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ユエツ
78
じんぼ
4,795
中さんサブ (投稿率⤵️)
38
一通の信号が送られてきた
起動の合図
必要なプログラムの電源が付けられていく
かちりかちりと一つずつ電源が付き、体にしみわたるようにして発信が成された
目の前から様々な機械が起動し、動き出す音が聞こえる
聴覚、異常なし
人間のように目覚めたという自覚はないが
傍から見れば”起きた”という行為と変わりない姿だったのだろう
ゆっくりと瞼を開けると、ケースの扉が開いていて、外への道が示されていた
自分の感覚を確かめるように
一歩、踏み出す
床に足裏が触れると同時に”ひやりとした”と思う
感覚器官、異常なし
地に両足をつける
バランス感覚器官、異常なし
ゆっくりと首を横に振り、辺りを見回すとクローゼットと、起動されていない大きなデバイスを見つけた
首の可動域、視覚器官ともに異常なし
とりあえずは全裸をどうにかせねばとクローゼットに向かって歩く
特に何の問題もなくすんなり歩けた
歩行感覚、異常なし
クローゼットのノブをつかみ、引くようにして開けた
思考器官、筋力、異常なし
私は失敗作にはならずに済んだようだ
クローゼットの中には、大ぶりのパーカーと、少しタイトなジーンズパンツ
布地に触れると、ちゃんとクローゼットを握った時とは違う感覚がした
もそもそと服に着替える
問題なく着れる
これも異常なし
次にデバイスに向かって行く
もはや特筆する点もないであろう
床に敷けば、人が10人くらいは横になれるであろうほど大きい画面がでかでかと掲げられ
画面の横幅と同じくらいの長さをした
机程度の高さのデバイスたちが鎮座していた
すぐそばにあったマニュアル通りにデバイスの操作を進めていく
すると、画面が付き、薄緑色の光が、体をなめまわすように検知し始めた
青い半透明の画面が光り、そこに文字が映し出されていく
『生体を確認。首筋のUSBポートからクローン個体と断定』
AIだろうか、淡々と確認した事実を話し連ねている
『光彩、見た目から塩戸博士のクローン個体とみられる』
デバイスの一部が飛び出した
見ると、手形のようなものが描かれている
『本確認をいたします。手形に手を押し当ててください』
言われた通り線に入るように手を置くと、下から緑の光で照らされた
『血流異常なし、シナプス一部欠損。異常固有アビリティ検知。解読失敗。規模は小さいものとみられる』
そこまで言うと、不意に沈黙し、一瞬の静寂が訪れた
どうやら、自分のためのプログラムを開いているらしい
『おかえりなさいませ クローンX089 個体名ショッピ』
簡素な文字がそう歓迎をしてくれた
「……」
だが、自分の胸中はそんなことどうでもよかった
明らかにおかしいのだ
クローン個体というものも、自分がショッピという個体名だということも知っている
そして、クローンには前のクローン個体とオリジナルの記憶があるはずなことも
ない。
思い出せないのだ
『個体名ショッピ。体になにか不具合があるのですか?』
その声で、はっと目が覚めたような感覚がした
AIとはいえ、第三者の声によって
こっちの言動がすこしずつ人間らしくなっていくのを感じる
「申し訳ありません、不具合を感知しました。記憶がないようです」
そう正直に答えた
今更だが、声帯、異常なし
『確かに、学習した塩戸博士とは口調に異なる点が見受けられます。これをご活用ください』
そうAIが言うと、デバイスのうちの一つから、引き出しが飛び出した
箱を覗き込むと、一本のUSBメモリが入っていた
手に取って、首元のポートに差し込む
すると、一部だが記憶が戻ってきた
塩戸博士の姿、形、趣味嗜好、性格、口調、全てがインプットされていく
上手く体内のシナプスと融合されたようだ
カチカチと何かがハマっていく気がする
少ししてから、インプットしきったのでメモリを抜いた
『個体名ショッピ もうよろしいのですか?』
そうAIが尋ねてきた
「はい、もう平気っす」
それだけ言って、メモリを引き出しに戻す
『……。』
AIは何も言わない
「どうかしたっすか?」
『いえ、ずいぶんと過去の統計データからすると早いものだと。気にしないでください。記憶欠損程度なら計画に支障はありません。続けます』
「りょーかい」
ワイが塩戸博士の思考回路や口調、性格が瞬時にインプットされ
元のクローン個体だった時の性格とグラデーションしていったのを自覚した
『あなたに課された任務は、この世界のどこかに存在するはずの塩戸博士と、千井野助手の捜索です。』
すると、一枚の写真が画面に映し出された
話を落ち着いて聞こうと、すぐそばにあったパイプ椅子を引き寄せる
ドカリと座り込むと、古ぼけた椅子は悲鳴のように軋んだ
画面には、仲が良さそうな男性二人
ふざけ合っていたりして”仲睦まじい”そんな言葉がぴったりな二人やった
ワイの見た目とはまったく違うオレンジ頭の高身長の男が、知野助手やろうな
『ある日を境に、二名は忽然と姿を消しましたが、この二名の生体反応はいまだ途絶えておりません。』
画面に浮かぶ二人の顔の横に矢印が浮かび
その矢印の先にALIVEと書かれた
『今、この世界は怪物に浸食されています。人間は乗っ取られ、今も外を徘徊し、文明を破壊しています』
次は画面に外の中継が映し出される
肌が真っ青になり、呻きながら街を徘徊する
人の形をした何か達。
目や口、耳から赤い触手のようなものが飛び出ている個体もいれば
まだ浸食が遅れている個体もある
その中には、ワイと全く同じ顔をしているやつもおった
『クローンX071 個体名ショッピ あなたの前のクローンです。』
気分は、ええはずはないやろ
『彼は筋力が衰えた状態で任務にあたったため、失敗し、あのような姿となりました』
少しこちらが顔をしかめたのを認識してか、AIがこんなことを言った
『やはり通常はそのような反応をしますね。』
「…どういうことや?」
『クローンY075は不謹慎にも満面の笑みでしたので』
ワントーン下げてAIが言う
「げぇ…」
ワイはさらに顔をしかめた
『話を戻します』
声をまた単調なものに戻す
ワイも少し椅子からずり落ちていたところを元に戻した
『武器はクローゼット奥に隠されています。塩戸博士の指紋が必要ですが…愚問でしたね』
そう言ってきたのでワイ自身の手をひらひらとして無言の意思表示をする
『以降、何か質問があればいつでも聞くようにしてください。彼らの生命反応が途絶える前に』
「へいへい」
そういうと画面はぷつんと途絶えた
少しの静寂と、真っ暗な部屋
組んでいた足を下ろし、少しため息をつく
立ち上がると、さっきのクローゼットの奥から低い音が聞こえた
クローゼットの服をかき分けると奥に緑色に淡く光る何か
手をかざすと、さっきスキャンされたみたいに光がワイの手を照らした
暫く時間を置いてから、装置が青く光り、何か機械が動き出す
認証装置あたりが回転し、90度回る
すると装置を避けるように壁に切れ込みが入り、中で音を立てながらドアが開いた
同時に滑らかな動きでバットやこん棒などからスタンガンや拳銃、ライフルなど幅広い武器がこちらに差し出された
横にはヘルメットや防具が用意されている
よくある軽いアルミ製のバットのグリップを握りしめていう
「さて、我が塩戸博士のために」