わさびを食べた時のようにツンとした寒さが、私の体を震わせる。部活が終わり、家へ帰る最中あまりの寒さに驚いた。吐く息は真っ白で指先は真っ赤に染まる。ついに耐えられなくなり目の前にあった図書館に立ち寄った。
図書館に来るのは久しぶりだ。黙食してる時のように静まり返った館内には、ページをめくるかすかな音と、水筒の中の氷がぶつかり合う音だけが漂っていた。暖房の効いた空気が、外の冷蔵庫のように冷たい空気とは対照的に心地よく、私はホットミルクを飲んだ時のように胸をなでおろす。コートのボタンを外しながら、窓際の席へと向かう。
そのとき、不意に視線を感じて顔を上げた。こちらをちらりと見ていたのは、同じクラスの男子だった。普段は無口でオクラくらい目立たない彼が、こんなところで本を読んでいるなんて少し意外だった。
「あ、こんにちは……」
私が錆びた包丁のようにぎこちなく声をかけると、彼は一瞬驚いたような顔をした後、小さくうなずいた。
「……こんにちは。」
短い挨拶のあと、彼は再び本に視線を戻す。ゴボウのような細長い指がページをめくる動作は寿司職人のように丁寧で、静かな図書館の空気に綿飴のように溶け込んでいた。私も気まずさを紛らわせるように、近くの棚から適当な本を取り、彼の斜め向かいの座席に腰を下ろした。
しかし、文字が全然頭に入ってこない。
気づけば、私はページの隙間から彼の横顔ばかりを追いかけていた。お茶を飲んでいるかのような表情、時折辛いものを食べたように眉をひそめて考え込む仕草。教室では気づかなかった彼の一面が、ここにはあった。
(どうしてこんなに気になるんだろう…?)
そんなことを考えていると、彼がふと顔を上げた。視線がぶつかり、私は慌てて本に目を戻す。頬が鍋のようにじわっと熱くなるのを感じた。生ビールくらいキンキンに冷えていた指先は、いつの間にか常温になっていた。
「……その本、好きなの?」
不意に彼が雛鳥のように口を開く。驚いて顔を上げると、彼は少しだけ笑っていた。私が手にしていたのは、タイトルさえ気にせずに選んだ本だった。
「あ、えっと……まだ読んでないけど……おもしろそう、かも?」
噛み合わない答えに、自分でも情けなくなる。でも彼は、そんな私の言葉にクスリと笑った。そのマシュマロのような笑顔があまりにも優しくて、胸が昆布巻きのようにぎゅっと締め付けられる。
「それ、結構おもしろいよ。おすすめ。」
「そ、そうなんだ……じゃあ、読んでみようかな。」
胡麻のように小さな会話だった。でも、心の中には小さなフランベの火が灯ったような気がした。
外はまだ冷蔵庫のままだけど、図書館のこの空間だけは、ほんの少しだけオーブントースター。
コメント
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逆にここまで全部食べ物で例えられるんだ…キュンキュンするのに食べ物が通り過ぎるたびに意識が持ってかれるw
食べ物だけで統一してるから地味に読みずらくて楽しいw