愛とはナニか。生きるとはなにか。自分には、つい最近まで其れが解らなかった。だけれど、15歳のある時。中原中也という存在に出会ってから詰まらなかった生にも少しの興味をもてた。愛についても..少しだけ理解できた気がする。
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彼と出会って数年経ったある日の夜、私はたまたま居合わせて遭遇した彼。中原中也に「どうして死にたがる。」と、気に入っている酒場のひとつでそう聞かれた。その問いに私は
「其んなの、生きることに興味がないからに決まっているでしょ? 蛞蝓はそんな事も分からないの?」
と、酒を口に含み乍言った。だが、生きることに興味が無い..というのは少しだけ嘘であった。だけれど、死にたいという気持ちも対して変わらないので强(あながち)、嘘では無かったのかもしれない。
私が毎年忌々しく思う誕生日というイベントが来てまた1つ歳を取り18歳になった年、色んなことが一変した。
先ずは友人である….いや、友人であったという方がいいのだろう。まず一つは織田作が死んだ。死因はミミックという海外の傭兵。その組織の長であるアンドレ・ジイドと撃ち合い、相打ちの末、胸に銃弾を打ち込まれたことによる出血多量だった。そして2つ目。安吾が異能特務課から送られた2重スパイであったと解った事。そして最後は、織田作の死を理由 に私がポートマフィアを離反したということだった。
私がポートマフィアから抜けたのが解った当初は、マフィア総出で探そうとしていたらしい。だが、当然見つかることも無くその大掛かりなかくれんぼという名の大捜索は中止となった。
そしてそれから2年がたった頃ぐらいに、私は武装探偵社に入社した。理由は、織田作に”人を救う側になれ。孤児を助けろ”と伝言を受け取ってしまったから。友人である私がその言葉を..言いつけを守るしかないと思った。唯、それだけの理由である。別にそんな願いなんて、無視しようものなら無視できた。そして今もポートマフィアで人を殺めては誰かの薄汚い血を浴び..そして私自身も穢れた血を流していたのだろう。
だが、織田作の遺言のお陰でもう自身の手を血に染める必要はなくなった。なんなら人助けができた。こんな人を殺めてばっかりであった私にも、人助けができた..そして弱き者を救い孤児を守れた。銃を持っていた筈の手は何時しか誰かを救う手になっていた。この街を守る事が出来た。だけれど、一つだけ心残りにしているモノがあった。そう。中也だ。
きっと、私が組織を抜けた時彼は思いっきり喜んだのだろう。そりゃァそうだ、忌み嫌っている男が目の前から消えたのだから。だけれど、何処かもの寂しくしているのではないか..少しだけ….ほんの少しだけ自分の存在を惜しんで….涙を流してくれているのではないか。そう..少し期待をしてしまう自分がいた。自分の都合のいいように。淡い期待を抱いてしまった。だが、長年嫌がらせばっかしてきて、表では”相棒”という太刀筋で”恋人”なんて言う大層な関係ではない。だから、中也が私の為だけに涙してくれる日は無いとすら思う。
そんなある日、幸か不幸かは分からぬがマフィアに拉致られ、中也に再開することが出来た。彼は相変わらず、背が低くて真っ黒い衣装を纏い趣味の悪い帽子を被って、”元”相棒である私の名を落ち着く声で呼ぶ。そう、ー太宰ー と。
それだけでどれだけ私の胸が高鳴るのか…彼は知りもしないだろう。きっと、これを世の中では「恋」というのだろう。
でも私のこの気持ちは果たして恋なのだろうか….私は、そんなものよりもっとドロドロとしていて..真っ黒い何かで塗り固めた…言葉に表せないモノだと思っている。
例えば…そう、独占欲。きっとこれがこの感情の名としていて相応しいのだろう。それも、自分でも自覚してしまう程の独占欲と慰め程度の恋心。きっと中也にこの感情がバレてしまったら之でもかと言う程引かれるだろう。それか、気持ち悪いと壁を作られて二度と前のように接することは出来ないかもしれない。そんなの、とてもじゃないが厭だ。厭だ厭だ厭だ厭だ….中也に嫌われることは私の心がすり減って行く様で…心の隙間がだんだんと大きくなっていってしまうようで…中也から拒絶の言葉を言い放たれたりしたら真っ黒い、底の見えないような暗闇に突き落とされてしまう。そんな感覚だった。だから、何時もの様に道化の仮面を顔いっぱいに塗りたくって私の全てを包み隠す。きっとバレていない。大丈夫。そう、自分に言い聞かせながら過ごしていた。だけれど中也の前ではそう簡単に道化を演じきれるわけでもないらしかった。
