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 角の生えたウサギがいた。

 そんなウサギを見たのは、生れてはじめてのことだった。

 夏休みが終わってから、数週間。すっかり蝉の鳴く声も聞こえなくなった頃。

 私はその不思議なウサギを、小学校からの帰り道、友達と分かれて一人歩いていた歩道の傍ら、神社の建つ小山のすぐ麓で初めて見かけた。

 茶色の毛に黒い瞳。

 長い耳に……鹿のような長い角?

 そんな動物、私は知らない。

 目をまん丸くして見ていたら、その角の生えたウサギはぴょんぴょんと跳ねながら神社の建つ山の中へと消えていった。

 家に帰ってから図鑑を調べてみたけれど、どこにもそんな動物は載っていなかった。

 もしかしたら、図鑑に載っていないだけかもしれない。

 そう思って、私はお母さんにその角ウサギについて聞いてみたのだけれど、

「角の生えたウサギ? きっと見間違いよ。お母さんも、そんな動物見たことないわ」

 と言われてしまった。

 ――見間違い。

 確かにそうかも知れない。

 神社の建つ小高い山は、沢山の木々や草に周囲を覆われている。

 角ウサギを見かけたのはそんな山のすぐそばだったし、ちょっと遠くから見ただけだから、もしかしたら木の枝か何かがウサギの頭から生えているように見えただけなのかも。 

 ……うん、そうにちがいない。

 きっと見間違いだ。

 私はそう納得したのだけれど、その翌日。

「……えっ」

 学校からの帰り道、やっぱりその角ウサギは神社の建つ山の麓をぴょんぴょんと跳ねていたのである。

 見間違いなんかじゃない。

 間違いなく、あの長い耳の真ん中、額のあたりから二本の角が枝分かれするように生えているのだ。

 本当に、居たんだ……

 私は呆気にとられたように、その角ウサギをじっと見つめた。

 それから、もっと近くで観察してみたいという感情がふつふつと湧いてきた。

 私は眼鏡を指でくいっと上に押し上げてから、ゆっくり、ゆっくりとそのウサギに近づく。

 なるべく足音を立てないように、にじり歩くように。

 舗装された歩道から、砂利道に変わったところで、

 ――ザザッ

 私の足元から、砂と石ころが擦れる音が辺りに響いた。

 その瞬間、角ウサギがぴたりと動きを止めて、こちらを振り向く。

「あっ……」

 思わず、口から声が漏れた。

 角ウサギはその真っ黒い瞳でじっとこちらを見つめ、私の様子を警戒した様子で窺ってくる。

 やばい、どうしよう。いくら見た目がウサギとはいえ、角が生えている以上、もしかしたら襲ってきたりするんじゃないだろうか。

 テレビの動物番組でオス鹿同士の角を突きあった激しい争いを見たことがあるけれど、あの勢いで突進でもされたら――と思うと、今すぐ逃げ出したくてたまらなかった。

 いや、でも、相手はそれでも小さなウサギだ。

 角が生えているだけで、大きさそのものは小学校で飼育しているウサギとほとんど変わらない。

 だから、必死に逃げれば、もし襲われても逃げ切れる――はず。

 走るウサギの速さは知っているけれど、たぶん、何とかなると思う。

 そんなことを考えながら、私と角ウサギはしばらくの間、にらみ合い続けていた。

 お互いに身動き一つとれず、ただ時間だけが過ぎていく。

 どうしよう、どうしよう――

 その時だった。

「あぁっ! ジャッカロープ!」

「――きゃあっ!」

 すぐ近くで女の子の声がして、私が思わず叫び声をあげた瞬間、角ウサギも驚いたのか慌てたようにこちらの背を向けて、山の中へと姿を消してしまったのだった。

 そんな角ウサギのあとを追いかけるように、私のすぐ脇を抜けて、ひとりの女の子がランドセルを揺らしながら駆けていく。

 山の中にまで入ってはいかなかったけれど、木々や草の生える際で彼女は眼で角ウサギの逃げた方向を窺いながら、

「あ~ぁ、逃げられちゃった……」

 残念そうに、そう口にした。

 長い黒髪を後ろで束ねた、見覚えのある女の子の姿に、私は声をかける。

「ヒサギさん」

 ヒサギさんはくるりとこちらを振り向くと、

「惜しかったね! あの角、高く売れるし、万能薬にもなるんだよ!」

 とても楽し気に、満面の笑みでそう言った。

白い魔女と小さな魔女

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