テラーノベル
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俺達は街道を逆走して、人混みになっている戦場を抜けた。
「ライルは森は得意か?」
「当たり前だ」
よし。なら先頭はライルに任せよう。
「森に入る前に、これに着替えてくれ」
王城でいつもの冒険者服に着替えて来たけど、森ならこれだろう。
「なんだこの柄物…」
「迷彩服って言ってな。森の中では見つかりにくい服なんだ。今回も隠密行動で行くぞ」
「りょーかい」
俺の迷彩服しかないけど、俺より小さいライルなら少し折れば着れるだろ。
着替えた俺達は森の中へ姿を消した。
「どっちだ?」
「二時の方向だ」
森の中で魔力波を使うが、絞って使ってもあまりの反応の多さに眩暈がする。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。急ごう」
心配は有難いが、先を急ぎたい。
ここでの一秒が一生の後悔に繋がるからな。
何とか敵に見つかる事なく、密集しているところを視界に捉えることができた。
「派手に行くんだろ?」
「そうだな。気が進まないけど仕方ない。ライル。魔法を撃った瞬間にここを離れるぞ」
「やっと俺も見れるな!」
大量虐殺を楽しみにされても……
まぁ小心者な俺は気が楽になるから有難いけど。
大勢が死んでしまうから出来るなら使いたくなかったけど、仲間の命にはかえられない。
『トルネード・フレアボム』
木々を木の葉のように巻き上げながら、集団がいる方角へとトルネードは突き進んでいく。
それを一拍置いて、フレアボムが追いかけた。
「逃げろ!」
俺とライルは全速力でその場から離れた。
sideセーナ
「人が密集しすぎていて、撃ちづらいですね」
馬車の上にいるミランちゃんが報告して来た。
かれこれ半日は同じ報告だ。
「後少しでセイくん達が戻って来てくれるから、頑張ってね!」
こんな気休めしか言えないことが辛い。
セイくん達がすでにここに来ていたとしても、いくらセイくん達でもこれだけ人が密集していたら中々近づけないよね。
フレアボムで敵を焼き払っても、森に飛び火して火事になったらこっちも逃げ場がないし……
他の魔法だと木々が邪魔をして効果は薄いんだよね。
唯一の利点は、現代兵器があるから、敵をここに近寄らせないことが容易っていうくらい。
やっぱりセイくん達が打開してくれるのを待つしかないよね。
「て、敵軍が増員して来たです!」
「さっきまでとは違います!なりふり構わず突っ込んで来ています!」
遂に来てしまった…私が向こうの指揮官でもそうするよね……
向こうからしたら殿下の周りが団子状態になるのは予想の範囲内だったけど、知らない攻撃方法を私達が取ったから攻めあぐねてしまった。
時間がかけられないなら、被害は増しても防御は捨てて、こちらの防衛力を上回る攻撃をするしかない。
それが、殿下を害する為の総攻撃を意味していた。
夜が明けて日が出たことで、その決断をしたようね。
「私も出るよ!みんな!後少しだよ!」
私も馬車の上に出てライフルを握る。
何の確約もない言葉だけど、仲間達はみんな頷いて応えてくれた。
「セイくん。私を嘘つきにしないでね…」
最後の言葉は戦場の喧騒に掻き消された。
side聖
「うぉおおおおっ!?」
やべえ!?
木が邪魔をして逃げるのが遅れたせいで、またもや吹き飛ばされたぁあ!
「ぶべっ!?」
地面に叩きつけられた俺は、情けない声と共に生を実感した。
「ふぅ。ふぅ。なん、とか。生きてる、ぞ…」
ライルは…?どこだ?
