ザシュッ!
瞬間、善悪が絞め上げる首の裂傷から、コユキが切り抜けた胴体の切り傷から、勢い良く溢れ出した黒み掛かった青紫の瘴気は渦となって、善悪とコユキの中に流れ込んで行き、二人の脳内で徐々に記憶、想い出として形を為していくのであった。
それとは別に、瞬速の斬撃を与えた直後、コユキは一瞬の思索を巡らせた。
――――えっと、皆の力を集めたって事は、んっと、英語で言うとマス? かな? んでその力で切ったんだから…… あ、そっか!
コユキは言った……
「聖女剣術、秘技の一、『特大、マス・カット』!」
くぁぇ、超ダッセェー!! ばあちゃん! そりゃないだろ? であった。
ダサさは兎も角、ギリ、本当にギリで生きていた善悪爺ちゃんと、魔力を使い果たしてヨボヨボのスプラタ・マンユ六柱……
念珠の中のアンラ・マンユもアフラ・マズダに併せて神狼のクチシロ、クロシロチロの三匹も全員バラバラにボシェット城の最上階に倒れこんでピクピク蠢いているのであった、こちらも魔力切れらしい……
少しだけ元気の残っていたコユキ婆ちゃんが言った。
「アスタロト…… てか、ディアブロ? ポセイドゥヌス? まさか、アンタがアスタロトだとは思わなかったわよ! ねぇ? どうすんのよ? この大騒ぎの始末?」
善悪がケホケホしながら続けて言った。
「本当でござるよ…… ポシィ、みんな死に掛けたではござらぬかっ! ちゃんと、謝るのでござるっ!!」
アスタロトは、切り刻まれた体をウニウニ蠢かして再生させながらで有ったが答えるのであった。
「すまぬ! 弟よ、いいや、父クロノスの腹を裂いた日よりは兄か…… 兄上、此度は申し訳ありませんでした、逆らう気持ちは毛頭ございません…… しかし、兄上達が迎えに現れるとは、もしや………… アルマゲドン…… いよいよ始まるのでしょうか?」
善悪が言った。
「いやいや、謝れって言ったのに、お前! ちゃんと謝ってないでござろうが!」
そうなのだ、すみませんはこのままでは済まない、申し訳ないは、申し上げる妥当な理由もありません、で自分の非を認めただけで、正確には謝っている訳では無いのである。
アスタロトがうろたえた……
「はい、謝ります! 皆さんゴメンナサイです! もう、悪い事はあんまりしないつもりで検討していく覚悟を持とうと考察中でございます!」
ちゃんと反省しているかどうかは兎も角、これ以上泥試合を続けるつもりは無いようだ、良かった良かった。
コユキはやれやれと言った表情を浮かべながらアスタロトに答えた。
「アルマゲドンなんて知らないわよ、アタシ達は家族の魂を返して貰いに来ただけだし、さっきの様子からしてアンタもアタシの家族だとは思っていなかった感じに見えたけど、どうなの?」
「うん、と言うよりも、我、別に復活とかしようとしてなかったんだけど…… 誰かが勝手に魂送ってきて…… なんか、もうチョットで完全体だな? んじゃ、復活しようかな? 的なノリだったんだけど……」
アスタロトの言葉を引き継いだのは善悪であった。
「あー、それなんだけどね、さっき一階でチロ達に聞いたでござるが、なんかバアル? プルートが関わってるみたいなのでござるよ、三匹ともストゥクスの河川敷でバアルに捕まったんだって、言っていたのでござる」
「ハデスのヤツが、いや次兄が? それはあり得ないだろう、バアルがヘルヘイムから出る事が出来ないのは誰よりも知っているであろう? ルキフェル兄上自身がそう決めたのだから?」
アスタロトの言葉に今度はコユキが口を開く。
「あのねぇ、アスタロト、私達はルキフェルでもゼウスでも無いのよ、もう二つに分かれて全然別個の人格になったんだからね、ちゃんとそれぞれ、コユキと善悪って呼び分けてよ」
「ああ、そうか、そうだな…… これからはそう呼ばせてもらうよ、ついでに我のこともアスタロト、アスタで統一してくれないか?」
「うむ、アスタでござるな、りょ!」
呼び方が決まったようだ。
「それにしても、バアルがあっちこっち動き回ってるってのは不思議よね? ルキフェルはもう存在しない訳だし、許可もなく移動できる筈は無いし…… 本当にイミフね」
コユキの疑問にアスタロト改め、アスタが質問を重ねた。
「コユキ善悪行ってみるか? 一層下がヘルヘイムだ、次兄に直接問い質すのが早いと思うが?」
「ふむ、そうだね……」
コユキは腕を組もうとしたが、既に体型を戻していた為に届かなかったので、仕方なく指を組んで考えを纏める事にした。
ポクポクポク…………
「……いいえ、今は止めておきましょう、それより地上に戻って行かなきゃいけない所があるわよ!」
その言葉を聞いた善悪には得心がいき捲っていた。
――――そりゃそうだ、今は一刻も早くご家族のもとに帰り、その無事を確かめたいのであろう うん、うん
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