テラーノベル
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45
#ntjo組
ゆかボンド
30
朝。
カーテンの隙間から差し込む日差しが、俺の顔を直撃していた。
「……ん……」
眠い。
昨日はバイト終わりに変なドラゴンを拾ったせいで、寝る時間が遅くなった。
というか。
「…………」
俺はゆっくりと目を開ける。
目の前に、緑色の顔があった。
「おはよう」
「うわぁぁぁぁっ!?」
俺は飛び起きた。
勢い余って、ベッドから転げ落ちる。
「痛っ!!」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ……。」
床に尻をついたまま、俺は目の前のみどりを睨む。
みどりは首を傾げている。
「なんで俺の顔の目の前にいるんだよ……」
「起きるかなと思って」
「起こし方ってもんがあるだろ!!」
「起きたね」
「結果だけ見ればな!!」
みどりは満足そうに頷いた。
こいつ、絶対反省してない。
「……で?」
「なに?」
「お前、昨日からずっとここにいたの?」
「うん」
「寝た?」
「寝た」
「どこで?」
「そこ」
みどりが指を差す。
俺の枕だった。
「…………」
「ふかふかだった」
「俺の枕なんだけど」
「知ってる」
「知ってて使ったの?」
「うん」
「…………」
俺は何も言わず、枕を取り返した。
「で、朝飯どうする?」
「食べる」
「何食べたい?」
「なんでもいい」
「じゃあ食パン」
「嫌」
「…………」
俺はみどりを見る。
「なんでもいいって言ったよな?」
「食パン以外ならなんでもいい」
「条件後出しすんな」
仕方なく、冷蔵庫を開ける。
「…………」
卵が一個。
牛乳が少し。
あと、よく分からない調味料。
「……何もねぇな」
「お腹減った」
「知ってる」
「すごく減った」
「昨日も聞いた」
「すごくすごく減った」
「うるせぇ」
冷蔵庫を閉める。
財布を確認する。
「…………」
財布の中には、数枚の紙幣と小銭。
大学生の一人暮らしなんて、だいたいこんなもんだ。
「……買い物行くか」
「行く」
「お前は留守番」
「嫌」
「なんでだよ」
「一緒に行く」
「いや、お前ドラゴンだろ」
「うん」
「外に出たら騒ぎになるだろ」
「ならないよ」
「なるんだよ」
俺はみどりを指差す。
緑色。
角。
翼。
どう見てもドラゴン。
「その姿でスーパー歩いてみろ」
「歩く」
「そういうことじゃねぇ!!」
結局。
「…………」
俺はみどりをリュックの中に入れていた。
「苦しくない?」
「大丈夫」
「暑くない?」
「大丈夫」
「本当に?」
「大丈夫」
「……じゃあ絶対に喋るなよ」
「分かった」
よし。
これなら大丈夫だろう。
俺は玄関を開けて外に出た。
鍵を閉める。
歩き始める。
――数秒後。
「らだ男」
「…………」
「らだ男」
「…………」
「腹減った」
「お前喋るなって言ったよな?」
「うん」
「じゃあなんで喋った?」
「腹減ったから」
「理由になってねぇよ!!」
道行く人がこちらを見る。
俺は何食わぬ顔で歩いた。
リュックの中からドラゴンの声が聞こえていることについては、考えないことにした。
スーパーに到着。
「……よし」
俺はリュックを背負い直す。
「みどり」
「なに?」
「ここから絶対に出るなよ」
「分かった」
「絶対だぞ」
「うん」
「俺が買い物してる間、大人しくしてろ」
「うん」
リュックを少し開ける。
みどりの顔がひょこっと出る。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい」
俺はリュックを閉じた。
そして店内へ入る。
パン。
卵。
牛乳。
適当な惣菜。
それから――
「……ドラゴンって何食うんだ?」
俺はスーパーの棚を眺める。
肉。
魚。
野菜。
「……分からん」
そもそも俺は、ドラゴンを飼ったことがない。
というか。
「普通の人間はドラゴンなんて飼わないよな……」
そのとき。
「らだ男」
「…………」
リュックが動いた。
「らだ男」
「静かにしろ」
「お腹減った」
「さっき食っただろ」
「朝ごはん食べてない」
「今買ってんだよ!!」
「早くして」
「お前、俺より偉そうだな……」
近くにいた店員がこちらを見る。
「…………」
俺は何事もなかったかのように商品をカゴに入れた。
ドラゴンの声は聞かなかったことにした。
会計を済ませ、店を出る。
帰り道。
「ほら」
俺はリュックを開け、みどりにパンを渡した。
「ありがとう」
「……食いながらでいいから聞け」
「なに?」
「お前さ」
「うん」
「これからどうするんだ?」
「…………」
みどりがパンを食べる手を止めた。
「分からない」
「…………」
俺は少しだけ黙った。
昨日の段ボール。
『拾ってください』
あれを書いたのは誰なのか。
どうしてみどりは、あんなところにいたのか。
何も分からない。
「……まあ」
俺は前を向く。
「今日くらいは、うちにいていいから」
「うん」
「そのうち、お前の帰る場所も探さないとな」
「…………」
「どうした?」
「ううん」
みどりは小さく笑った。
「ありがとう」
「……別に」
少しだけ、気まずくなった。
俺は誤魔化すように歩く速度を上げた。
「ほら、早く帰るぞ」
「うん」
「帰ったら飯な」
「うん」
「その前に部屋片付けるから手伝えよ」
「分かった」
「あと俺の枕勝手に使うなよ」
「…………」
「聞いてる?」
「聞いてる」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ返事して」
「嫌」
「なんでだよ!!」
今日もまた、俺の平凡な一日が始まった。
――いや。
もう、平凡ではないのかもしれない。
何しろ俺のリュックの中には、
小さなドラゴンが一匹入っている。
「らだ男」
「今度は何だよ」
「帰ったら何食べる?」
「…………」
「楽しみ」
「お前、食うことしか考えてないだろ」
「うん」
「そこは否定しろよ」
コメント
1件
うわー、めっちゃ可愛いですねこの2人(笑)「らだ男」呼び、なぜか妙にハマってます。枕を奪われて「聞いてる?」「嫌」って返すみどりのクセの強さと、主人公のツッコミのテンポが絶妙で、読んでるこっちまでニヤニヤしちゃいました。リュックの中から「腹減った」って連呼しながらスーパー行くの、完全に日常の風景になってるのが不思議な安心感。まだ2話なのに、もうこの日常がずっと続いてほしいと思ってしまう。