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八雲瑠月
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「これか……確かにこいつは……しかし、クオリティが高いだけに謎だ。なぜ小説の文章はまともに書けないのに、絵を描く道に進まねぇ?」
PCのモニターを見ていた口姫が首を傾げて、愛に言う。
「それは絵ではなく、わたしが小説を書きたいからです。いけませんか?」
言った口姫に対して、愛が怒った表情をすると、聞姫は意外そうな顔で見た。
「じゃあ、実は手書きで書いた方がまともな文章になるんじゃないか? パソコンのキーボードが苦手なら、同じ線を描くイラストのように手書きの文字なら多少はまともになるとかな」
聞姫はなぜか愛に対して面白そうに言うと、スマホでメモをとり始める。
「えっとですね。手書きでも同じです。わたしの目で見ると、絵の場合は文字のようにグニャグニャに歪んだり、文字化けにならないからです」
『文字がグニャグニャ?』
愛が笑顔で言うと口姫と聞姫が同じタイミングで首を傾げ、言葉をはもらせる。
「お、おい愛!?」
「え、なに!? 書也君!?」
書也が慌てて愛の口を押えると、その手を引っ張り、PCのデスクから離れた隅に移動する。
『さすがにまずいだろ失読症の事を言ったら……新聞のネタにされるぞ』
小声で言う書也に愛は今更ながらしまったといった風な感じで、慌てたリアクションをとった。
『そ、そうだよね!? さすがにまずいよね』
愛も小声で書也に言葉を返す。口姫と聞姫は書也と愛にちらりと視線を向けるが、どうやら怪しんではいないようだった。
「す、素晴らしい! 君は素晴らしいよ! あんなイラストが描けるなんて! 一万人に一人の逸材だよ君は! 誤植さん! いや、愛さんと呼んで良いかな?」
点睛が書也を押しのけるように割り込み、愛の手を掴み、賞賛する。
「そ、そうかな? えと……画竜君?」
「君も僕の事を点睛と呼んでくれたまえ!」
「馴れ馴れしいぞ点睛! 俺の彼女に手を出すな!」
書也は声を上げ、ボディーガードかSPのように点睛に割り込み返し、愛の前に両手を広げ、守るように立った。
「ん? 俺の彼女? お前達は付き合ってるのか?」
点睛は意外そうな顔で書也と愛を見比べた。
「か、彼女!? 書也君、まだそんな関係じゃ……友達だよね!?」
愛が頬を赤くして恥ずかしそうに言うと、書也も思わず頬を赤くする。
「た、確かに友達だが……愛を彼女と言って何が悪い? さっきの発言は二人称だ!」
「では、愛さんは君のものではないだろう。絵が上手なら、僕と一緒に漫画研究部に来たらどうかな愛さん」
点睛は書也の隙間から愛の顔を覗きこむようにして、笑顔を向ける。
「ふざけるな! 愛はお前と一緒に漫画なんか描かない!」
「決めるのはお前じゃない。愛さんじゃないのかな? 愛さん、どうかな?」
見つめる点睛に愛は首を横に振る。
「画竜君。さっきも言った通り、絵が上手でもわたしは小説が好きなんだ。わたし自身の小説作品の挿絵を描いても漫画を描く事はないと思うよ」
愛は書也の前に出ると、点睛を真っ直ぐな目で見て答えた。
「それは実に勿体無い! このイラストのクオリティーで漫画を描けたなら、きっと小説より良い物語を表現できるはずだ」
「画竜君、何を言われようともわたしは漫画は描かないよ」
「そこまで言うなら分かったよ愛さん……なら、僕の漫画と君の小説と勝負して……僕が勝ったら漫画研究部に入部という事で良いかな?」
「えっ?」
いきなりの点睛の発言に愛は妙な声を漏らす。
「この勝負に引き受けてくれるかい愛さん? もちろん引き受けるよね愛さん? だって君の描いたイラストよりも小説の方も自信があるんだろう?」
「おい点睛! ふざけるな! 愛にメリットも無い賭けは成立しない!」
書也は再び前に出ようとすると、愛が片手で制止させていた。
「じゃあ、わたしとラノケンのみんなとマンケンで勝負はどう? わたしが勝ったらマンケンの誰かがラノケンの小説の挿絵を好きな時に描いてもらうよ」
「はははははっ! うちのマンケンとラノケンで勝負か? いいよ! うちの先輩方もラノケンにぎゃふんと言わせたいと話していたし、うちの部員も断らないだろう」
「おい、愛!?」
戸惑う書也に口姫は笑い声を上げる。
「うはははっ! 聞いたか聞姫? ラノケンとマンケンが勝負だとさ」
「こいつは面白い! すぐに記事にしないとな! で、ラノケンの部員は当然にこの勝負に乗るよな?」
聞姫がアクションカメラで撮影を始めると、友美が前に出る。
「もちろんよ! この勝負、受けるわ! わたし達、ラノケンは逃げも隠れもしない!」
響くような声で言う友美に思わず書也が青ざめる。
「なに言ってんだ友美!? 愛がいなくなるんだぞ!? エロス先輩も何か言ってください」
「いいですわ! ラノケンの部長としてその喧嘩を買いますわ! ラノベを侮辱した事を後悔させてあげますわ!」
本来は仲裁しなくてはいけないはずのラノケンの部長のエロスがその喧嘩を買うと言いだし、書也はさらに青ざめる。
「ぶ、部長!? 理香先輩、エロス部長を止めてください! このままじゃ愛が!?」
書也が理香に視線を向けると、あの冷静な理香が点睛を睨むように見た。
「良いじゃないか書也君。ラノベと漫画、どちらが上か研究してみたいと思っていたところだ! 勝負を受けようじゃないか!」
「ええっ!? 幽美先輩、言ってやってくだい! この勝負は無効だって」
堂々と前に出る幽美はなぜかゴスロリチックな手袋を装着したかと思えば、その手袋を脱ぎ、すぐに点睛に投げつけていた。
「愛に喧嘩を売るなんていい度胸! 叩き潰してあげる!」
点睛は咄嗟に幽美のゴスロリ手袋をキャッチしていた。
「はははっ!? ラノケンの方々は面白い人達ばかりだね。だけど書也君、君だけ参戦を棄権するのかな? それでもいいけど……」
「分かったよ! 俺も参加する! ただし、ラノケンが勝ったら二度と愛に近づくな!」
「そうこなくちゃな……一応、マンケンの顧問の先生にも話しておく。君達もきちんとした取引になるように顧問の先生に話したまえ。どのようにして漫画とラノベで競うかは決まり次第、連絡しよう」
「はははっ! いいじゃねぇか! この勝負、新聞部が盛り上げてやるよ!」
口姫が楽しそうに言う。背後では聞姫がアクションカメラを回し続ける。これは確実に勝負は無効にできず、学校中にラノケンとマンケンの対決する話が広がるだろう。
点睛、口姫、聞姫がラノケン部室を出ていくと、ラノケン部員達はしばらく沈黙し、怒りを燃やしているようだった。