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#怪異
イキリ火の玉
1,443
『アオ様に捧げます。赤い美酒を捧げます。赤い肉を捧げます。月満ちる夜に見つけても、どうか私たちに祝福を』
また今日も生け贄の儀式が行われている。努は憂鬱だった。なぜなら梶と一緒に参加することになったからだ。
理由を梶に訊いたが自分で考えろと言われた。少し考えてみて、たぶん儀式のやり方やルールを調べろということだろうと結論に達した。村長の奥原が権力を持っているのは、なにより生け贄の儀式の情報を握っていることだからだ。
親分は酷いことになっていた。安田に折られた脚は添え木をされていたがどす黒く変色していた。
すでに片目が潰され体中に小さな傷があった。儀式の初日にミサが目の器具を押してしまい片目を潰してしまったのだ。
いまは出来るだけ満月まで死なないように過度な拷問を控えさせているようだった。
「チャーさん、今日もイジメテあげるねぇ」
ミサは嬉しそうだ。クルクルと回す小さなドリルのような器具を持ってきて折れてないほうの足の甲に穴を空けている。
親分は悲鳴を上げていたがミサは不満顔で近くの中年の村人に近づいた。
「ああーん、物足りないわぁ」
村人に体をよせる。そして自分の服を脱ぐと相手の服も脱がせ始めた。
「え? 嘘でしょ?」
努は思わず声が漏れた。
ミサはみんなの前で特に親分に見せつけるようにやり始めた。松明一本だけの薄暗い中とはいえ二人の行為はよく見えた。
「ああー、チャーさんよりおっきい。ああ……チャーさんより気持ちィィ」
どうやらこれも拷問の一つのようだ。努が思っていたより効果があったようで親分は絶望した顔でミサの名前を何度も呼んでいた。
「い、いやあ、梶さん、こんなの困っちゃいますね」
努は薄笑いを浮かべながら梶を見たが梶は笑顔も嫌悪もなく冷静に観察していた。努も梶にならって冷静になろうとしたが童貞にこの光景はさすがに厳しかった。
拷問が終わり帰り道。努は梶と二人だけで並んで歩いていた。
「生け贄の儀式について、どう思った?」
「え? いやあ……あっ、いえ……」
梶が冷めた目をしているのに気づいて真面目な顔を作る。
「なんか、いい加減な気がしましたね」
「恐らく拷問に意味はない。満月の日か、満月までに一人分の血と命を捧げればいいのだろう」
「そ、そうですね」
ミサの裸体のことは頭から振り払って改めて考えた。
そもそも本当に生け贄は必要なのだろうか? ただの娯楽と支配のための方便じゃないのか? そんな考えが浮かんだ。
しかし島のあの姿、全身の皮を剥ぎ取られた姿と不思議な力で村から出られないという事実が生け贄と拷問の意義を否定することは出来なかった。
翌日の日中、村の雑用を手伝っていると若者二人が声をかけてきた。村人の中では年齢が近いこともあり、二人とよく話をした。二人はだいたい一緒にいてホタルが外のことを聞きたがって話しかけてくることが多かった。
今日もホタルが特に興味をもっている芸能人のことを話し終えて雑談をしていると、いつもは黙って聞いているだけのセイジが珍しく自分のことを話し始めた。
「実は僕も元はハザマビトだったんです」
「え? そうなの?」
「といっても、この村に来たのは赤ちゃんのときですが。親に捨てられたみたいで裸で川に流れていたそうです」
「そうなんだ……」
「この村って長岡さんから見たらかなり歪んでいますよね?」
「い、いや、それは……」
努は返答に困って言葉を濁す。
「ふふ、僕もそう思っていますよ。外の世界の知識はないのですけどね」
赤ちゃんの頃からこの村にいるのなら他の村人と変わらないはずなのにセイジはどうも雰囲気が違った。
「でも親に捨てられた僕は、この村のおかげで生きています。この村が歪んでいる、生け贄は間違っている。でも、僕はこの村でしか生きていけない存在です。たとえ、最後の一人になっても」
そう言ったセイジは10代半ばとは思えない顔で寂しい笑顔を見せた。
「ウチがずっと一緒にいてあげるよ」
ホタルは慰めるようにセイジの腕にしがみつく。
「ありがとう、ホタル」
「ちょっ、マジ顔で言わないでよ」
あまりにも真剣な顔だったので逆にホタルが照れて顔を赤くした。男同士だけど、まるで恋人同士に見える。だけど他に若者がいないから共依存のようになっているのかなと少し哀れに思った。
「ねえねえ、なんの話しをしてるのぉ~?」
ちぃこがやってきた。最近どうも少年二人と仲良くなろうとしている気がした。さすがに手を出すには若すぎるから、どうせなら自分と……そんな事を考えてしまう努だった。
コメント
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ああ、このエピソード……村の歪みがどんどん深くなってますね。ミサの拷問シーンかなりキツいけど、あれは単なる性的虐待じゃなくて、「親分の心を完全に折る」ための計算された儀式の一部なんだろうなと感じました。何より気になったのはセイジの台詞。「この村でしか生きていけない」って自己認識、彼の出生の秘密と絡めて今後どう転ぶかめちゃくちゃ気になります。ホタルとの関係も含めて、彼が鍵を握ってそう。