コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ねえママ、魔法の粉もママが作ってるの?」
「んなわけないでしょ。向こうで調達してるただの塩よ、塩」
「しお?」
「アンタ、料理に興味ある? なんかウェイトレスだけじゃもったいないわね」
「今日ポテトサラダ作るのすっごく楽しかった」
「不器用だったけどね」
「うっ、いちいち厳しい」
「やってみたら?」
「え?」
「勇者なんかより断然向いてるわよ。牛刀で喉を掻き切るの上手かったものね。包丁、イケるんじゃない?」
またそうやって、わたしに道を示してくれる。
ウェイトレスだけじゃなくて、その先を見据えて話をしてくれる。
「わたし、やってみる。いつかママみたいなお店が持てるかなぁ? 夢はでっかくだよね!」
「いきなり目標がでかいのよ。とりあえず借金返すまではこの店から抜け出せないからね。あ、あとこのコバルトファイヤードラゴンの肉代もいただくわ」
「ええっ! なんで~! ママのいじわるっ」
ガハハと笑いながらママは片づけを始める。
でもそれって、借金がある限り、ここに住んでいいってこと、だよね?
本当に、どこまで優しいの、ママは。まるでわたしの勇者みたいじゃない。
……おねえだけど。
いや、おっさんなのか?
「明日もバリバリ働いてもらうわよ」
「はーい。おやすみなさーい」
あふ、と大あくびをしてわたしは階段を上がっていく。
薄暗い階段は天窓から月の光が差し込んで、ほんのりとあたりを照らした。
「ああ、マリちゃん」
「はい?」
振り向くとキラリとした何かが飛んでくるので、反射的にそれを両手でキャッチする。
「次は大事にしなさいよ、コバルトファイヤードラゴンの鱗」
「ん?」
手のひらを開いてみれば、月明かりに照らされて虹色に光る楕円形のチャーム。それはまるで昔助けてもらった勇者にもらったそれと同じで――。
「え、うそ、ママが――?!」
もうそこにママの姿はなくて、パタンと扉の閉まる音だけが静かに響く。
胸が震えるとはこういうことなのか。
あの時も、今回も、わたしの行く先を照らしてくれる勇者。
わたしはチャームを付け替える。
月明かりに揺れてキラキラと輝きを増し、前よりも重みを感じるようだった。
わたしはわたしの道を、明日からもしっかりと踏みしめていこう。
決意を新たに、わたしはぐっすりと眠りについたのだった。
【END】