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こと-koto
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Side 健治
勤務先である大手製薬会社アルゴファーマに到着し、自分のデスクでPCを立ち上げ、メールのチェックを始める。
すると、友部課長に声をかけられた。
「菅生君、今、いいかね」
「はい」
今朝、美緒と話していた配置換えの事だろうと、予想をしながらミーティングルームへと赴く。
そして、内容はやはり、その話だった。
新しい担当地区は、|栢浜《かやはま》市。
転勤にはならず、会社から車で30分程の近隣の市である。
営業成績が振るわない地区へ俺の能力を買っての配置と、友部課長からの説明があった。
テコ入れを期待されて、声が掛かったのだが、俺にはため息しか出なかった。
友部課長に「期待しているぞ」と肩を叩かれる。
「はい、期待にお応えできるよう頑張ります」と返事をしたものの、心の中では「よりにもよって|栢浜《かやはま》かよ」と悪態をつく。
政令指定都市の |栢浜《かやはま》市 には、14の区があるその14の区を4つに区切りA班~D班に分けて、担当MRを配置していた。
それをまとめるのが、俺の役目となる。
新たな担当地区である、|栢浜《かやはま》市には強力なライバル企業が君臨していた。
|栢浜《かやはま》市に本社・工場を置いている三栄製薬だ。
地域貢献や医院とのつながりが根強く残り、俺の勤務先である、アルゴファーマは大手ながら、この地区へ食い込めずにいた。
担当地区への挨拶周りは、病床数の大きな病院が優先で始まる。
|栢浜《かやはま》市全体では、およそ100弱。
そして、|栢浜《かやはま》市緑原区に病院の1つに『緑原総合病院』がある。
その『緑原総合病院』は、元カノ・野々宮果歩の実家である事が俺にとって憂鬱の種でもあった。
*
今までの担当地区の引継ぎと新しい地区の引継ぎが始まると日中は挨拶周りに追われ、その間に通常の業務をこなし、その後、会社に戻り書類を作り時間に追われる日々が始まった。
家に帰るのが暫く遅くなり、美緒との時間が取れない事に不安が溜まる。
美緒が受け入れてくれたとはいえ、舌の根の乾かぬ内に、連日帰りが遅くなったら浮気を疑われるのではないだろうか?
仕事を理由に今まで、野々宮果歩と逢瀬を重ねていた。
自業自得とはいえ、真面目に仕事をして、疑われてこれ以上こじれるのはゴメンだ。
それに、野々宮の実家の『緑原総合病院』に出入りしなければならなくなってしまった。フラフラ遊んでいる野々宮果歩に病院で会うとは思えないが、関わりを絶とうとしている時に、纏わりつかれている様な嫌な予感が拭えない。
家に帰り着くと、既に眠っている美緒の脇に立ちそっと手を伸ばす。
髪を撫で、美緒の頬に手を当てると美緒の体温が伝わってくる。
「美緒、おやすみ」
小さな声で呟やいて、眠る美緒の額にそっとキスを落とす。
規則的に寝息を立てている美緒を眺めながら、自分の中に湧き起こる不安を必死で抑え込んだ。