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#怪異
イキリ火の玉
946
一行は村の西の端にある森の前までやってきた。
「ここです。ここから森に入って……」
沢村は怯えた顔で行き止まりの先にある森を指差した。
車一台がやっと通れる程度だが一応村で一番大きな道の突き当たりにはなんの標識もなく、いきなり森が広がっている。
「島の奴ここから入ってすぐに叫び声が聞こえたんすが、冗談だと思って……」
「……長岡」
「イヤです!」
努はすぐに答えた。梶に睨まれたが森に入るつもりはなかった。
「別に島を探してこいとはいわない。5~6歩入るだけだ。ほら、来い」
そう言って梶は森に入っていった。努は入るつもりはなかったが安田に押されて沢村に肩を殴られ、結局は梶の後を追う事になった。
梶は5~6歩どころではない、道から10メートルほど奥に入っていた。努はしぶしぶ梶の横まで歩いて振り返る。沢村たち三人は森に一歩も入らずこちらを見ていた。
「長岡、何か気づいたことはあるか?」
「気づくもなにも……」
不満そうな声を出しながらも辺りを見渡した。まだ森は明るく所々に切り株もある。この辺りまでは村人も入って木や植物を採っているのだろう。梶もそれに気づいてここまで歩いてきたのだ。
森自体は何の変哲もないキャンプ場の近くにある森と同じようなものだった。ただ、ここより先は草も深くあまり陽の光も入らず薄暗かった。
「まあ、普通の森って感じですが」
努は耳を澄ます。鳥の鳴き声が時々聞こえるだけで静かなものだった。得体のしれない化け物がいるような不気味な雰囲気はなかったが、かといって安心できるような場所でもない。
「あっ、あれって」
努が指差した先に梶も目を向ける。草や小枝をわけて人が進んだ跡があった。
「島が通ったんだな」
梶は近づかずに目を凝らしていたが人の姿も気配もまったく感じられなかった。
「もういい、戻るぞ」
梶は早々に諦めた様子で森を出て行く。努も慌ててあとを追った。
「梶さん、し、島のやつは?」
「いない。沢村、お前は親分のところに戻って絶対に森に入らないように伝えろ。安田、お前もその女を連れて戻っていろ」
沢村は青ざめた顔で走っていった。安田は困惑顔でちぃこと来た道を戻っていった。
「長岡、お前はついてこい。村長のところに行くぞ」
「はい……」
有無を言わせぬ梶の命令に従い奥原の家までついていった。
「なんじゃ?」
声もかけずに扉を開けたが奥原は驚いた様子もなく二人を家にあげた。
「島……若い奴が一人、森に入って戻って来ない」
梶は単刀直入に言った。
「……そうか。アオ様に殺されたんじゃろう」
奥原は淡々と答える。
「妖怪の情報が欲しい。知っていることを全部教えてくれ」
「前に話したとおりじゃ。姿を見たものはいない。ただ森の奥に入ると殺される。そう伝わっているだけじゃ」
「川は? 川を越えた奴はいないのか?」
「おるよ。だが、誰も帰ってこん」
「外に出たのでは? 一度出たら戻って来れないとか」
努は思わず口を挟んだ。
「さあのう。そうかもしれんが、そうじゃないかもしれん。じゃが、命をかけて試すほどこの村に人はおらんのじゃ」
こうして奥原との話は終わった。
本当に森に妖怪はいるのか? 川を渡れば大丈夫なんじゃないか? なにをするにしても命を賭けないといけない。よほどの確信がなければ試すことなんて出来なかった。
コメント
1件
うわあ、森の中の不気味な静けさがすごく伝わってきたよ…。 梶さんは冷静だけど、努くんが嫌がってるのに無理やり連れて行かれる感じとか、ちゃんと心情が描かれててリアルだった。島くんの行方が気になるし、奥原さんの「アオ様に♡♡♡れた」って台詞が重すぎる…。 次が気になる、続きが読みたいです🥀