「やっほー蛞蝓!!今日もうねうねしてるね!!!キモチワルーイ!」
「黙れ糞さb…あ?」
「んー?…..なァに?私の美貌に惚れちゃったの?」
「んなわけねぇだろ馬鹿か、其れより手前、体調悪ぃだろ?」
「え?……..否、そんな訳無いじゃない」
「…….あっそ、まぁ俺の体じゃねぇし別にどうなろうと構わねぇが辛いなら休め。じゃーな」
「……(そんな顔に出てた?….いやでも芥川くん達にはバレてなかった…….)」
こういう事が私がまだマフィアにいた頃多々あった。私が言うのもあれだと思うが私ガチ勢の”あの”芥川くんに隠せていた体調不良は中也にはあっさりバレてしまった。
どうして体調不良がわかったのか後日聞いたら「あ?見てわかるだろ。顔色は悪ぃし何時もより歩き方少しおかしかったし、仮にも相棒だろ。んなずっと一緒にいれば嫌でも解る。」
との事だった。だから私が
「ふーん….中也って案外私の事見て居るんだねぇ」
と揶揄ったら、瞬く間に顔を赤く染め上げそっぽを向いてしまった。この時不覚にも”可愛い”と感じてしまった。きっとこの頃から私の独占欲と恋心が宿ったのだろう。
そして、今となっては中也を見ているだけで欲情してしまう程までに拗らせた。之では童貞のようだと笑われてしまいそうだ。其れだけはごめん蒙りたい。
地下牢で会った時以来、よく中也の家に上がり込んでいるのだが4年前と何一つ物の配置が変わっていなかった。普通であれば、1つ2つくらいなら配置を変えるだろう。だが中也の部屋はなんの変哲もなく、数年前と同じ匂いで、同じ家具の配置で…なんとも落ち着く。
ソファーに腰を下ろし、数十分が経った頃ぐらいに、家主の中也が帰ってきた。
もちろん帰れと怒鳴られたが帰れと言われて帰る訳もなく、中也の手料理を食べ中也と同じ寝台でその日の夜を明かした。
彼の側にいるとなんとも不思議なもので、よく眠れるのだ。理由は多分、彼に置いている信頼と彼の体温が原因だろう。
中也は所謂、子供体温と言うやつで年中暖かい。そして、中也特有の匂いがして年がら年中不眠症である私もしっかり熟睡出来る。そう思っている。
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ある日の夜、時刻は11時半頃。
今日も今日と私は中也の家に居座って、中也の酒を中也と共に飲んでいた。今日は気分が良かったのか、珍しく共に飲まないかというお誘いが来た。だから、拒む理由も無かったので二つ返事で承諾した。
グラスにルビー色の液体が注がれる。銘柄を聞くと「ポート・ワイン」だそうだ。
別に、普段は日本酒ばかり飲んでおり葡萄酒は好んで飲まないためワインの銘柄についてはよく分からない。そのため銘柄を聞いても特にピンと来なかった。
肴と共に酒を飲み、アルコールが回り始めた頃、ふと中也が口を開いた
「なぁ、だざい…」
「んー?何中也」
「….手前に言いたいことがあんだよ」
「何?..何時もの文句かい?」
「ち..がくて….その..」
「…….勿体ぶらずに早く言ってよ」
「ぅ…笑うなよ?….その..俺は手前の事がすき…らしい。勿論..恋愛的な意味で….これは別に俺の自己満で..返事はいらねぇから….唯、其れだけだ。」
そう、中也は言った。私は一瞬自分の耳を疑った。だって、あの中也がそんな告白をするなんて誰が思う。私も、そこまでの考えは無かった。だから、夢かとも思ってしまった。アルコールのせいで眠ってしまって..自分に都合の良い夢を見ているんじゃァ無いかと。だから、自分の頬を抓った。が、痛かった。詰まり現実…という事だ。
私はグラスの中に入っていた葡萄酒を一気に飲み干してはグラスを机の上に置き、中也の手からもまだ葡萄酒が残っているグラスを取り上げテーブルの上に置いた。だが、その代わり中也の手を私が握り対面になるような体勢で私は言った。
「….中也から、そんな言葉が聞けるなんて露ほども思わなかった。実のことを言うと、私は君に隠していたことがある。」
「?…..隠していたこと….」
「そう。その、実は私も君と同じ気持ちなんだ…..」
「太宰と..?」
「….だから..詰まるところ両思い..って奴だよ..」
