼まれたとしても、君以外の人を好きになるのは無理だな」
「ふふ」
そんな花厳に笑うと、桔流はひとつ思う。
(未来の事なんて、分かんないのに。――そうやって言いきっちゃうトコが、花厳さんのいいトコロだな)
そして、自身の心が妙に温かみを帯びている事を、桔流は不思議に思った。
(あれ。なんでだろ。――なんか俺。今。ほっとしてる……? ――もしかして俺、花厳さんが他の人の事好きになるの……)
そんな中、桔流が自問を展開していると、花厳が言った。
「あぁ。もうこんな時間だ。――そろそろ寝ようか。――今日も、大分長く付き合わせてしまったし」
桔流は、そう言って苦笑する花厳に楽しげに頷く。
「ふふ。はい。――俺としては、まだまだお付き合いできますけどね」
すると、花厳は笑い、
「ははは。それは魅力的な話だ。――でも、今日はここまで。俺の欲を甘やかしてもらうのは、また次回お願いするよ」
と言うと、片腕で桔流を抱くようにして、その額にそっと口付けた。
桔流はそれに、またくすぐったそうに笑うと、
「じゃあ、お利口さんに寝る代わりに、こっちにもください」
と、小首を傾げ、艶っぽく花厳を見つめると、唇を微かに開く。
花厳はそれに、しばし瞳の色を揺らがせると、
「――甘やかすなぁ。君は」
と言い、桔流と唇を合わせる。
そして、幾度も食み合いながら、花厳はその敏感な舌を味わった。
花厳は、その果てで、桔流の強請る様な舌に、己の理性が負けそうになるのを感じた。
そんな花厳は、改めて己の欲心を制すると、唇が微かに触れ合う距離で、誘惑するように強請ってくる桔流に、低く言った。
「今日はもう、流石にね――」
それに、桔流は何かを紡ごうとした瞬間。
花厳は、遠慮なく桔流に深く口付けた。
そして、そのままするりと桔流の下着に片手を滑り込ませると、すっかりと熱を持ち、強請りだした桔流の昂ぶりを、その大きな手で絞り上げるようにしてねっとりと扱く。
「んン、ぅ――ッ」
桔流はそれに驚いたように腰を反らせると、咄嗟に花厳の服を両手で掴むが、花厳は構わず桔流の舌を犯す。
それにより、桔流はあっという間に呼吸を乱すと、花厳の手にきつく窘められる度、甘く蕩けた声を絶え間なく零し始めた。
「ぁ、ンんっ……ん……ぅ……」
その間も、桔流の昂ぶりは、花厳の大きな手にじっくり躾けられるように扱かれ、急速に追い立てられてゆく。
その果て、
「ふ、ぁ……、ン……ンんぅ……」
息つく暇もなく峠まで追い立てられた桔流は、
「んン……っ、んぅ……ッ」
息を乱しながら、律動に合わせて啼き続けた、その後。
「んぅ……っ、――ふ、ぁ……ぁっ……ぁっ」
シーツを握りしめ、予兆に急き立てられるままに、一度大きく腰を仰け反らせると、
「――ンんンぅ……っ!」
一際切なく啼き、峠を越えた。
「――……は……、ぁ……、ずるい……ですよ……。――こんな時だけ……激しくするの……」
そんな桔流が息を乱しながらぐずると、桔流を果てさせるなり、手早く桔流の肌を綺麗にした花厳は笑う。
「ふふ。ごめんね。――あんまり時間をかけると、負けちゃいそうだったから。――痛かった?」
「いえ。――すんごい気持ち良かったし……、激しくされてすんごい興奮しました……」
「ははは。ご満足いただけて何より」
桔流は、そんな花厳に未だ不満そうにすると、
「今日はもう大人しく寝ますけど。――次は勝ちます」
と言い、眉間に皺を寄せ、険しい表情で口を尖らせた。
「ふふ。覚悟しておくよ」
そんな桔流にまたひとつ笑い、腕の中に納まった桔流をそっと抱くようにすると、花厳は、
「おやすみ」
と言い、改めて前髪に口付けた。
桔流は、それにぱっと身を起こすと、花厳の首筋に軽く口付け、
「おやすみなさい」
と返し、再び花厳の腕の中に戻った。
それに、
「うん。おやすみ」
と返すと、花厳は、そんな桔流を愛おしげにそっと抱きしめた。
桔流は、その安心感に満たされた腕の中で、ひとつ思った。
(なんか……幸せだ。――もしかしたら、こうして、この先もずっと、花厳さんと一緒に過ごしてさえいれば……、――いつかは俺も、花厳さんの事、ちゃんと好きになれるかも……。――そうなれたら……、嬉しいな……)
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