テラーノベル
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続きです
朝九時。
ドイツさんは、やけに首元まできっちりとしたシャツを着ていた。
——季節の割に、妙だ。
私は自席に着き、何気なく隣を見る。
ドイツさんは既に仕事モード。背筋は真っ直ぐ、表情はいつも通り硬い。
ただ、違和感がある。
なぜかいつもと違い、シャツの第一ボタンが、しっかり留められている。
「日本」
「はい」
「……仕事、始めるぞ」
「承知しました」
それだけ。
なのに、ドイツさんは私と目を合わせない。
キーボードを打つ音が並ぶ。
いつもと同じはずなのに、ドイツさんの動きはどこか落ち着きがない。
少し前屈みになったかと思うと、
すぐ姿勢を正し、ネクタイを整える。
誰かが通りかかるたび、自然と壁側に身体を寄せる。
……分かりやすすぎでは。
「ドイツさん」
「何だ」
「暑くはありませんか」
「へ、平気だ」
即答。
それきり、会話は終わる。
だが、頬が赤い。
コーヒーを取りに行く時も、
ドイツさんは私の一歩前を歩き、決して並ばない。
給湯室で他の社員とすれ違うと、
さりげなく棚を見るふりをして、背中を向けた。
席に戻ってしばらくして。
「日本」
「はい」
「……昨日のことは」
一拍置いて。
「忘れろ」
一瞬、言葉に詰まる。
「私には難しいかと」
ドイツさんは返事をせず、
無言でネクタイを締め直した。
「……昨日の跡が目立つ」
それだけ言って、画面に視線を戻す。
「はい」
「……反省している」
ぽつりと落ちた一言。
私は思わず、小さく笑ってしまう。
「すみません」
「笑うな」
「ですが」
声を潜める。
「昨日のドイツさん、とても可愛かったので」
ドイツさんの手が、一瞬止まった。
「今日は 距離を保て」
「努力します」
その返事に納得したのか、
ドイツさんは何も言わず作業に戻る。
ただ、私が立ち上がるたび、
無意識のように一歩、距離を取る。
昨日盛っていたせいで生まれた、
ほんの少しの気まずさ。
それでも、キーボードを叩くリズムは同じで、
資料の受け渡しは相変わらず正確だ。
何も変わっていない。
ただ、ドイツさんがやけに首元を気にしているだけで。
そして、その理由を知っているのは、
私だけだった。
以上です。リクエストください。(切望)
次回 フライギ
コメント
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あぁああ⤴ ありがとうございます! フライギィィイイイ⤴