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井川奎
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えっ? 麗華がどうして! 目の前に現れた気の合う友達に、私は喜びより動揺の方が強く働いていた。
本が好きで、早口で、熱弁する。
それが本当の私だと知られたら、クラス全員ドン引きだろう。
え、あ、どうしよう。
私が狼狽えているとショートホームルームは終わり、周りが麗華に熱い視線を送る中、それに反応することなく私の席に向かって歩いて来た。
「ふふっ、驚いた? まさか同じ学校だなんて思わなかったよ。学校名聞いて、もうビックリしちゃって! だから今日、目の前に現れて驚かせようと思ってたんだけど、まさかクラスまで同じだなんて。斉藤文さんって子は何組ですか? って先生に聞いたら同じクラスだって聞いて、職員室で騒いじゃったぁ」
いつもと同じく飾ることをしない麗華は、美人なことを鼻をかけず、周りの羨望の眼差しを気にせず、自然体で私に接してくれる。
だけど。いや、だからこそ私の反応は。
「あぁ、うん……」
だった。
「えっ? あ、れぇ?」
私の態度に開いていた口は閉じ、細めていた目は丸くなっていく。
こっちの顔をまじまじと見つめてきて、人違いじゃないことを確認しているようで、居た堪れなさからか、キレイな顔立ちをしているはずの麗華の顔が歪んで見えてくる。
「あ、のね」
小声でコッソリ話をしようとするけど、それを言うと麗華の大切なものまで否定してしまうようで、私はただ俯き、汗が滲んできたスカートを握り締めることしか出来なかった。
「えっ、なになに? もしかして知り合いってやつぅ?」
「こんな可愛い子とぉ? どうやって知り合ったの~? 羨ましすぎるんだけどぉ!」
張り付いた笑顔でこっちに駆け寄ってきたのは友達三人で、初めて聞く甘い声にゾワッとしたものが立ち込めてくる。
しかも私に話しかけているはずなのに麗華の方を凝視していて、私は麗華と仲良くなるための橋渡し役にすぎないのだと、態度から伝わってくる。
「え、あぁ、うん」
「ねえねえ、文とはどこで知り合ったの? 今度私らも一緒に行きたいんだけどぉ!」
莉乃が直接、麗華に聞く様子から、今の状況がヤバすぎると気付いた。
あっ、待って、どうしよう。
夏だというのに私の体は震え、心臓はバクンバクンと音を鳴らす。
……昨日、麗華と会っていたけど、実は友達三人にも映えスポット巡りに誘われていて、私は宿題が終わってないからとウソを吐いて断っていた。
麗華と友達が会うことはないからって高括ってたけど、今の状態って完全に詰んでるんじゃない?
「ねえねえ、どこで知り合ったの?」
紗枝と真希も興味深々のようで、麗華が話さない理由はもうどこにもないだろう。
ヤバい、ヤバい、ヤバい。どーしよう!
出会いのキッカケを知られてしまったら、何よりも昨日のことを知られてしまったら。
私はウソつきとケイベツされて、クラス中からムシされて、学校での居場所を失くしてしまう……
そうなったら、あの頃に逆戻りだ。
「あ、あのっさ……」
「ねー、ねー、教えてよぉ! 私ら、西条さんと友達になりたくてさぁ!」
乾いた喉から何とか声を出して口を挟もうとするけど、莉乃の声は高くなり、明らかに私の声に被せてきて、ジャマするな、と言いたげなオーラを放ってくる。
あ、もう終わりだ。
軽率にウソを吐いてごまかしてきたツケが、回ってきたということなのだろう。
「……私、斉藤さんと近所でさ、バスの乗り換え分からなくて困っていたところを、声掛けてくれて、案内してくれたんだ。こないだは、ありがとねぇ」
「う、うん」
私から一歩離れ、距離感みたいなものを取ってくれた麗華は、声のトーンも下げ、友達からただの知り合いになってくれた。
咄嗟の機転で、私を助けてくれたんだ。
こんなイヤな私を。
「へぇ、なんだ、そーなんだ。それよりさぁ、私たち、あのアイドルのレイ推しなんだけど西条さんは?」
私たちの関係を聞いてきたのに全く興味ないと態度で返してきた莉乃は、もっとも興味がある話へとシフトしていく。
「あー、ごめんねぇ。そうゆうの興味ないかなぁ」
莉乃の問いに、軽く否定する麗華。
相手の眉がピクピクと動いても一切の反応をせず、変わらずの笑顔を返していた。
「SNSは? 私たち、こうゆうのあげてるんだ」
紗枝は自身のSNSのアカウントを見せると、オシャレな写真が並ぶも、麗華は「キレイな写真だね」とは褒めるけどそれ以上の反応は示さなかった。
「ねえ、これってすっぴんだよねぇ? メイクしたら映えんのに、なーんでしないのぉ?」
「あー、私、肌弱くって。だから、出来ないんだよねぇ」
真希の問いに返ってきた返答はもっとな理由過ぎるんだけど、莉乃も同様に肌が弱くて、メイク落としが滲みるのが嫌だけどオシャレは我慢だと、毎日メイクしている。
だからか、その話を聞いた莉乃は明らかに不機嫌な表情を見せ、私だけでなく紗枝も真希もオロオロとした顔へと変わっていく。
「ねえ、西条さんも一緒にやらない?」
紗枝と真希が何とか場をつなげてかけた声に、私はひたすらに願う。お願い、頷いて!
転校初日に、これはまずいって。
さりげなく麗華に目配せをしたけど、私の視線にニッコリ笑って一言。
「ごめんねー。私、本にしか興味なくてー」
苦笑いを浮かべながらそう言い切る姿に、私の心はヒリついた。
「ほん~?」
想定しない回答に三人が顔を合わせ、隠そうともしないほどの引いた表情をあらわにしてくる。
「え、電子とかじゃなくてぇ?」
「うん、紙が好きなんだよねー」
「へぇ……」
明らかに声色が変わっていき空気がシラーとなるけど、麗華は「荷物の片付けしてくるから、ごめんね」と手をパチンと合わせて、自席に戻って行った。
そのやり取りを遠目から見ていたクラスの子たちも、明らかにつまらなそうな顔をして、「なんか、ガッカリ」と聞こえるように話していて、続いて麗華に話しかけようとする女子はいなかった。
その日から、パタっと途切れた麗華とのメッセージのやりとり。
次会ったら、麗華の話を聞かせてもらう。
その約束が守られることはなかった。
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