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うわーもうクロノアさんが一番キレてるっていうのがほんとに好きです… ! 新しい話お疲れ様です!
愛が強い(重い)3人… でもtrさんはとても愛されてるということだから問題ない(謎理論) これは…どれだけお仕置されてるんでしょうね( ≖ᴗ≖)ニヤッ 続きが楽しみです!!
「それで飛び出してきたんですか?トラゾーさん」
「はい…」
「浮気する気なんてないのに?」
「ゔ…」
「それでとりあえず僕のところに逃げてきたと」
俯く目の前の人は申し訳なさそうにしていた。
「すみません…頼れるのしにがみさんしか浮かばなくて」
「あの人らの報復で人が死んでも良いと?」
「いや、いくらなんでも殺しには来ないかと…」
この人は知らない。
自分がどれだけ愛され、守られているかを。
いや、一生知らないままの方がいいかもしれない。
優しいトラゾーさんが知れば、ぺいんとさんたちに対して心を痛めるだろうから。
報復された側は可哀想に思うだろうし。
「まぁ僕はあちら側の味方なんで殺されはしないでしょうけど…」
「あちら側…?」
「こっちの話です」
ミュートにしているスマホには通知が鳴り止まない。
メンヘラ化してるぺいんとさんなんかやべー量のメッセージが来てるし、クロノアさんとらっだぁさんは交互に電話してきてるし。
「まぁ、他の人のとこに行かなくてよかったですよ」
「?、」
ホントに何も知らないでいてほしい。
僕も本意でないし。
「何か頼みましょうか?」
「押しかけたんですから、お構いなく…」
「そう言うわけにはいきませんよ」
とりあえず来ている通知を無視してサイトを開く。
と同時に電話がかかってきてしまい予期せず出てしまった。
スピーカーにしてトラゾーさんにも聞こえるようにする。
そんな彼は口を押さえて声が漏れないように体を縮こませていた。
『…しにがみくん?トラゾーいるよね』
「こんにちは、クロノアさん。開口一番にそれですか?」
『質問してるのは俺の方だよ。いるだろ、トラゾー、そこに』
「さぁ?どうでしょう」
『……』
めっっちゃ怖い。
ガチギレのクロノアさんなんて僕見たことないからめちゃくちゃ怖い。
でも、トラゾーさんが意味もなく突拍子もない戯言を言うわけがない。
純粋に愛されているというのは自覚してるだろうから。
ただ、彼らのもっと深い独占欲やドス黒い執着の塊とかを向けられているということには全く気付いていない。
分からない程度に抑えているのか、単純にトラゾーさんが鈍感すぎるだけか。
いや、両方かな。
それを表に出されてトラゾーさんに向けられた時、この人壊れちゃうんじゃないかって思うくらいにはヤバいと思う。
『トラゾーがしにがみくんに迷惑かけてるんでしょ?ごめんね』
「いえ?迷惑なんて友達なんだから気にしないですよ。それにそもそもトラゾーさんは僕のとこにいませんし」
『…嘘つかない方がいいよ』
温度の下がる声。
よくこの3人から逃げれたなこの人。
流石は元自衛官。
伊達に鍛えてきたわけじゃないか。
「…嘘、とは?」
トラゾーさんは静かに首を横に振っている。
『しにがみくん、トラゾーがはめてる腕時計見てみな』
「腕時計?」
そう言うとトラゾーさんがはめている腕時計を見た。
なんの変哲も無さそうだけど。
『それ、カメラ仕込んでんだよ。だから、しにがみくんのとこに逃げ込むトラゾー見てたからね』
「!!」
『多分、ぺいんとがもうそろそろ着く頃だと思うよ』
ピンポーンとインターホンが鳴る。
静かに画面を開くとぺいんとさんが立っていた。
『しにがみ、トラゾーがごめんな。俺ら話したいことあるからトラゾー出してくんねぇ?』
振り返れば怯えたような顔をするトラゾーさん。
いやマジで一体何があったんだ。
「あなたたちはトラゾーさんに何をしたんですか」
『何って、何も?トラゾーが急に浮気してやる!って言って飛び出したんだよ』
違う、と首をまた振るトラゾーさん。
「違うって言ってますけど」
『あ、やっぱりいたんだ。トラゾー』
「ん?」
『ごめんね、カメラってのは嘘。いくらなんでも俺らにそんなもの仕込む技術ないよ』
トラゾーさんが目を見開く。
嵌められた。
鎌をかけられ、まんまとかかってしまった。
そう表情が語っている。
『ほら、だから言ったじゃないですか。トラゾーは絶対にしにがみんとこに逃げ込むって』
『いや、トラゾー友達多いでしょ?』
『あいつは信頼しきってる奴のとこにいの一番に逃げるんで、俺ら以外だとしにがみしかいないんすよ』
『それもそっか』
僕がロックを解除しない限り部屋には入ることはできない。
なのにどうしてこんなにも不安な気持ちになるのだろうか。
「し、しにがみさ…」
