テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#極道
鷹槻れん

17,650
#夏油傑
月銀澪
141
夢語りの浮浪者
123
「はあ……甘いものはいいなぁ」
あんみつを食べ終わった明はすっかり満足した様子で、茶をすすっている。
「田村さん、今日はずいぶん疲れたみたいね」
雅子が笑う。
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「私?」
「そうだよ!」
「まあまあ。楽しめたのだからいいじゃないか」
晴人が、のんびりと二人のやり取りを眺めていた。
「それにしても、この店のあんみつって美味しいわね」
雅子も満足そうに匙を置く。
「あら?」
雅子が一点を見つめた。
「どうした?」
晴人が尋ねる。
「ほら、あの方」
雅子の視線の先に、男が座っていた。
「あっ!」
明も気づいた。
「さっき写真を撮ってくれた人じゃないか!」
男もこちらに気づき、軽く会釈してくる。
「ああ、先ほどはどうも」
「こちらこそ。写真、ありがとうございました」
雅子が笑顔で頭を下げる。
「いえ、どういたしまして」
男も笑って答えた。
と──。
恵子が匙を落とす。
「恵子さん?」
「す、すみません。ついうっかりして……」
恵子は慌てて匙を取ろうとした。
「ああ、俺が」
明は、恵子が落とした匙を床から拾い上げた。
「ありがとうございます……」
礼を言う恵子は、どこか緊張している。粗相をしてしまったからなのだろうと明は思い、なんとか気をそらそうと話題を探した。
しかし適当な話が出てこない。
「それにしても、男一人であんみつなのね……」
雅子が、隙をつくように言うと、先ほどの男をちらりと見た。
「ああ、きっと、凄い甘党なんだろうなぁ」
「田村さん、そこなの?」
雅子が吹き出した。
「別にいいじゃないか。甘いものが好きなのだろう」
晴人は、いたって平然としている。
「まあ、それもそうよね。お好きなのよね」
雅子も納得したように頷いた。
「では、そろそろ」
晴人が財布をだした。
恵子が慌てる。
「ああ、ここは俺たちがというか晴人に任せておけばいいですよ」
明は恵子に、勘定は心配いらないと告げる。
「そうそう。殿方に任せておくのが一番」
雅子も呑気にかまえている。
「あ、あの、ごちそうさまでした……」
恵子が頭を下げた。
「いや、気にしないでください。恵子さん。本日はありがとうございました」
晴人が声を掛ける。
「こちらこそ……」
恵子は再び小さく頭を下げた。
「それじゃあ、今日はこの辺でお開きね」
雅子が笑う。
「勘定を!」
晴人が店の奥へ声をかけた。
「じゃあ先に出ておくわ」
雅子が立ち上がる。
「恵子さん、行きましょうか」
明の申し出に、恵子はやはりおとおどしている。
「ああ、本当に会計のことは気にしなくていいんですよ」
明は、恵子を納得させようと朗らかに言った。
そして数日後──。
いつものカフェで、晴人と雅子が顔を突き合わせている。
「綺麗に撮れてるわね」
雅子が得意気に言った。
テーブルには写真が並べられている。
あのデートの時に撮影した写真だ。
「あーー、やっぱり背後に人が映り込んじゃってるわ」
「それは仕方ないさ。あの人出だ」
残念そうにしている雅子に晴人は優しく声をかけた。
「でも、せっかくの記念写真ですもの。というより、田村さんと恵子さんの記念でもあるわけでしょ?二人だけで写ってるべきなのよねぇ」
「だが、ちゃんとピントは合ってる。背後の人影もうまくぼかしてるし……」
そこまで言って、晴人は黙り込んだ。
そして、写真を次々見比べ始めた。
「どうかした?」
晴人の挙動を不思議そうに雅子が見ている。
「いや、気のせいか?」
晴人は写真を見つめ考えこんだ。
「マスター、天眼鏡《むしめがね》貸してくれないかい?」
突然の申し出にマスターもあたふたしつつ、いつも新聞を読むときに使っている天眼鏡を晴人へ差し出した。
晴人はマスターから天眼鏡を受け取ると写真にかざして熱心に見入っている。
「……」
「どうしたの?」
「いや……これは偶然なのだろうか?」
晴人は雅子に天眼鏡を差し出した。
「何?」
写真を拡大するが、雅子は何が何だか分からず晴人を見る。
「ここだよ」
晴人が写真を指さした。
「……え?これ……」
雅子も晴人の言わんとすることに気がつく。
ぶっきらぼうな表情の明とはにかむ恵子が写っている。その背後には家族連れが写り込んでいた。
そして、一人の男も──。
晴人は雅子に何枚か写真を手渡す。
雅子は一枚づつ天眼鏡で写真を確認したが、さっと顔色を変えた。
「俺の見間違いではなさそうだな」
「ええ、同じ人!こっちにも!え?!やだ!この人、こちらを見てるわよ!」
「ただの通りすがりにしてはおかしいだろ?」
晴人が差し出した写真すべてに同じ男が写り込んでいる。
「そうね、偶然とは言い切れないわね……」
雅子も晴人に同意した。
「だが、これには男は写っていないんだ」
言いながら晴人は、四人で撮った写真を雅子に見せる。
「……あら?本当。写ってないわね。じゃあ、やっぱり偶然?」
「そうかな?」
晴人は何か核心を持ってか、ゆっくり口角を上げた。
「……この時は、写れなかったんだよ」
コメント
1件
甘味処のほっこりした空気から、写真の不気味な発見へと一気に引き込まれました。「写れなかった」のラスト、背筋がひんやりしますね。恵子さんの緊張が初対面以上のものを示唆しているようで、この男との因縁が気になって仕方ないです。伏線の張り方が巧みで、続きが待ち遠しいです!