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3 - カイマサ

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2025年05月27日

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スタジオの灯りが消えたのは、日付が変わる少し前だった。
天井の照明が一つずつ落ちていき、静寂が訪れる。


まだほんのりと熱を持つ床に、残された二人の影が淡く揺れていた。

非常灯の青白い明かりが鏡に反射し、どこか水の底にいるような、不思議な感覚を生んでいた。


残っていたのは、カイとマサヒロ。


ダンスの最終チェックはとっくに終えていたが、どちらも帰ろうとしなかった。

音楽も止まったまま、スタジオに響くのは、重なり合った呼吸の音だけ。


カイは壁際のバーにもたれ、ゆっくりと水を飲んでいた。

マサヒロは鏡の前、踊り疲れた脚を緩めながらストレッチをしている。


「やっぱカイくんの動き、すごいです。ターンのところとか、なんでそんなにきれいなんですか?」


ぽつりと落ちたマサヒロの言葉に、カイは軽く笑った。


「経験値の差だよ。お前もすぐそうなる。俺なんかよりずっと早く、な」


「……でも」


マサヒロは言葉を切り、少しだけこちらを見た。

汗で濡れた前髪の隙間から覗く目は、どこか寂しげで、それでいて真っ直ぐだった。


「俺、もっと近くに行きたいと思ってます。」


カイは目を伏せた。

けれど、その言葉の重みだけははっきりと胸に響いていた。


「マサ……」


「ずっと、我慢してた。けど最近は……カイくんと一緒に踊るたび、目が離せなくて。ダンス以外のことも、考えるようになって」


マサヒロはまっすぐこちらに歩いてきた。


距離がゆっくりと詰まる。


その歩幅は、迷いがちなようでいて、どこか決意が込められていた。


「触れてもいい?」


その問いが、空気を震わせた。


──もう、止める理由なんてなかった。


カイはゆっくりとマサヒロの顎を持ち上げた。

目と目が合う。


その瞳の奥にある熱に、自分の奥底で眠らせていたものが応えるのがわかった。


「……本当に、いいのか?」


「俺のほうが、ずっと……カイくんを欲しがってる」


答えを聞くより早く、唇が重なった。


最初はやわらかく、触れるだけのキスだった。

けれど、すぐにマサヒロの手がカイのシャツを強く握りしめ、引き寄せた。


カイの背中を押すようにして、マサヒロが自ら距離をゼロにする。


「……ん、っ……カイ、く……」


囁くような声が、唇の隙間から漏れる。


キスが深くなるたびに、マサヒロの肩が震えていた。


汗ばむ肌と肌が触れ合い、衣擦れの音とともに、空気がだんだんと熱を帯びていく。


「嫌だったら、止めろ」


カイは静かに囁いた。


「……嫌じゃない。ずっと、触れてほしかった。夢にまで見てた」


その言葉は、まるで告白だった。


マサヒロの手がシャツのボタンを外していく。


露わになる鎖骨に、呼吸がかかるたび、肌がわずかに粟立つ。


カイもまた、マサヒロの服に手をかけた。

ゆっくりと上着を脱がせ、その肌に触れた瞬間、指先に伝わる熱がたまらなく愛おしく思えた。


「……キレイだよ、マサヒロ」


低く、甘い声。


その一言に、マサヒロの頬が赤く染まる。


耳元で囁くと、小さく身体が跳ねた。


ズボン越しに触れたカイの手に、マサヒロははっと息を吸い込む。

けれど、逃げることはなかった。

むしろ、そっと手を重ねてきた。


「……こっちも、触っていい?」


震える声。


カイは静かに頷いた。


マサヒロの手がカイの腰へと滑り込む。

ぎこちないが、それでも欲しがっているのが伝わる触れ方だった。


「ほんと、我慢できなくなるな」


「……してないで。……全部、ちょうだい」


その一言で、何もかもが崩れた。


いや、もとから崩れていたのだ。


マットの上にふたりは倒れ込むように重なった。


シャツが脱ぎ捨てられ、肌と肌が直接触れ合う。


唇、首筋、胸、腰──


どこまでも貪るように触れ合い、熱を確かめ合った。


「マサ……気持ちいいか?」


「……うん、カイくんの、全部……感じてる……」


目を潤ませ、身体を揺らしながら懸命に応えるマサヒロの姿に、カイは理性を失いかけていた。


繋がったその瞬間、すべての思考が真っ白になった。


ただ、マサヒロの名を何度も何度も心の中で繰り返していた。


「っ、カイ……もっと……奥まで、きて……」


苦しげに、けれど恍惚とした声でそう求められて、カイはもう戻れなかった。


幾度も律動し、揺れ、抱きしめ、名を呼んだ。


心も身体も、すべてを一つにするように。


そして──


「……もう、いく……マサ……!」


「俺も、……いっしょに……カイくん……っ」


ふたりの熱が、重なったまま果てた。


しばらくのあいだ、汗まみれの身体を寄せ合って横たわっていた。


静けさが戻ってきたスタジオに、ふたりの鼓動だけが残っていた。


マサヒロの髪を撫でながら、カイはそっと囁いた。


「これで……お前の気持ちは、十分すぎるほど伝わった」


「……じゃあ、カイくんの気持ちは?」


その問いに、カイは少しだけ沈黙し──そして、やわらかく笑った。


「……もう、わかってるだろ?」


答えの代わりに、やさしいキスをひとつ。


触れるだけの、けれど心に深く落ちていくようなキスだった。


夜は深く、スタジオの空気も冷えてきたというのに、ふたりの体温はまだ消えずに、そっと静かに溶け合っていた。






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