もしかしたら、隠していた感情を向けられ怖くなったトラゾーさんは嫌われようと咄嗟に嘘をついて、ただその嘘をついたことで地雷を踏み抜いたあの人らから逃げてきたのだろうか。
『俺らは”いつも”のように、トラゾーに愛してるよーって伝えただけだよ』
「ち、が…っ」
『お?開けてもらえた?らっだぁ』
『管理人に説明したら開けてもらえたぜ』
画面に映っていたぺいんとさんの姿が消える。
「…入られた」
「ど、どうしよ…」
「何があったんですか、あなたらうまく付き合ってると思ってたのに」
震える僕より大きな体と、恐怖で怯える緑の目は涙が滲んでいた。
「ぉ、おれ、やっぱり4人はおかしいって、みんなのことは好きだけど、…じゃあ、3人の中で1人選んでって、言われて…っっ、俺は、誰かを選んで誰かを傷付けたくないから、…」
「嫌われようと嘘をついた…」
「そした、ら…地雷踏んだみたいで、こ…怖くなって逃げ出したんです…」
僕の予想通りだった。
優しくて常識人のトラゾーさんは平等にあの人らに接してきたのだろう。
けど、いつしかそれを苦痛に感じるようになって、だけど拒否するほど嫌いにはなれなくて。
だったら自分が嫌われてしまおうと考えに至った。
「あの人らの向ける気持ちを知らないわけじゃないでしょう?…確かに、ちょっと行き過ぎなとこありますけど…」
世間一般で言えば行き過ぎだろうけど、あの人たちにとってはあれが普通。
なんならまだ優しい方だと思う。
「段々、自由を奪われていく、感じがして…ひとりに、絶対させてもらえなくて…」
「……」
今まで我慢していたものを我慢しなくなった。
何かのきっかけで。
「トラゾーさん、あなたが天然タラシなのは重々承知してます。それを見たぺいんとさんたちは抑えていた感情を抑えなくなったんだと思いますよ」
「え」
「大好きな人ってのは自分のモノにしておきたい、傍に置いておきたい、誰にも渡したくない、…そう思うのが定石です」
僕の部屋のドアが叩かれる音がする。
この人のことを助けてあげたいと思う気持ちと、知らない赤の他人には絶対に渡したくない。
そんな2つの感情がせめぎ合っていた。
「僕もね、トラゾーさんのこと大切です。友達として、仲間として」
「しにがみ、さん…?」
「でも、ぺいんとさんたちも大切な友達なんです。最初に言ったでしょ?”あちら側”だって」
トラゾーさんの背後に2人立つ。
事前に開けておいたから普通に入ってきた。
「しにがみサンキュー」
「しにーなら俺らの味方すると思ったわ」
振り返って目を見開いたトラゾーさんは逃げようとした。
それよりも早くぺいんとさんとらっだぁさんに腕を掴まれていた。
「しにがみさん、どうして…っ」
「あなたに浮気するなんて非道なことできないの分かってます。それでも、万が一弱ったトラゾーさんに付け込もうとする輩がいたら僕はそいつのことを絶対に許しません」
「だよなぁ、弱ってるトラゾーに近寄ろうとする人間がいたら俺ら多分、そいつのこと殺すかもしれね」
「!、それはダメだ…っ」
トラゾーさんは慌ててらっだぁさんの服を掴んだ。
「俺の言ったことであなたらが手を汚すことなんてあっちゃダメです…っ!」
ほら、トラゾーさん。
あなたが心配してるのはやっぱり名も知れぬ人間ではなくて彼らなんですよ。
「俺らの心配してくれんの?」
「!、そう、じゃなくて…」
「会えんくなっちゃうもんな?寂しがりやのトラはそんなん耐えれねぇかんな」
多少は消された側を可哀想に思うかもしれない。
大半はぺいんとさんたちへの心配だ。
「トラゾーさん、もう認めた方がいいと思いますよ?あなたは常識人で、世間から見ればおかしいことと感じてるかもしれません。けど、人間というのはそういう環境下に置かれてくるとそれに慣れてそれを普通と、常識だと思い込む生き物なんですよ」
「し、にがみ、さん…」
「捨てられた犬みたいな顔しないでください。僕もあなたをこの状況下から助けたいと思うんです。だけど、そんなことよりも見ず知らずの全く素性の知れない赤の他人なんかにトラゾーさんが盗られるくらいならこの人たちといてくれた方が僕は安心できるんです」
にっこり笑うと、トラゾーさんの綺麗な緑色の瞳から涙が落ちた。
「折角、助けを求める相手に選んでくれたのにごめんなさい」
「しにがみでよかったよ。知らねー奴だったらマジでぶっ殺してた」
「いやマジで」
「や、やだ…」
腕を掴まれたままのトラゾーさんは前進も後退もできない。
「つくづく配信者でよかったわ。引きこもっててもなんも言われねぇから」
「そうだなぁ。セルフ軟禁みたいなもんだもんな」
「え、あんたらトラゾーさんのこと軟禁してたんですか?」
「まだしてねーし」
「ま、もうクロノアさんがするつもりだから」
「あー…クロノアさんは、ねぇ…」
