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八雲瑠月
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「あん? 新人の素人は黙っとけ。そもそもこれは誤植が提出した物だ。もちろん誤字脱字をチェックし、これが完璧な状態なものだと思って、提出したんだろ? そうだろ誤植? これが完璧な状態で、もちろんこの小説で笑いをとりたいから、新聞部に提出するんだよなぁ?」
口姫がマスクを外し、笑顔で愛に顔を近づける。
「そ、そうです!? これが完璧な状態です! も、もちろん笑いを取るために書いたんです! 学校だより……いえ、学校新聞の為に!」
愛は目を回したように視線が定まっておらず、目が泳いだまま答えた。だが、両手はぶんぶんと回し、身体は拒否しているようにも見える。
「おい! 愛、それで良いのか? いくら小説が学校新聞に載るからって……恥をかくのはお前なんだぞ! 目を覚ませ!」
書也は愛の肩を掴み、何度か揺らす。
「書也君、わたしは……笑い者になってもいい! 学校新聞に載って……多くの人がわたしの小説を見て笑ってくれるならそれで良いと思ってるんだ!」
愛は書也の腕を掴んでそう言った。真っ直ぐな瞳で、それでも書也の腕を掴むその愛の手は震えているようであった。
「愛……何があったか知らないけど……本当にそれで良いの? 愛、今日はなぜかすっごく怯えているような気がする……どうして?」
今まで黙って見ていた幽美が心配そうに近づき、愛の頬を優しく触った。
「幽美ちゃん、大丈夫だよ。ちょっと怖い夢を見て……思い出して、動揺してるだけだと思うから」
愛は幽美の頬を触った手を優しく握り、笑顔で答えた。だが、その笑顔は作り笑顔のような少しぎこちなさを感じた。
「本人が良いと言っているんだ。決まりだな! 口姫、すぐに編集作業だ!」
「ククク! 新聞部の腕が鳴るな」
口姫と聞姫が部室のドアから出ようとすると、友美が両手で二人を遮った。
「ちょっと待ちなさい! いくら本人が良いと言っても愛の小説を侮辱するような編集の仕方だったら許さないわ!」
その時だった。ラノケンの部室をコンコンとノックする音が聞こえた。
「こんな時に……誰ですの?」
エロスが苛々した感じに部室のドアを開けると、見知らぬ男性が立っていた。背は高く、色白で、髪を結い、いかにも芸術家風の少年であった。
「すまない……ここに新聞部がいると聞いて来たんだが……口姫か聞姫はいるか?」
その男性は書也にだけが見覚えがあった。画竜点睛……その生徒は幼馴染であり、ラノベ作家を目指す書也をけなす因縁の相手でもあった。
「点睛! 何でお前が……ここにいるんだよ!」
「それはこっちの台詞だ書也君。小説家になれやしないのに学費だけが高いラノベの専門学校にでも入学してると思ったよ。まさか同じ現代国語学院に入学しているとはね。ああ、そういえば日本文学科もあったのか」
点睛は呆れ顔で書也に言った。
「そういうお前は何科なんだよ!? この学校に漫画研究部はあっても……美術科は無いだろ?」
書也は思わず点睛をきりっと睨む。
「書也君、学校のパンフレットをよく熟読したまえよ。考古学科の中には再現美術という専攻があってね。有名絵画の模写や絵の復元などを行っているよ」
「何ですの……この生意気な方は……」
エロスが思わず小声で書也に聞く。
「画竜点睛……俺のラノベをけなす奴、腐れ縁って奴ですよ」
「心外だね書也君。本当の事を言ったまでじゃないか……途中で漫画の道を踏み外し、漫画やゲームのパクリみたいな物語を書き連ねる外道な文字表現を続ける小説家に君はなるんだったかな?」
その発言にエロスも思わず点睛を睨んだ。
「漫画やゲームのパクリですって!? ラノケンでライトノベルを馬鹿にする行為は許しませんわよ!」
「失礼、部長さん。漫画を一生懸命に教えていたのに絵から文学に転向する彼をどうしても裏切り者として見てしまうんですよ。そのせいか、ラノベというコンテンツに恨みを抱いてしまうようでして」
「それを世間では逆恨みと言うのではありませんの? どんな理由にせよ、ラノベや作家をけなす行為は許しませんわ」
睨み合う書也、エロス、点睛に口姫が割って入る。
「画竜、良いところに来た。新聞の四コマ漫画の他に小説の挿絵を描いて欲しいと思っていたところだ」
口姫は馴れ馴れしく、点睛の肩を掴み、笑顔で言う。
「ラノケンの小説の挿絵ですよね? 嫌ですよ」
「そう言うなって、今回のラノケンの小説は面白い! お前の挿絵があれば、さらに面白くできる」
「ちなみに……誰の小説です?」
点睛は言って、ちらりと書也を見る。
「お前と同じ一年の誤植愛の小説だ」
口姫が愛に指をさして言うと、点睛は愛を見た瞬間、頬を染めてなぜか顔を逸らした。
「いや、誰であろうと……ラノケンの書いた小説の挿絵なんてごめんですよ。だいたい四コマ漫画だけでもギリギリなんです」
「そこをなんとかだな……もちろん放課後まで……部活時間で仕上げてくれるなら、待ってやってもいい」
口姫がにやけた顔でキスするぐらいの勢いで顔を近づけ、点睛に迫る。
「む、無理なものは無理です!」
「だったらわたしが描きますよ!」
拒否する点睛に愛が手を上げ、言い放った。
「はぁ? お前はラノケンだろうが? 小説以外に絵まで描けるって言うのかよ?」
聞姫が不良かヤクザのように愛に顔を近づけ、睨むように見る。
「はい、描けますよ。わたしのそのUSBメモリの中に【科学の力で異世界攻略】をイメージしたイラスト画像があるんです。それを参考に使っても良いと思いますし、数時間もあれば新しく描く事もできると思います」
「今度はイラストときたか。誤植、まさかピカソみたいな絵じゃないだろうな? 社会学科の私と口姫でも理解できる画力のクオリティか?」
「愛の画力だったら俺が保証しますよ! なんたって、俺が愛の自宅に行って描いたイラストを見てますから」
書也が自慢気に言うと、理香が興味津々と愛と書也の顔を見比べた。
「書也君? 愛君の家に行ったのかね? いつからそんな仲に?」
「たまたまです!? とにかく愛のイラストを見れば、分かります!」
書也は慌てて誤魔化すように言う。
「証人がいるのか。まぁ。そこまで言うなら見てやらんでもないが……くだらねぇイラストだったら許さねぇぞ」
聞姫は溜息をつき、再び教子先生のデスクのPCを立ち上げ、愛のUSBメモリを挿入した。
「なぜラノケンがイラストを……」
点睛は首を傾げながらも、聞姫が立ち上げたPCのモニターを見つめていた。
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