テラーノベル
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話をわかってくれてホッとしたのと、旦那さんの奥さんへの愛情と俺たちへの気遣いに、思わず頬が緩む。
頷き、「わかりました。突然の申し出を受け入れてくださってありがとうございます。予約は十八時です。変更の必要はありませんか?」と問う。
「大丈夫です。それより、る――乾さんこそ大丈夫ですか? 少し、体調が良くないように見えますが」
るりちゃんもホッとしているようだが、今もお腹に手を当てている。
「ありがとうございます。少し休めば良くなると思います」
「そうですか」
俺たちは互いに礼を言い、別れた。
これで、るりちゃんの感を回避できたはずだ。
「るりちゃん、車まで歩ける?」
「はい。あの――」
「――車に戻ってから話そう」
俺は彼女の手を引いて、車に戻った。
彼女を乗せ、自動販売機でミネラルウォーターを買って飲ませる。
「大丈夫?」
るりちゃんはシートに身体を預け、頷いた。
だが、まだ少し辛そうだ。
俺はるりちゃんにシートを倒すように言い、彼女は素直に従った。
「とりあえず、休めるところに行くね」
そう言って車を発進させる。
るりちゃんは、休めるところがどこかも聞かない。
余程ツラいのか、安心しきっているのか。
どちらでも心配だ。色んな意味で。
とにかく、走り出してすぐに彼女は目を閉じ、到着までの二十分ほどはそのままだった。
「着いたよ?」
眠っていたのかはわからないけれど、ゆっくりと目が開いた。
「どこ……ですか?」
聞くのが遅い。
相手が俺だからいいようなものの、危機感が足りなすぎる。
「俺の家」
「……へっ!?」
まったく、可愛くて心配だ。
頭が働いていないようだが構わず、部屋に連行する。
「あれ?」
エレベーターに乗ってすぐ、るりちゃんが階数ボタンを見て首を傾げた。
「凱人さんの部屋って二十階じゃないんですか?」
「え? 五階建ての五階だけど」
「でも、専務が確か……」
誉が? ああ!
「ごめんね。きっと試されたんだよ」
「え?」
「るりちゃんが俺のステータスに釣られないか」
「はぁ……」
「ごめんね?」
るりちゃんは自分が試された意味がよくわかっていないようで、本当に気にしていないようだ。
誉は俺がまた騙されないようにと試したのだろうが、恐らく、彼女には全く通用しなかっただろう。
「あ! ああ!」
五階に到着すると同時に、るりちゃんが納得したように言った。
「私がストーカーにならないようにですね」
謎が解けてすっきりしたのか、満面の笑みだ。
本当に可愛くて仕方がない。
「あれ?」
今度はなんだろう。
「部屋、ひとつですか?」
エレベーターを出てすぐ目の前に玄関ドア。その横には地下のゴミ収集場に繋がるダストボックス。
「ああ。このマンションはワンフロアワンルールなんだ」
「えっ! 結構大きな建物じゃなかったです?」
「うん。4LDKだからね」と言いながら、形ばかりのカードキーをかざす。
そもそも、エレベーターを起動するためにカードをかざしたら、その住人の住まいまでしか行けないようになっているから、玄関の鍵はあまり意味がいない。
来客は、迎えに下りなければならないのが面倒だ。
「ええっ! あ! ご家族とお住まいですか? 私、手土産も何も――」
「――ひとりだよ? さ、どうぞ」
ドアを開け、手招きする。
るりちゃんはゆっくりと、というか恐る恐る足を進める。
「4LDKにひとりですか?」
「そう」
「それは……寂しいですねぇ」
「え?」
「え? あ、すみません! 知った風に……」
「いや? 全然……」
胸の奥が熱くなる。
やっぱり、るりちゃんは俺が知っている女性たちと全然違う。
以前、東京に住んでいたことがあって、芸能人も住んでいると噂のあるタワーマンションだった。
当時の同僚に、誘導尋問のように住所を割り出され、数人が押しかけてきたことがあった。
『すごーい!』と、女たちが黄色い声を上げた。
『さすが、金持ちのボンボンは違うよな』と、俺の素性を知っている男が皮肉たっぷりに言った。
『けど、思ったよりこじんまり? だね』と、女が言葉の半分の大きさのオブラートで包もうとして失敗した。
タワマンとは言っても、俺の部屋は中層階の単身者用で、2LDK。一人暮らしには十分で、現に一部屋は空いていた。
『そういうところが残念だよなぁ』と、男が笑い、女も笑った。
俺が選んだわけじゃない。
誉が友人の頼みで買い、俺が住んでいるだけだ。誉が東京に来た時に泊まるための部屋で、管理人代わりだ。
あの時の同僚たちが今の俺の部屋を見ても、やはり残念だと笑うんだろう。
部屋は広くても、五階だ。
「二十階なら、景色を見においでって言えたんだけどね?」
何となく自虐的な気分になって、言った。
が、るりちゃんは胸の前で両手をぶんぶんと振った。
コメント
1件
るりちゃんは、本当にいい子だわ😊