「りょーおもい…….へ!!??両思いィ!!??」
「ずっと言わない心算でいたのに…君にこんな告白をされたらこの気持ちを伝える他ないじゃないか…」
「いや..だって….手前の事だから気持ち悪いって..突っ返されると思ってたし…..」
と中也はごにょごにょと言う。だから私は思わず吹き出してしまった。
「…ふふっ..あははは!!」
「なっ…何だよ….」
「ふふ、ごめんごめん。余りにも考えている事が同じだったから面白くて面白くて」
「あ?…どーゆー意味だよ..」
「んー….君に拒絶されてしまうのが怖くて何年も何年も思いを伝えきれずに拗らせてたんだよねぇ….君に告白するの。君って私の事嫌いだったろう?だから..若し、思いを伝えたとしても、”気持ち悪い”、”近づかないでくれ”って言われちゃうんじゃないかって..内心怖かったんだよ」
「…..何時からだ」
「うーん….18辺りだったかなぁ….」
「その頃からかよ..」
「うん。だからね中也。私の恋心は随分と年季が入っているのだよ」
「…..ふーん..じゃあ俺のはもっと入ってるな」
「は!?..どっ…どういう事!?」
「……俺は16ん時から手前の事が好きだった」
「はっ…はぁ!?…..そんな時から…もっと早く手を出してれば良かった.」
「おいおい、物騒だな」
「はぁ…冗談だよ….でも真逆、君の方が先に好きだったとはねぇ….驚きだよ」
「手前が言うと冗談に聞こえねぇ…」
そういい中也は1度取り上げられた葡萄酒の入ったグラスを取り、口をつける。なんだか、さっきの話をした後だと、中也の一つ一つの仕草が色っぽく見えてしまう。何時もは手套の着いている白い手もチョーカーの巻いてあるはずの首筋も….今は全てが無防備で今にも襲ってしまいたい。おっといけない、本音が漏れてしまった。今のは聞かなかったことにして呉れ給え。でも、中也の手は綺麗だ。手だけじゃない。全てにおいて綺麗だ。目も髪も、傷1つ無い肌も..そして戦って血に濡れた姿も。全てが美しくて芸術的だと私は思う。中にはバケモノだ何だと言う輩もいるらしい、だがそいつらは私が徹底的に排除した。理由は特にない、だが排除しておかなければという気持ちに駆られたから躊躇なく銃の引き金を引いて殺した。まぁ、マフィアにいた頃の話なので今はさすがにやっていない。だけれど、中也のことをバケモノ呼ばわりすると消される。という噂が立ってくれた為、排除をする必要はなくなったのである。一件落着だね!!
あぁ、また話が逸れてしまったね。
えーと…今までの話を纏めると晴れて私たちは恋人同士となった。まだ実感が湧かない。だけれど、毎度起きて横を見るとスヨスヨと天使のような顔で眠っている中也の姿があって、ちゃんと現実なんだと認識させられる。もう二度と離さない、離してやらない。幾らウザがられようと、中也の手を離してなんてやらない。ほかの女や男に目なんて向けせたりしない。私だけを見ていて欲しい。大事なものが出来ればそれは失う事を約束している。だけれど、中也は例え命をかけても守り抜く。そう決めた。何時ものように他愛もない会話をし、愛を伝え合いながら普通に生活する。
怪奇犇めくこの街、ヨコハマで、敵対し合う私たちの新しい物語は今、幕を開けたのである。
ーfinー
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はい、後書きです。
今回は初めてノベルを書きました!
すっごい長かったと思うんですけど..ごめんなさい。自分文章を書かせると長ったらしくなっちゃうんですよ…あと、一応読み返しながら書いているんですけどごっちゃになったり「ふぉん?…おーぉ….おぉ」ってなるところが多々あったりこれ意味違くね?って言う単語もあるかと思うんですが..許してください(((((殴
えーと、葡萄酒の下りでなんでポートワインにしたかって言う理由何ですけど酒言葉でポートワインの酒言葉が「愛の告白」なんですよ。なのでポートワインです!!まぁ、安直ですね(?)
えー、ここまで読んでくださった皆様。改めてありがとうございます!次回も楽しみにしていただけると幸いです!!では、また次回で会いましょ〜!!
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主様最高ですッ…!!! 見ながら口角が天井突破ってました()