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透は震える指でスマホを握り、返信を打った。
『誰ですか』
すぐに返事が来る。
『忘れちゃった?』
『ユイだよ』
背後で、かすかな気配がした。
「……おにいちゃん」
振り向くと、そこにいた。
幼い姿のままの妹——ユイ。
夢だと思いたかった。
でも、声も表情も、あまりにも鮮明だった。
「どうして……」
透の声は、うまく出ない。
ユイは少し困ったように笑う。
「ずっと一緒にいたよ。でもね、もう長くは無理なの」
透は、何も言えなかった。
「最後にね、渡したいものがあるの」
ユイが差し出したのは、小さな犬だった。
ただし、その影は二つに分かれて揺れている。
「化け犬だよ」
「透を守ってくれる」
ユイの身体は少しずつ薄くなっていった。
「ごめんね」
「でも、透は一人じゃない」
次の瞬間、ユイの姿は消え、床に残ったのは小さな化け犬だけだった。
透は呆然と立ち尽くす。
胸の奥で、ぽっかりと穴が空いたように感じた。
それでも、化け犬はじっと透を見上げ、尻尾を軽く振った。
——彼は、この奇妙な存在と共に生きていくのだと、心のどこかで悟った。