テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……ねぇ、聞いてんの?」
と、体を軽く小突かれた。
「なんとか言いなよ…?」
女の子たちは責めるように話して、
「……ファンが守ってる調和を、アンタひとりで、乱さないでくれる?」
距離を縮め、数人で囲んだ輪をじりじりと詰めてきた。
「……カイは、みんなのものなんだからね……」
「そうだよ……カイは、誰のものにも、ならないんだから……」
「……そのために、私たちが見守ってるんだからね……。そう……アナタみたいな特定の人なんかが、絶対に近寄らないようにって……」
女の子たちは互いに言い合い、顔を見合わせて頷いて、
「……だから、近づかないでよ、私たちのカイに……」
全員が揃って私のことをじっと睨み据えた。
その視線には恐怖さすら感じられるようで、身体にぶるりと震えが走るのを覚えた。
「……KILLAのカイは、私たちだけのカイなんだから……」
「……アナタみたいなのが、カイといていいわけないでしょ……」
投げかけられる言葉に、耐えられなくなり、その場からじりじりと後ずさる。
「……行ってよ? 帰って…とっとと!」
「カイのそばになんか、いないでっ!」
「……早くっ! 消えてよ……!」
浴びせられる罵声に、踵を返し思わず逃げ出した。
その背中越しに、
「もう、来ないでよ!」
「カイの前に、現れないで!」
「邪魔なんだから…オバサン!」
容赦のない言葉が、笑い声とともに浴びせられ、私は後ろも見ずに走った。
──夜遅くになって、カイトから連絡が入った。
だけど私は、電話に出ることができなかった。
彼女たちが言ったように、自分はカイトになどふさわしくないとしか思えなかった。
だから、いい加減止められなくもなっている彼への気持ちに、もうこの辺でけりを付けなければいけないようにも感じていた。
彼は、人気絶頂のアーティストで、私はその彼より年齢が4つばかり上の、
隣にいることなどまるで似つかわしくなんてない、普通の人でしかなかった。
彼女たちの言うように、私は彼のそばにいるべきじゃない……。
膨らんだその思いは、もはや消せなくなって、
私はそれっきり彼からの連絡には、一切出ることができなくなった……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!