テラーノベル
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45
#ntjo組
ゆかボンド
30
大学というものは、どうしてこうも疲れるのだろう。
「……疲れた」
大学の講義を終え、俺――青井らだ男は、大きく息を吐いた。
時計を見る。
午後七時三十分。
これからスーパーのバイトがある。
「……帰りてぇ」
帰るわけにはいかない。
家賃も払わなければならないし、食費だって必要だ。
何より、今月はちょっと使いすぎた。
何に使ったのかは覚えていない。
たぶん、ゲームだ。
「……頑張ろ」
自分に言い聞かせ、俺はスーパーへ向かった。
――それから数時間。
「ありがとうございましたー」
最後の客を見送り、俺は制服を脱いだ。
時刻は午後十時を回っている。
「疲れた……」
今日はもう何もしたくない。
帰ったら風呂に入って、適当に飯を食って寝よう。
そんなことを考えながら、俺は夜道を歩いていた。
静かな住宅街。
街灯が一定間隔で並び、少し先の道をぼんやりと照らしている。
いつもの帰り道。
いつもの景色。
いつもの――
「……ん?」
道端に、何か置いてある。
段ボールだった。
かなり年季が入っている。
ところどころ潰れていて、ガムテープも雑に貼られている。
「……粗大ゴミ?」
近づいてみる。
段ボールの側面には、太いマジックで文字が書かれていた。
――『拾ってください』
「…………」
俺は立ち止まった。
「いや……」
誰が拾うんだよ。
そう思った。
思ったので、そのまま通り過ぎた。
三歩。
四歩。
五歩。
「…………」
止まった。
「…………いや、気になるな」
振り返る。
段ボールは、そこにある。
「……」
戻る。
しゃがむ。
蓋に手をかける。
「…………何入ってんだ、?」
ゆっくりと開ける。
中は暗い。
最初は、何が入っているのか分からなかった。
だが。
「…………」
何かが動いた。
「……え?」
小さな影。
俺が目を凝らす。
そして――
「…………」
目が合った。
緑色の、小さな生き物と。
「…………」
「…………」
数秒間、沈黙が続いた。
小さな角。
丸っこい身体。
短い手足。
そして、背中には小さな翼。
「…………トカゲ?」
「ドラゴン」
「…………」
蓋を閉めた。
そして、もう一度開けた。
「…………」
「ドラゴン」
「聞き間違いじゃなかった……」
俺は頭を抱えた。
「なんで?」
「?」
「なんでドラゴンが段ボールに入ってんの?」
「知らない」
「お前が知らないのかよ」
ドラゴンは、じっと俺を見る。
よく見ると、かなり小さい。
片手で抱えられるくらいだ
そして――
「……お前、なんか痩せてない?」
「腹減った」
「急だな」
「腹減った」
「それは分かったから」
「腹減った」
「三回言えばどうにかなると思うなよ」
ドラゴンは俺を見つめている。
目が、本気だった。
「…………」
俺は財布を取り出した。
「……なんか食う?」
「食う」
「即答かよ」
結局。
俺はコンビニで食べ物を買った。
何を食べるのか分からなかったので、とりあえずパンと肉と野菜とその他いろいろ。そして再び段ボールの前に戻る。
「ほら」
「……!」
ドラゴンの目が輝いた。
次の瞬間。
「うまい」
「早っ」
むしゃむしゃ。
もぐもぐ。
ごくん。
「うまい」
「そうか」
「もっと」
「……」
俺は財布を見る。
「…………」
今月、あと何日だっけ。
「もっと」
「お前、遠慮って言葉知ってる?」
「知らない」
「だろうな」
しかし、目の前で腹を空かせた生き物を放っておくこともできない。
俺はため息をついた。
「……ほら。これも食え」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
小さなドラゴンは、嬉しそうに食事を続けた。その様子を眺めていると、なんだか放っておけなくなってくる。
「なぁ」
「なに?」
「お前、名前は?」
「ない」
「ないの?」
「ない」
「じゃあ……」
俺はドラゴンを見る。
緑色。
それ以外に特徴らしい特徴もない。
「……みどり」
「みどり?」
「緑色だから」
「分かった」
「いいのかよ」
「いいよ」
「……じゃあ、今日からお前はみどりな」
「うん」
みどりは小さく頷いた。
そのときだった。
俺はふと、段ボールに目を向けた。
『拾ってください』
「…………」
もう一度、みどりを見る。
みどりはパンを食べている。
俺を見る。
「……らだ男」
「なんで俺の名前知ってんの?」
「さっき言ってた」
「俺言ったっけ?」
「言ってた」
「……まあいいか」
俺は立ち上がった。
「じゃあな」
「…………」
みどりがこちらを見る。
「……?」
「…………」
なんだ。
その目。
「……」
俺はため息を吐いた。
「……家、ないの?」
「ない」
「帰る場所は?」
「ない」
「…………」
俺は空を見上げた。
そして、もう一度みどりを見る。
「……今日だけだからな」
「?」
「今日だけ、俺ん家来るか?」
「行く」
「即答かよ」
こうして。
俺は――
一匹のドラゴンを拾った。
このときの俺は知らなかった。
この小さなドラゴンとの出会いが、俺の平凡な大学生活を――
「らだ男」
「ん?」
「腹減った」
「さっき食っただろ!!!!」
――とんでもなく騒がしいものに変えていくことを。
コメント
1件
あー、これいいやつだわ。冒頭の「疲れた」から始まる日常の空気感がリアルすぎて、俺もバイト終わりの帰り道思い出しちゃったよ。で、いきなり段ボールからドラゴンってギャップが効きすぎてて笑った。「腹減った」三回連発とか、遠慮知らずなみどりにじわじわ来る。らだ男が渋々ながらもパン買ってやる流れ、完全に飼い主の顔になりつつあるの最高。次回、この騒がしい生活がどう展開するか楽しみ🔥