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#極道
鷹槻れん

13,284
#入れ替わり
亜李栖
15
#マイノリティ
野々さくら
814
「はあ……甘いものはいいなぁ」
あんみつを食べ終わった明はすっかり満足した様子で、茶をすすっている。
「田村さん、今日はずいぶん疲れたみたいね」
雅子が笑う。
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「私?」
「そうだよ!」
「まあまあ。楽しめたのだからいいじゃないか」
晴人が、のんびりと二人のやり取りを眺めていた。
「それにしても、この店のあんみつって美味しいわね」
雅子も満足そうに匙を置く。
「あら?」
雅子が一点を見つめた。
「どうした?」
晴人が尋ねる。
「ほら、あの方」
雅子の視線の先に、男が座っていた。
「あっ!」
明も気づいた。
「さっき写真を撮ってくれた人じゃないか!」
男もこちらに気づき、軽く会釈してくる。
「ああ、先ほどはどうも」
「こちらこそ。写真、ありがとうございました」
雅子が笑顔で頭を下げる。
「いえ、どういたしまして」
男も笑って答えた。
と──。
恵子が匙を落とす。
「恵子さん?」
「す、すみません。ついうっかりして……」
恵子は慌てて匙を取ろうとした。
「ああ、俺が」
明は、恵子が落とした匙を床から拾い上げた。
「ありがとうございます……」
礼を言う恵子は、どこか緊張している。粗相をしてしまったからなのだろうと明は思い、なんとか気をそらそうと話題を探した。
しかし適当な話が出てこない。
「それにしても、男一人であんみつなのね……」
雅子が、隙をつくように言うと、先ほどの男をちらりと見た。
「ああ、きっと、凄い甘党なんだろうなぁ」
「田村さん、そこなの?」
雅子が吹き出した。
「別にいいじゃないか。甘いものが好きなのだろう」
晴人は、いたって平然としている。
「まあ、それもそうよね。お好きなのよね」
雅子も納得したように頷いた。
「では、そろそろ」
晴人が財布をだした。
恵子が慌てる。
「ああ、ここは俺たちがというか晴人に任せておけばいいですよ」
明は恵子に、勘定は心配いらないと告げる。
「そうそう。殿方に任せておくのが一番」
雅子も呑気にかまえている。
「あ、あの、ごちそうさまでした……」
恵子が頭を下げた。
「いや、気にしないでください。恵子さん。本日はありがとうございました」
晴人が声を掛ける。
「こちらこそ……」
恵子は再び小さく頭を下げた。
「それじゃあ、今日はこの辺でお開きね」
雅子が笑う。
「勘定を!」
晴人が店の奥へ声をかけた。
「じゃあ先に出ておくわ」
雅子が立ち上がる。
「恵子さん、行きましょうか」
明の申し出に、恵子はやはりおとおどしている。
「ああ、本当に会計のことは気にしなくていいんですよ」
明は、恵子を納得させようと朗らかに言った。
そして数日後──。
いつものカフェで、晴人と雅子が顔を突き合わせている。
「綺麗に撮れてるわね」
雅子が得意気に言った。
テーブルには写真が並べられている。
あのデートの時に撮影した写真だ。
「あーー、やっぱり背後に人が映り込んじゃってるわ」
「それは仕方ないさ。あの人出だ」
残念そうにしている雅子に晴人は優しく声をかけた。
「でも、せっかくの記念写真ですもの。というより、田村さんと恵子さんの記念でもあるわけでしょ?二人だけで写ってるべきなのよねぇ」
「だが、ちゃんとピントは合ってる。背後の人影もうまくぼかしてるし……」
そこまで言って、晴人は黙り込んだ。
そして、写真を次々見比べ始めた。
「どうかした?」
晴人の挙動を不思議そうに雅子が見ている。
「いや、気のせいか?」
晴人は写真を見つめ考えこんだ。
「マスター、天眼鏡《むしめがね》貸してくれないかい?」
突然の申し出にマスターもあたふたしつつ、いつも新聞を読むときに使っている天眼鏡を晴人へ差し出した。
晴人はマスターから天眼鏡を受け取ると写真にかざして熱心に見入っている。
「……」
「どうしたの?」
「いや……これは偶然なのだろうか?」
晴人は雅子に天眼鏡を差し出した。
「何?」
写真を拡大するが、雅子は何が何だか分からず晴人を見る。
「ここだよ」
晴人が写真を指さした。
「……え?これ……」
雅子も晴人の言わんとすることに気がつく。
ぶっきらぼうな表情の明とはにかむ恵子が写っている。その背後には家族連れが写り込んでいた。
そして、一人の男も──。
晴人は雅子に何枚か写真を手渡す。
雅子は一枚づつ天眼鏡で写真を確認したが、さっと顔色を変えた。
「俺の見間違いではなさそうだな」
「ええ、同じ人!こっちにも!え?!やだ!この人、こちらを見てるわよ!」
「ただの通りすがりにしてはおかしいだろ?」
晴人が差し出した写真すべてに同じ男が写り込んでいる。
「そうね、偶然とは言い切れないわね……」
雅子も晴人に同意した。
「だが、これには男は写っていないんだ」
言いながら晴人は、四人で撮った写真を雅子に見せる。
「……あら?本当。写ってないわね。じゃあ、やっぱり偶然?」
「そうかな?」
晴人は何か核心を持ってか、ゆっくり口角を上げた。
「……この時は、写れなかったんだよ」
コメント
1件
甘味処のほっこりした空気から、写真の不気味な発見へと一気に引き込まれました。「写れなかった」のラスト、背筋がひんやりしますね。恵子さんの緊張が初対面以上のものを示唆しているようで、この男との因縁が気になって仕方ないです。伏線の張り方が巧みで、続きが待ち遠しいです!