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「どういうこと?」
雅子が言葉に詰まる。
「よく見てご覧」
言われて雅子は、再度写真を見比べた。
「あっ!この人!写真を撮ってくれた人だわ!」
雅子の気付きに晴人は頷く。
「ああ、だから、四人で撮った写真には写り込んでないのね……でも……それなら……やだ!私たちつけられてたわけ?!」
「さあ……そう考えるべきなのか……」
結論に達するには早いと晴人は口ごもる。
「ただ、偶然にしては必然なんだよ」
「なんなのその理屈っぽい言い方!」
雅子が苛つく。
「思い出してごらん。この男、あんみつ屋にもいただろう?」
あっと、雅子は息を飲む。
どうして、帝都庭園、浅草、そして、飛び込みで入ったあんみつ屋にまで男はいたのか。
「……見張っていた?」
「やっぱり、そうとしか考えられないんだ」
「そうよね。帝都庭園と浅草までなら観光地だから、たまたまと言い切れる。でも、あの日、私たちは適当に甘味処を選んだ……」
「偶然が重なりすぎているだろう?」
「それに、男一人であんみつ食べるのも……ひっかかるわ」
「まあね。でも、男があんみつを一人で食べたらいけない事もない。そこは、決めつけられないな」
晴人と雅子は考え込んだ。
証拠がないだけに、この写り込んだ男の正体、目的がまるで見えない。
雅子が天眼鏡《むしめがね》を握り、再び真剣に写真を見始めた。
「……この男……田村さんと恵子さんを見てるわよ」
「それは、考えすぎだろう?たまたまじゃないのかい?」
晴人は、雅子の言い分を一笑した。
「いえ、他人の影に隠れるように立っているわ。そして、どの写真も田村さんたちを見てるの」
「つまり、歩いてない?通行人ではないと?」
「ほら、写り込んでいる人を見て。動いている、つまり歩いているから少しだけぶれているのよ。でも、この男は止まっているからぶれてない」
#極道
鷹槻れん

13,284
#入れ替わり
亜李栖
15
#マイノリティ
野々さくら
814
だから、拡大すると顔もはっきりわかるのだと雅子は言い張る。
「まあ、一理あるかな……でも、ひょっとしたら、撮影が珍しくて眺めているだけだったのかもしれないだろう?」
「そうかしら?この男の視線は二人に向けてではない感じがするの……」
雅子は更に写真を凝視した。
「……恵子さんだけを見ている気がする」
「恵子さんを?」
雅子は天眼鏡を晴人に手渡した。
受け取った晴人は、再度写真を見てみる。
「……そうだなあ……どうなんだろう……」
確証はない。ただ、言われてみればそうかもしれないという感じではある。
「ねぇ、恵子さん常におどおどしてなかった?」
「ああ。そうだね。僕たちに気兼ねしていたと思っていたが……」
「内気な方なのかしらと私も思っていたけど……仮によ、この写真の男に見張られているのを知っていたならば……」
晴人は、天眼鏡を置くと考え込んだ。
「脅されていたのだろうか?いや、それならもっと脅えるはずだ。最悪、帰ると言い張るだろうし……」
「ねぇ!あんみつ屋で、恵子さん匙を床へ落としたわよね」
「ああ、確かそうだったな……」
「あり得ると思う?」
「そりゃあ、人間だからそれぐらいあるだろう」
「でも、恵子さんの家は上級軍人……躾は厳しくされているはずよ?人前での粗相なんてありえないと思うの」
雅子は一気にまくし立てた。
「なるほど。言われてみれば……」
「つまりね、あんみつ屋にまで男が来たから、そして私たちと言葉を交わしたから動揺したんじゃないかしら?」
雅子の推理に晴人は黙り込む。
「まあ、そう考えると都合はいい。だが、雅子、あくまでも、想像上の話だ」
言う晴人の口は重い。勝手に恵子を巻き込みたくないと言いたいようだった。
「なによ、言い出したのはあなたよ」
謎は解けず、雅子の機嫌が一気に悪くなる。
そこへ──。
「……マスター、コーヒー」
ドアが押し開けられて明が、のっそりと店に入って来た。
「あっ!田村さん!ちょうど良かった!」
雅子が明を手招く。
「ああ、雅子さん。ご機嫌よう。……晴人……ちょっといいか」
明は見るからに消沈していた。
「……どうした?」
いつもと違う明の様子に晴人も何事かと首を傾げる。
「……見合い、流れたよ」
それだけ言うと、明は一人になりたいと、カウンター席に腰を下ろした。
晴人と雅子は話が見えないと顔を見合わせる。
「それは残念でしたね」
マスターが、コーヒーを淹れながら明へ声をかけた。
「まあ、いいんだけど。どうせ、受けるつもりなかったし……」
明の口調はどこか投げやりになっている。
「……男がいたんだよ」
明が俯き言った。
「男?!」
雅子が叫ぶが、それは裏返っていた。
晴人は、途端にテーブルに広げていた写真を片付ける。
「駆け落ちしたらしんだ。俺たちのダブルデートの後で……」
明は、そこまで言うとカウンターに突っ伏した。
「ねぇ……」
雅子が、晴人へ小声で言う。ちらりと重ねられている写真を見ながら……。
「……多分相手は……」
晴人も、そっと写真を見た。
「明、そもそも、君は断られるのを望んでいたのだから……」
晴人が席を立ち明の隣へ行った。
雅子は即座に写真を手に取るとバックの中にしまい込む。
「……確かにまあ、そうなんだけど。でも、晴人。よりにもよって、駆け落ちだぞ」
はあーーと、明は大きく息をつく。
「うん、まあ、なんだ、とにかく、君は、今まで通り暇を堪能できるということじゃないか?」
晴人は、言葉に詰まる。
「ああ、そういうことにはなるけどなぁ。駆け落ちって、そりゃないと思わないかぁ?!」
「コーヒーをどうぞ」
マスターが恐る恐るカップを差し出す。
「……ああ」
明はカップを受け取ったものの、浮かぬ顔だ。
「まあ、田村さん。そんなに落ち込まなくてもいいじゃない」
雅子が慰める。
「落ち込んでねぇよ」
「そう?」
「俺はただ……」
明はコーヒーを一口飲んだ。
「……なんで駆け落ちなんだよ」
「知らんよ」
晴人は即答した。
「いや、そこは考えてくれよ!」
明が食ってかかる。
晴人は苦笑し、雅子も笑った。
「では、考えるとするか。マスターコーヒーのおかわりを」
晴人は何食わぬ顔で言った。
了
コメント
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第5話、一気に謎が深まりましたね。写真に写り込んだ不審な男性と明さんの駆け落ち話が交差して、展開がすごく気になります。雅子さんの観察眼が鋭くて、あんみつ屋で恵子さんが匙を落とした場面の推理には「なるほど」と膝を打ちました。晴人さんが慎重なのもわかるけど…。そして明さんの「なぜ駆け落ちなんだよ」というセリフ、切実で笑ってしまいつつ、この後どうなるのか本当に続きが気になります。面白かったです!