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どゆことだ!?!?
え、え? え?
恋人の翔太が、とあるフランス人形に閉じ込められてしまった。
それを知ってるのは、俺だけ。
照に相談しようと思ったけど、止めた。
翔太自身がそれを望まなかったからだ。
心の中に直接語りかけてくる翔太の声は、俺にしか聞こえなかった。
『阿部ちゃん、おはよう。昨日はあんまり眠れなかった?』
ビロードのような青い瞳に、俺が反射して映る。
翔太が閉じ込められたフランス人形は、俺たちが最後にデートで訪れた、人形館にあった。処分に困ったアンティーク人形を展示したイベントで、隅にひっそりと置かれた可愛らしい人形。
くりくりとした青い瞳は、横にすると閉じた。年代物の薄汚れた水色のドレスを着ていて、頭にはフリルの付いた帽子を被っている。
髪は金髪だ。西洋の美しい少女を模したものだろう。祖母から受け継いだ形見の人形を、そのまま処分するわけにもいかず、企画展の後に、まとめて供養してもらえるという話を聞いた持ち主が寄贈したものだった。
知り合いのスタイリストさんから、そんな一風変わった企画展をしていると話を聞いて、たまたま翔太を誘ったのだ。
もし、人形に翔太が取り込まれてしまうことがあるなんて知っていたら、誘ったりしなかったのに。その日、トイレにでも行ったのかと思っていた翔太がそのまま姿を消し、件の人形から俺を呼ぶ声を聴き取るまで、俺は真っ青になって翔太を探し回った。
連絡がつかない中、先に帰られたのでは?という人形館のスタッフさんにも少し八つ当たりをしてしまうほどに取り乱したが、人形に話しかけられて、それを譲り受け、連れ帰る許可をもらってからは、家まで『翔太』を大急ぎで連れて帰った。
💚「翔太、翔太、本当にそこにいるの?」
『いるよ、阿部ちゃん』
💚「俺が見える?」
『見える』
人形は、動かない。
愛しい翔太の声が聞こえるだけだ。人形の手をそっと握る。
💚「どう?感じる?」
『いや………』
それきり翔太は黙ってしまった。
人形は表情も変わらない。それはそうだ、『生きて』ないんだから。
その日。
もう翔太の声は聞こえることはなかったけれど、俺は諦めきれずに何度も話しかけては、ベッドの中に抱えて眠った。
枕が涙で濡れた。