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海氷の上に立つ牢獄は、地上の存在すべてを拒絶するような無機質な建造物だった。風は容赦なく吹き荒れ、モンゴル領ソビエトの荒廃した空気は、冷たく、沈黙を体現していた。透は、ぼんやりとした目で外の景色を見つめていたが、奥には何か、狂気のような光があった。

彼の手は震えていた。いや、震えているのはその心だった。冷たい壁に寄りかかり、異様な笑みを浮かべながら、彼は脱獄の手立てを考えていた。普通の考え方では、脱獄など到底不可能だった。氷は厚く、監視は厳重で、逃げ場などない。しかし、透の頭の中で何かがカチリと音を立てた。狂気が、ゆっくりと、確実に彼を蝕んでいった。

「脱獄か…ふふ、脱獄ね」と彼は呟いた。

その瞬間、彼の思考は狂気の縁に到達した。理性を保っていた一線が崩れ落ち、透は、全てを捨て去る覚悟を決めた。脱獄の手段は一つしかなかった。海氷を溶かすこと。だが、彼に必要だったのは物理的な力ではなかった。彼の心の中で燃え上がる狂気こそが、牢獄を打ち砕く鍵になると彼は信じていた。

夜が深まると、透はその狂気に従って行動を始めた。氷の冷たさはもはや何の影響も与えなかった。むしろ、それは彼を強く、そして鋭くする。彼の呼吸は荒く、吐息は白く空中に消えていく。彼は裸足で、監視の目を潜り抜けながら、少しずつ海氷に向かって歩みを進めた。

「狂気は、時に自由を与える」と彼は自分に言い聞かせる。

氷の上に到達すると、彼は何かに取り憑かれたように氷を見つめた。何かが解き放たれたのを感じた。あたかも、氷の向こう側に彼を呼び寄せる声が聞こえたかのようだった。彼は笑いながら、手を伸ばした。そして、その瞬間、氷が割れた。

崩れ落ちる氷の下には、果てしない闇が広がっていた。しかし、透はその闇の中に飛び込むことをためらわなかった。狂気はもはや彼の理性を支配していた。冷たい海水が彼を包み込むとき、彼の体は凍りつくような痛みにもかかわらず、自由を感じた。

「これでいいんだ…これで…」

海氷の裂け目の向こうに待っているのは、死か、あるいは新たな始まりか。それは透自身にもわからなかった。しかし、彼はもう振り返らなかった。

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