ともあれわたしは手元のオブジェになること間違いなしの弓だったはずのものを持ち直し、矢を手にして構えて引く。
「うっそ⁉︎」
ダリルが引けない弓をわたしが、難なく引いてみせた。もしかして魔獣戦で知らない間にムキムキになってしまったの? 嫌よ? 人の筋肉に憧れてもわたしにはいらないのよ⁉︎
「当ててみろ」
自分に引けない弓を使えるわたしに嫉妬してますねこれは! とはいえまた横に落ちればこの男に鼻で笑われること間違いなし。
プライドを賭けた矢は、曲がることなく的に当たり、鉄の大楯を粉砕せしめた。
「エルフは人間や獣人とは違う理のチカラを操る。それは魔力を用いて作用するもので、代々、一族で受け継がれていくものだ。お前の場合は人間たちのなかで育ったがために、それを学び制御する術を知らなかった」
わたしが孤児院育ちだって言ったときの、ダリルの納得したような反応はそういうことだったみたい。
「今回はエルフの口にする食べ物をもって魔力の制御を、巨鳥の召喚によりワザに触れ、魔剣を持って魔力の行使を無理やり身に付けさせた。さらにはトレントからの逃走劇ではエルフの得意とする植物のテリトリーにおける立体的な高速移動を身につけることができたはずだ。それは予想外の幸運だったがな」
予想外で幸運だったと、ダリルは感慨深げに言うけど本当に死ぬかと思ったから、対価としては当然と言いたい。
「帰りの空の旅が快適だったのは、扱えるようになった風との親和性の高い魔力が身体を包んでいたからだ。そして集めた素材に加え、昔にこの街に来たエルフから譲り受けた弓をバラして組み込んである。お前ゆかりの素材も少しはいっているしな。それはここで作られたお前専用の弓ということだ。」
“昔の、エルフ”……それはもしかしてわかしの……?
さっきの真っ直ぐ飛んだ矢もその威力も、そして気の利かないダリルがせっせと用意して出してくれたティーセットから一連の全てが──嬉しくて涙がでた。
「弓だけでも、嬉しい、のに」
「言ったはずだ“弓を使えるように”してやる、と」
そうだった。情け無い人生相談みたいな客に、使えない武器を売るわけでもなく、使えるようにしてくれた。
最初に、方針が決まったとも言っていた。思えばその時から全てこの人は見てくれていたのだ。
わたしさえ気づいていない事から、本当は未だ見ぬ他のエルフに、両親に会いたくて、その本心を覆い隠すようにただ明るく振る舞うだけの私の色んな顔を引き出してくれた。
まだエルフには出会えていないけど、いつか出会えた時には肩を並べて遜色ないようにしてくれたのだろう。
あのとき逃げた時のことを幸運とダリルはいったけど、わたしの本当の幸運は間違いなくこのヒトに出会えたことだろう。だから──。
「ありがとぉぉ。あなたに、ひっく、出会えてわたしは幸せだよぉぉ」
泣きながら、やっとそう伝えた。
眉を動かすとこしか見せたことのない無愛想な男が、泣き笑いながら告げたわたしに、優しく微笑んでくれた。
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