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ピリリリリ。ピリリリリ。
「えっ?」
切望した音に、機能しなかったはずの耳はしっかり感知して、その音を目で追っていく。
いつ切れてしまうか分からない着信音に、まだ止まらないでと必死に願いながら。
……あれ? 引き出しからは聞こえない。
え、待って、カバンから鳴ってない?
そんなはずないと開きっぱなしになっていたカバンをガパッと開けると、暗い中より光る物が目に入り、教科書を持ち上げるとパサッと細長いものが落ちてくる。スマホだ。
帰り支度した時のことは覚えてない。スマホをポンっと入れて教科書を押し込んだせいのか、最後にスマホを投げ入れたから教科書に入り込んでしまったせいのか分からないけど。ちゃんと片付けしていたら、冷静に探していたら、こんなことにならなかったのに。
「はぁ……、ホント何してるの、私……」
自分のバカさ加減に力が抜けると、膝から先が冷たくなるけど、どうでもいい。呆れながら着信に対応しようと手帳型カバーを開こうとする。
誰かな? お母さん? いや、仕事中だろうし。……あ、もしかして!
それが過った途端、思わずスマホを持つ手に力が入る。
友達の誰か?
莉乃ではないだろうけど、紗枝とか真希とかなら、連絡くれるかもしれない。
大丈夫ー? とか。見つかったー? とか。
期待半分、そんな自分にブレーキをかける自分半分でいると、着信画面には全く想定していない名前が映し出されていた。
「非通知……?」
その見慣れない表示に、少し落ち着いてきていた心拍数はまた上がっていく。
ヒヨっている間に電話はプツッと切れてしまい、結局誰からの着信かは分からなかった。
そっか。この着信音は普通電話のもので、メッセージアプリの音とは別だよね。友達とは基本アプリでやり取りしてるんだから、普通電話でかかってくるはずなのに。
そんなことにも気付かないなんて、ホント私は。
喉奥からザワザワとしたものが押し寄せてきて、気持ち悪さを追い払おうと、大きく息を吸って吐く。
……帰ろう。
今度はスマホをカバンのポケットにしっかり入れて、いつの間にか床に座っていたことにより地面についていたスカートをポンポンと叩く。
そこでやっと思い出す。音を立てないようにしていたのに、ドタバタとしてしまったこと。感情のまま声を上げていたこと。前の席には麗華が居たことを。
私の異様な行動にドン引きだろうと、恐る恐るそちらに目をやると教室には誰も居なかった。
あ……、避けられた。
そっか、そうだよね。
手に持っていたカバンをブンッと振って肩に掛け、降り続ける雨に対していい加減にしてよ! と睨みつける。
完全にただの八つ当たり。
何、ショックとか受けてんの私?
麗華がそうなるのは当然で、そうさせたのは自分じゃない?
なのに、どうして傷付いているの?
──私って、雨みたい。
窓に当たってはカタチを変えていく、雨粒を見て思う。
もし私がカタチを変えても、誰も私を気に留めることなく、蒸発して消えていく運命なのだろう。
だって私には、追いかける友達も、待っててくれる友達もいない。
いつもと違う表情をしていたって、誰も気付いてくれない存在なんだから。
もう、どーでもいいや。
無色な雨粒から目を背け、一人で帰ろうと階段を降りて行くと、すれ違うのは列を作って階段を登っていく陸上部の人たち。
険しい表情をして息を切らせているけど、その姿はみんな色付いていて、キラキラと輝いている。自分のしたいことに突き進んでいるのだと見て取れる。
私は何がしたいのだろう? みんなみたいに推し活もSNSもしたくないし、好きなのは本だけ。
でもそれはコソコソとしていて、なんの輝きもない。
どうして? どうして隠さないといけないの?
別にやってること変じゃないし、普通だよね? 恥ずかしいことでもないのに、どうして?
私も麗華みたいに堂々と本を読みたい。
自分の好きなことを貫きたい。
どうしてダメなの? どうして?
『文、友達はいないといけないの』
『普通の子は、友達と一緒にいるものなの』
『それが出来ないあなたは変わっている』
それがお母さんの、いつもの口癖だった。
確かに、そうしないと私は中学の頃の私に戻ってしまう。
私を見て、クスクスと笑うクラスメイト。
何かあったら私のせいにされ、言い分の一つも聞いてもらえない。
先生から学校であったことを聞き、泣くお母さん。
そうだ。そうだよね。
友達と仲良くしないと。
そうしないといざという時に、味方になってもらえないから。
そうすることが普通なのだから。
#普通
野々さくら
552
芙月みひろ
705
#ざまぁ
まぁ
33,979
#謎解き
井川奎
42
みんなが好きなものが私も好き。それが普通なんだから。
雨みたいに、カタチを変えられるのが私。混ざれるのが私。
川に降り落ちて、そのまま流れに乗っていけば良いじゃない。
例え、その原形がどんなカタチだったか分からなくなっても。
そう思い、私は走って階段を駆け降りる。フワフワと揺れていると錯覚するような、地面を蹴って。
みんな、まだいるかな?
さっきまでイヤな顔していただろうし、動画見てなくても一緒に笑わないと。
階段を降り切って生徒用玄関が見えてくると、まだ三人は居て、スマホは持ってなくて何かを話し合っているように見えた。
間に合った。よし、息を整えたらみんなのところに戻って、スマホあったと軽く話して聞き役に徹する。そしたら……。
「ねえ」
今にも消えそうな声にピクッとなり目を向けると、そこには硬い顔をした麗華がいて、声をかけてきてくれたのに、私と全然目を合わせてくれなかった。