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前職は舞妓
425
きょう
171
ドリンクバーのボタンを乱暴に押し込み、なみなみと注がれたカルピスソーダのコップをテーブルに置く。向かい側では、すでに運ばれてきた山盛りフライドポテトに、渚が容赦なくケチャップをドバドバと回しかけていた。
「おい、塩分の過剰摂取だぞ。少しは体に気を使え」
「42歳でヘビースモーカーの峯岸さんに言われたくないです。ほら、冷めないうちに事件の概要、どうぞ」
渚はカリッとした音を立ててポテトを口に放り込むと、頬を膨らませながら俺を凝視してきた。
さっきまでの『クラスの変な子』の空気はどこへやら。すっかり事件を聞くモードの顔だ。俺は上着の内ポケットから使い古しの警察手帳を取り出し、付箋の挟まったページを開いた。
「現場は緑ヶ丘のワンルームマンション、402号室。被害者は佐々木勝(ササキマサル)、38歳。IT企業のプログラマーだ。昨日の夜、自室のベッドの上で首を吊っているのが発見された」
「首吊り……じゃあ、自殺?」
「管轄の所轄はそう判断しかけてる。遺書らしきメモもあったし、ドアも窓も内側から施錠された『完全密室』だったからな。……ただ、現場の写真を見て違和感があった」
俺はスマホを取り出し、警察のデータベースから現場の写真を一枚呼び出して渚に見せた。
写真に写っているのは、何の変哲もない男の部屋だ。ただ、足元に倒れているパイプ椅子と、天井の鴨居(かもい)にかけられたロープ。
「違和感って?」
「被害者の佐々木は右利きだ。だが、倒れていたパイプ椅子の位置と、ロープを結んだ結び目の向き……どう見ても左利きの人間が作業した配置なんだよ。それに、部屋の空気がどうにもきな臭い」
「……なるほど。警察の勘ってやつ?」
「まあな。だが、証拠がない。だからお前の出番だ。……放課後のデートと洒落込もうぜ、渚」
「42歳のオジサンとデートとか、補導対象なんですけど」
渚は呆れたように肩をすくめると、最後のポテトを口に放り込み、ドリンクバーの烏龍茶をゴクゴクと飲み干した。
「ま、いいや。チョコパフェは事件解決の成果報酬ってことで取っておく。……行きましょうか、峯岸さん。その佐々木さんの霊が、まだ部屋でくだ巻いてるか確かめに」
「おう」
俺は伝票を掴んで立ち上がった。
ドアの外の空気は、すっかり夜の匂いを孕んでいる。
科学捜査の限界を越えた『違和感』を証明するために。俺たちは夜の街へと愛車を走らせた。
コメント
1件
**みぅ🤍🥀**: 第2話、読み終えました……! バディものの空気感、すごく好きです。42歳のベテラン刑事と、霊感持ってる高校生のコンビ、もうこの時点で面白い。渚くん、クラスでは「変な子」扱いされてるのに、事件になるとちゃんと噛み合うところがいいなあ。密室の違和感(右利きなのに左利きの結び方)って細かいけど、確かに気になる。夜の街に走り出すラスト、ゾクゾクしました。次が気になる……!