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まだ時間にはゆとりがあるんだしと、余裕を持って選んだカバンに、ハンカチにティッシュにメイク道具にと持っていくものを詰め込んでいると、傍らに置いていた携帯がブルッと震えた。
「えっ、あれ、もうそんな時間?」
画面には「久我 貴仁」と表示されていて、急いで電話に出る。
「はい、草凪です」
「久我だ。もう下に着いたから、急ぎで降りてきてもらえるか」
「急ぎで、って……」
時計を見れば指定の時刻にはまだ三十分以上はあるにも関わらず、急かすようにも感じる横柄な言い方に、ちょっとムッとする。
「早く来ないと、時間がもったいないだろう」
やや低めな声に、車のエンジンを吹かす大きな音が被さって聞こえ、まさか車で来ていてと、「今行きますから」とエレベーターに飛び乗りエントランスを走り出た。
するとそこには、艷やかに磨き上げられた黒塗りのBMWが横付けされていた──。
マンションの正面玄関前に停車した、目立つシルエットに、(初めから、車で?)と、戸惑いが頭をもたげる。
最初はカフェで少し話すぐらいでいたはずだったんだけどと、向こうがいきなり車で訪れたことに、私は少なからず驚いていた……。