「ライルっ!!」
「ここだ…」
俺の呼び掛けに応えた方向を見ると……
「何、遊んでるんだ?」
「遊んでねーよ。降ろしてくれ」
ライルは木の枝に引っかかっていた。
・
・
ライルを木からおろすと現状の把握に努めた。
「じゃあ魔法を撃った所へ向かうでいいか?」
「そうだな。そこならセイの剣も自由に振れるだろ?」
ここまでは木が密集していたので戦闘は避けていたけど、木がないなら近接戦でも戦えるな。
どちらにしても、じっとしていることなどできない。
俺達はそう決めると、急ぎ現場へと向かった。
辺りは金属片や木の破片が散らばっているだけで、他には何も無かった。
そりゃそうか…スプラッタを見なくて済んだのは不幸中の幸いだな。
「やっぱとんでもねーな。セイなら世界征服出来るんじゃねーか?」
「その前に自分の魔法で死ぬだろうな。
馬鹿言ってないで、次はどうする?」
ここでの爆発は両軍共に見ていたはずだ。今も空には爆発で出来た雲(?)煙(?)が上がっている。
「ここには殆ど来ねーだろうな。 何も知らなきゃ俺でも近寄らねーよ。
セイはまたあのデカいライフルを取りに行ってこいよ。
俺はここで待ってる」
「そうだな」
どうやらいくら待っても敵さんはここへは来そうにないので、巨大な広場から聖奈さんたちを助けに向かうことにした。
パンパンパンパンッパンパンッ
俺が今使っているのは、以前に使っていたアサルトライフルだ。
これでもこの世界の金属鎧くらいなら貫通する。それに装弾数も予備のマガジンも豊富だし。
「ライル!前に出過ぎだ!ミラン達の銃弾に被弾するぞ!」
「わかった」
遠くから銃声が聞こえた。
間違いなく聖奈さん達だ。
漸く目標地点を見つけられた俺達は、後方からの援軍を無くした敵兵を後ろから強襲した。
「くそっ。まだ一万くらいは取りついているな…」
「セイ!埒があかねー。フレアボムを撃て!」
火災が心配だけど、それしかないか……
『フレアボム』
ドガーーーン
「ギャー」「火、火がぁあ!?」
着弾付近は地獄絵図と化したが、仕方ない。
仕方ないって便利な言葉だね。
現実逃避しながらも、俺は魔法を連発していった。
3発程魔法を撃ったところで、俺達の仕業だと気付いた敵軍が・・・崩壊した。
「に、逃げろー」「ば、化け物だっ!?」「し、し、死にたくねぇよー」
おいっ!誰だ!?こんな好青年をつかまえて化け物呼ばわりした奴は!?
「セイさんっ!」
怒声、悲鳴に紛れて、天使の声が聞こえた。
「ミラン!?」
どこだ!?くそっ!まだ見えないぞ!
銃はミラン達に当たるかもしれないので、近くに落ちていた剣を拾い、それを使い敵を薙ぎ倒しながら、声のした方へと駆け出した。
「うぉぉおお!!俺の仲間に手を出すなぁあー!!」
がむしゃらに剣を振りまくり、もはや剣ではなく鈍器として扱った。
「セイさん!!」
「ミラン!!待っていろ!」
「はいっ!」
遂に馬車の上に陣取っている仲間達を見つけることが出来た。
その距離100mくらいだが…味方が多過ぎて辿り着けん。
敵兵はもはや逃げ惑うばかりだから放っておこう。
どうしようかと考えていたら……
「皆の者!此度の戦の功労者へ道を開けよ!」
拡声器のような魔導具を使い、殿下が指示を飛ばしてくれた。
モーゼのように俺の前にいた人だかりが割れて、馬車がはっきり見えた。
「セイさん!」
ガシッ
「ミラン!無事だったか!」
飛びついて来たミランを受け止め、俺は怪我が無いか確認しながら聞いた。
「はい!皆さん怪我なく無事です!」
俺がそれに応える間も無く・・・
「ミラン!交代です!」
ガシッ
あれ?これ、みんなにするのか?
最初は気持ちが入っていたから気にならなかったけど、落ち着いて考えたら恥ずかしいぞ……
聖奈さんも飛び掛かって来たから、それは脇に抱えた。
マリンはライルとお話し中だ。
聖奈さんを降ろしながらこれまでの事情を聞いた。
王子も無事だし、国軍にある程度の被害は出たが規模からすると大した程ではなかった。
それでも千人単位で死者を出し、怪我人は万に及んだ。
「では、国軍はこのまま進軍する。他の戦地も頼んだぞ」
「はい。大丈夫だとは思いますが、戦争に絶対はありませんのでお気をつけ下さい」
エンガード王国軍とはここで一旦お別れだ。
普通の軍では兵站などの輸送があるため、万を越えた軍での進路外の行軍は不可能だ。
何故相手が奇襲して来れたかと言うと、街道から森に入る時に食糧を個人が持てるだけ配り、戦後はこちらから奪う算段でやって来たとのこと。
「後先考えない無茶苦茶戦法だな…」
「ゲームとかでは使えるけど、実際には失敗した時のことを考えると出来ないよね」
もし、国軍を見つけられなかったら飢えで崩壊するし、勝てるかどうかも絶対ではないしな。
崩壊した帝国軍も、この後無事に本国まで帰れるものは少ないとの見通しだった。
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