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何やってもうまくいかない
朝から全部うまくいかなかった。
寝癖は直らないし、電車には一本乗り遅れるし、忘れ物は三つ。
黒板の前で先生に名前を呼ばれた時、もう心が折れかけてた。
相原透。
中学二年。
特技も夢も、ない。
努力しても、結果が出ないタイプ。
それでも笑って「大丈夫」って言い続けるのが癖になっていた。
笑っとけば、誰も心配しないから。
放課後。
夕焼けに染まる校門を出ると、イヤホンをつける。
聞こえてくるのは、最近ハマってる曲。
《何やってもうまくいかない》
歌詞が、やけに胸に刺さった。
信号待ちの間、スマホの画面を見つめる。
通知が一つ。
──【ユイ】から。
心臓が一瞬止まる。
そんな名前、もうずっと見てなかった。
“元気?”
その一言だけ。
でも、その一言で、時間が巻き戻る。
まだ4歳だったあの日の記憶。
病室の白。
手を握っても、冷たかった妹。
“ユイ”
声に出した瞬間、スマホの画面が光を放った。
次の瞬間、透の視界は真っ白に包まれる。
風の音も、夕焼けも、全部消えた。
——ただひとつだけ。
懐かしい笑い声が、どこかで響いた。
「お兄ちゃん、ひさしぶり」