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「治はぁ~~~、ナースや!!」

「は?」

高らかと宣言する声に、思わず渾身の「は?」が出た。我ながら低く響いた声に、引きつった顔でちらほらとクラスメイトが振り返る。だが考えても見て欲しい。寝ていたわけでも、話を聞いていなかったわけでもない。完全に運任せのくじ引きで、恐らく一生着ないであろう衣装を言い渡された俺の気持ちを。

「茄子?」

「ナースやで!白衣の天使や!」

もしかして茄子ではないかと期待するも、あえなく撃沈。茄子の着ぐるみなら喜んで着たし、侑に体当たりしに行けたのに。

くじ引き役が高々と掲げる紙にはデカデカと『ナース』の文字があった。展開についていけない俺をよそに、次々とくじが引かれ他の衣装が読み上げられていく。ミニスカポリスや浴衣にメイド等々。

ナースと遜色ない衣装の数々に、ナースでも仕方ないかと納得しそうな自分がいる。

衣装の割り当てが終わると、早速サイズを聞かれ、あれよあれよと話が進む。

「ナースて⋯⋯嘘やん。女の子が着た方がウケええやろ」

「わかってへんなぁ。ごっつい男がパツパツの女装すんのがおもろいんやろ!」

「せやで!お前なら一番の売れっ子になれるで!」

「一緒に女装ゴリラの高みを目指そうや!」

頭を抱える俺の周りを囲む女装熱の高いクラスメイト達は、それぞれ際どい衣装を手にしている。

どうしてこんなことになったのかというと、俺達は文化祭で女装喫茶をやることになったからだ。ちなみに、女装喫茶をするクラスはあと2クラスあるらしく、より面白い女装をしたクラスが勝ちという雰囲気が出来ているせいで、うちのクラスも笑いを極めようと士気が高まっている。面白くて笑いが取れるならと自分もさっきまでは乗り気だったのだ。どの衣装だろうかと楽しみにして、それがまさかナースとは思わないではないか。ナースはダメだ、ナースだけは。なんでって、そんなの。

あいつがよく見るAVに出てくるからに決まっている。そんな格好したら間違いなく――。

俺の大荒れの心境など関係なく次々に衣装が決まり、今日のHRが終わる。帰る者や残って係の仕事をする者など各々動く中、教室の後ろにいた衣装係目掛けて駆け寄る。

「な、なぁ、決まったとこ悪いんやけど、俺の衣装なんとかならへん?角名と同じスケバンとか余ってへんやろか?」

他人と同じもんで安心しようなんて、それでもお前関西人か!?と心のどこかで誰がが突っ込む。

既に決まった後に迷惑だろうがどうせ着るならせめてロングスカートがいい。ゴツさを強調するために足は出たほうがウケるのだろうが、肩幅もある方だからゴツく見せたいならそれで十分だろう。

「何や治、ナース嫌なんか?鉄板やのに勿体ないわぁ。お前のサイズで交換できる衣装なら⋯⋯えーっと、チアガールかチャイナが残っとるで」

ほい、と渡された衣装は、揃いも揃ってミニスカート。更に「バニーもあるで?」と別の袋から取り出された衣装には、最早スカートすらついていなかった。

「これはちょっと⋯⋯」

「生足が嫌なん?バレーのズボンも短いやん。変わらんやろ?」

「そらそうなんやけど」

それはそれで違うというか、そもそもどうして揃いも揃ってAVに出てきそうな衣装ばかり取り揃えてあるのか。買ってきた奴名乗り出ろ。

「あぁ、毛剃るのが嫌なんか?確かに剃るより隠した方が楽やもんな。ほんならこれやるわ。黒はバニーと合わせるから、治は白な」

「え、これって」

「タイツやで?白タイツ。黒よりエロさないからパンチに欠けるけど、生足嫌ならこれ履いとけ」

「白、タイツ⋯⋯」

「どした?」

「いや、あ、りがとぉ⋯⋯」

「どーいたしまして」

と笑う衣装係に引きつった顔を向ける。

そうやない!と全力で叫ぶ胸中を、数年前に人に優しくあろうと決めた理性が宥める。

白タイツて、白タイツて!見ようによっては黒よりエロない!?白タイツメイドさんのAVあったで!?黒よりエロさないって言うとるけど単なる好みの違いちゃう!?そら俺が履いてもエロないけども!エロないけどもな!?白やからええって問題でもなくてな!?

白タイツを美しく履きこなす美脚のパッケージを見つめ、わなわなと肩を震わせる。そもそもこれに俺の足が入るのだろうか?破れるのではないか。

「これ破れたらどないするん?」

「衣装の回収とかせぇへんから心配いらんで。安もんやし来年まで使えへんやろ。各自で捨てて貰ってええよ」

「そうなんやぁ⋯⋯」

サイズが小さいとか、破れそうという理由で白タイツを拒否する道は絶たれた。衣装を代えたいという俺に嫌な顔をせず対応してくれた心優しいクラスメイトに、俺も人としてこうありたい、と白タイツから目を逸らして現実逃避する。しかし、どれだけ目を背けても手の中のタイツが消えるはずもなく。

「治、大丈夫?」

目に見えて萎れた俺の肩がポンと叩かれる。後ろから、クラスで一番馴染みのある顔が現れた。

「角名⋯⋯」

「攻めた衣装が多くて困っちゃうよね。代えられそうなのあった?」

「いや、あんまり⋯⋯って、おい?」

「え、何?」

眉を寄せ、やれやれと呆れた視線を衣装に送る角名は一見俺を励ましてくれているように見えるだろう。だが優しい物言いに騙されてはいけない。目は確かに憐れんでいるが、声は上擦り、口元は震えていて笑いを堪えているのが丸わかりだ。

「角名ぁ!!笑うなら笑えや!」

「あっはっはっは!バレた!だってナースって、治、引き強すぎ」

「俺が引いたんやないわ!」

「ぶふっ、まぁまぁ、当番少なめにしてくれるよう頼んできたからそんな怒んないでよ」

「えっ、ほんま!?」

「ほんまほんま」

「角名最高や!」

「でしょ」

「今度肉巻きポテト奢ったるな!」

「そこはチューペットがいいかな」


中略


「ぃっ、やめろ!」

バランスを崩した体が、物置にしている机に勢いよく倒れる。侑の動きは予想できるのに、動きにくい格好のせいで簡単に押さえつけられてしまう。

「嘘ついたんは悪かったから!やめぇや!」

「わかってへんなぁ」

「何や?嘘ついたから怒ってたんとちゃうんか?」

「怒っとるよ?でもな、俺が怒っとるのは嘘つかれたことだけやない。お前のこのカッコが誰かも知らん奴らに見られたことや」

「こんなんくじ引きで決めただけやし、他の皆も似たような格好しとって……、せや、角名かてスケバン着とるし」

「そういう問題とちゃう。お前わかっとったやろ、俺が怒るの。だから隠してたんとちゃうん?それとも怒らせたかったんか?サムは変態さんなん?」

「ちゃう!怒らせようなんて⋯⋯!ゃっ、あ、ァッ!?」

「ちゃうんか?どっちにしろもう遅いけどな?」

タイツの上から肌をなぞられ、ゾワゾワと妙な感覚に襲われる。

「こんなに感じやすいのに、よぉこんな格好しようと思ったな。いっそのこと全部破いたろか?そしたら戻れへんし、丁度ええやろ」

「やめろっ!まだ当番残ってんねん!」

「ほんなら暴れんといてや。破れても知らへんで?」

「くっそ、このポンコツ人でなし⋯⋯っ」

「ほんま口悪いわぁ」

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