僕らの会話についていくことのできないトラゾーさんは力なく嫌々していた。
「トラゾーの悪いようにはしねぇよ。次逃げたらどうなるか分かんないけどな」
「っ!」
「俺らは別に怒ってないけど、ノアはガチギレだからちゃんと謝んないとダメだぜ?トラ」
やっぱガチギレしてたんだ。
「ほら帰るぞ、トラゾー」
「…ゃ、…だ」
完全に怯えた仔犬のようだ。
「……また、わからせて、言い聞かせて、教え込まされたいんか」
らっだぁさんに言われたトラゾーさんは今までにないほど体を跳ねさせた。
「ごめん、なさい…」
緩慢な動きで立ち上がり僕に頭を下げる。
「しにがみさん、すみ、ません…迷惑かけてしまって…」
「迷惑なんて、もしまた逃げたくなったらいつでも来てくださいね」
「ッッ、…」
顔を引き攣らせて無理矢理笑う彼はぺいんとさんに引かれながら部屋を出て行った。
「しにーも歪んでんなぁ」
「えぇ?だって、あの人に知らない人間の手垢がつくなんて悍ましいですもん」
「俺らはいいんだ」
「信頼してる人たちは別です。僕はトラゾーさんに幸せになってほしいですよ。誰にも傷付けられないでいてほしいから」
らっだぁさんはくつくつと喉を鳴らして笑っていた。
「まぁ、俺らに捕まった時点でトラが逃げられるわけないんだよなー」
「泣かさないで下さいよ」
「啼かしはするかな?」
「じゃあ、壊さないで下さいね。僕、トラゾーさんの笑ってる顔が好きなんですから」
「それはあいつ次第かな」
「あなたらを庇う時点でもう壊れかけてますって。常識人のあの人の倫理観おかしくなってますよ」
すると顎に手を当てたらっだぁさんは僕をじっと見下ろした。
「倫理観がないお前が言うなし」
「わ、この人超失礼だ」
「逃げてきた友達をその要因に渡してるんだぜ?逃げ込んできた時点で。倫理観の欠片もねぇだろ」
「頼られるのは嬉しいじゃないですか。普段我慢するトラゾーさんに助けてなんて言われたら、助けてあげたくなるのが友達でしょ」
「結局、売ってんじゃん」
「知らない人間よりあなたらのがマシだからですよ」
そこでらっだぁさんのスマホが鳴る。
「ぺいんとが呼んでるわ。じゃーなしにー。協力ありがと」
「いいえ」
手を振って部屋を出て行ったらっだぁさん。
「クロノアさんも怖いんでやめてくださいよ…。正直、僕漏らすかと思いましたよ」
通話を繋いだままだったスマホを耳につける。
『ごめんごめん』
「らっだぁさんにも言いましたけど、もう泣かしたりしないで下さいよ」
『努力するよ。俺ら的にはね』
穏やかな声に戻ったクロノアさんはこれまた穏やかに笑っている。
「はたから見れば僕らトチ狂ってるんでしょうね」
『ともさんになんかバレたら俺ら怒られるだけじゃ済まないかもね』
「ともさんは怖いなぁ…」
ザ常識人のともさんにこんなことバレればトラゾーさんと引き剥がされる。
『そこんとこはバレないよ。トラゾーは優しいから俺らのこと裏切ったりしないもん』
「そうですね」
『大丈夫だよ。しにがみくんが心配するようなことはしないから』
「絶対ですよ。クロノアさんたちがそう約束してるから僕もあなたら側についてるんですから。破ればともさんにバラします」
『ははっ、しにがみくんはトラゾー側でもあるからね。尽力するよ』
僕のことを恨みきれない顔をしながら出ていくトラゾーさんを思い出す。
「優しい人なんです。絶対泣かさないでください」
『約束する。じゃあ、俺はすることあるからもう切るね』
「はい」
通話は切られ、僕もスマホをテーブルに置く。
「次会う時、トラゾーさん大丈夫かなぁ…」
あの人らのことだから暴力なんてことはしない。
余すことなく、全てを行使してトラゾーさんに知らしめるのだろう。
如何に自分の発言が彼らにとっての地雷だったかを。
「つーか啼かすって、やっぱりあの人変態だわ」
トラゾーさんには腰痛、関節痛によく効く湿布買っとこうかな。
あとはのど飴とか。
「調べとこ」
パソコンを起動させて検索サイトを開く。
好意が大き過ぎて怖くなるとかトラゾーさんも可愛いとこがある。
いやあの人の可愛いとこは天然というか素でしてるからあざとらしさがない。
「でもまぁ、あの人らに捕まったのは可哀想ではあるかな」
僕も大概、あの人を可哀想な目に遭わせてはいるけれど。
ただ、人間慣れというものは恐ろしい。
いずれ、”普通”になる。
それに順応しようとするのだ。
「早いとこ、あの人たちのとこに堕ちてあげて下さい」
3人の為にも、トラゾーさん自身の為にも。
名の知れない被害者を出さない為にも。
「あ、これとか良さそう。こののど飴とかトラゾーさん好きそうだ」
今頃、3人に囲まれて”お説教”されてるんだろうな、と心の中で手を合わせながら僕はチェックしたものをクリックするのだった。